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主に恋愛している短編集(連載作品以外)

あなたのおならは臭すぎる

「あなたのおならは臭すぎる。」


 個性ともいえるような臭さは彼のものだった。


 そっと潜み、水面に浮かぶクラゲのように、

気が付いた時には私の鼻に漂う彼のおなら。


 おなら、()放屁(ほうひ)、ガス。


 いろんな呼び方があるけれど、

彼のを言うなら、やっぱりおならかな。


 いったい何を食べれば、そんなおならが出てくるのか。


 子供の頃から不思議だった。





 小学校で初めて嗅いだ彼のおなら。


 嗅ぎたくて嗅いだわけじゃない。


 彼の隣に私がいた。


 彼の周囲に私がいた。


 同じ教室で彼がおならをした。


 何かが破けるような音がした。

何かが通り抜けるような音がした。

音もなく広がっていく時もあった。


 みんながみんな、彼を見た。


「あなたのおならは臭すぎる。」


 風船が破けるような、

車が走り抜けるような、

急に花畑に立たされた時のような、


 彼は少し恥ずかしそうに、愛想笑いをしていた。


「あなたのおならは臭すぎる。」





 小さな頃から臭かった。


 大きくなっても臭いまま。


「あなたのおならは臭すぎる。」


 おならは我慢できない彼だけど、

からかわれても我慢できていたね。


 からかわれても我慢していた彼だけど、

おならは我慢できていなかったね。


 酔っ払ったサラリーマンに絡まれた時も、

不良たちに絡まれた時も、

あなたはおならを我慢できなかったね。


 酔っ払ったサラリーマンも、不良たちも、

あなたのおならを我慢できなかったね。


「あなたのおならは臭すぎる。」





 小さな頃から臭かった。


 大きくなっても臭いまま。


 いったい何を食べれば、そんなおならが出てくるのか。


 子供の頃から不思議だった。



「ママー、パパがまた おならしたー。」


 まったく、何を食べてもそんなおならが出てくるのか。


 我が子を抱き上げて彼に言う。



「あなたのおならは臭すぎる。」



 彼は少し恥ずかしそうに、愛想笑いをしていた。


「あはは……ごめんね。」

「いいのよ。」

「パパ臭いー。」


 私も この子もつられて笑った。

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