婚姻の儀
大聖堂の扉の前に到着し、先にお兄様が中に入った。少しして私達も聖歌隊の澄み切った歌声と共に、ニコライのエスコートで大きく開け放たれたその先へと進む。
これはこの国の王族特有の慣例で、王族の婚姻の儀を王が壇上で見届ける。それに従ってお兄様と教皇の下に跪き、まずは教皇の言葉を待つ。
「汝、ロード・ニコライ・シャドミウスは、新婦オフィーリア・シャルム・エドモンド・ミシェル・オブ・アウラニッタを健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、死が二人を分かつまで、愛し、敬い、裏切らぬ事を誓いますか?」
「はい、誓います。」
先程までの緊張を収めてしっかりと頷いたニコライの横顔を見て、おかげで私も表情には出していなかったそれを落ち着かせることが出来た。
「汝、オフィーリア・シャルム・エドモンド・ミシェル・オブ・アウラニッタは、新郎ロード・ニコライ・シャドミウスを健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、死が二人を分かつまで、愛し、敬い、裏切らぬ事を誓いますか?」
「はい…誓います。」
ついに結婚が叶ったという感動と共に教皇様に返事を返すと、今度はお兄様の番になる。お兄様は教皇様と入れ替わりに立ち上がって参列者を見渡した。
「この婚姻に意義のある者はこの場で名乗りを上げよ。異議なき場合は拍手を持って祝福せよ。」
お兄様は本当は自分が一番異議を唱えたいといった顔で、しかしそれは親族のみの参列者達全員の拍手によって了承されてしまった。
ちなみに新郎側の参列者は、ニコライは両親共に既に亡くなっていて、兄弟や他の親族も黒騎士である為一人も参列しておらず、新婦側もある程度の年齢のお兄様の子ども達だけという奇妙な光景となってしまっている。
「余の名に於いて、オフィーリア・シャルム・エドモンド・ミシェル・オブ・アウラニッタ王女とニコライ・シャドミウス子爵の婚姻を認める。」
「「感謝致します。」」
さてと、これで儀式は終わり。次は国民にバルコニーからお披露目をして、夕方から各国の代表者や自国の貴族を招いての披露宴。終わったらようやく新しい屋敷に入り、暮らし始める事になる。既に引っ越しは終えていて、使用人もお披露目が終わればほとんどが先に移動する事になっている。
「ねえ、ニコライ様。これで一応夫婦になったのだから、これからは名前で呼んでくれないかしら?敬称は無しで構わないわ。」
「し、しかし殿下……殿下は臣籍降嫁された訳では無いので、敬称をお付けしないと言うのは少々憚られます。」
「じゃあせめて身内だけの時だけでも良いわ。ずっと堅苦しいままだと息が詰まるでしょう?」
「…それではそうさせて頂きます。オフィーリア…様。」
さすがに呼び捨てはまだ出来ないか。こっちは心の中では呼び捨てにしちゃってるから、ちょっと申し訳無いのよね。
「まあ良いわ。じゃあこれからよろしくね。」
「はい。オフィーリア様。」
補足
伯爵であるニコライの家はニコライの兄が継いでいるので、ニコライは兄の従属爵位を貰って身分は子爵です。