あなたのおならは臭すぎる
「あなたのおならは臭すぎる。」
個性ともいえるような臭さは彼のものだった。
そっと潜み、水面に浮かぶクラゲのように、
気が付いた時には私の鼻に漂う彼のおなら。
おなら、屁、放屁、ガス。
いろんな呼び方があるけれど、
彼のを言うなら、やっぱりおならかな。
いったい何を食べれば、そんなおならが出てくるのか。
子供の頃から不思議だった。
*
小学校で初めて嗅いだ彼のおなら。
嗅ぎたくて嗅いだわけじゃない。
彼の隣に私がいた。
彼の周囲に私がいた。
同じ教室で彼がおならをした。
何かが破けるような音がした。
何かが通り抜けるような音がした。
音もなく広がっていく時もあった。
みんながみんな、彼を見た。
「あなたのおならは臭すぎる。」
風船が破けるような、
車が走り抜けるような、
急に花畑に立たされた時のような、
彼は少し恥ずかしそうに、愛想笑いをしていた。
「あなたのおならは臭すぎる。」
*
小さな頃から臭かった。
大きくなっても臭いまま。
「あなたのおならは臭すぎる。」
おならは我慢できない彼だけど、
からかわれても我慢できていたね。
からかわれても我慢していた彼だけど、
おならは我慢できていなかったね。
酔っ払ったサラリーマンに絡まれた時も、
不良たちに絡まれた時も、
あなたはおならを我慢できなかったね。
酔っ払ったサラリーマンも、不良たちも、
あなたのおならを我慢できなかったね。
「あなたのおならは臭すぎる。」
*
小さな頃から臭かった。
大きくなっても臭いまま。
いったい何を食べれば、そんなおならが出てくるのか。
子供の頃から不思議だった。
「ママー、パパがまた おならしたー。」
まったく、何を食べてもそんなおならが出てくるのか。
我が子を抱き上げて彼に言う。
「あなたのおならは臭すぎる。」
彼は少し恥ずかしそうに、愛想笑いをしていた。
「あはは……ごめんね。」
「いいのよ。」
「パパ臭いー。」
私も この子もつられて笑った。