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02/マレッダの世界

 不思議な夢を見ている。

 暗闇の中で、誰かが語りかけてくる夢だ。



 ──やあ、ヒビヤ ユウキくん。調子はどうだい?今日は君にアドバイスをあげようと思ってね。


 ──君がワープした異世界だけど、おめでとう。大当たりだよ。


 ──その世界で、多くのことを学びなさい。


 ──でも、あんまり長居はしないようにね……。



「大当たりだけど、長居はするな、ね」

 ユウキは見知らぬ部屋のベッドの上で目覚めた。ここはどこだろうか。

 まあ、十中八九異世界なんだろうが……。

 ユウキはベッドから起き上がる。するとすぐに、あることに気が付いた。

「なんだ?空気中に、魔力がある?」

 俺の世界とは明らかに空気が違う。そういえば……あの男が空気中のマナ濃度がどうとか言っていたような……。


 窓から外を見てみるユウキ。すると……。

「……海?」

 視界に映ったのは、家々の屋根と、どこまでも広がる青い海。

 青い海と青い空が混ざり合い、水平線が曖昧になっている光景は、とても幻想的なものを感じた。

 ユウキがその光景に見惚れていると、背後からドアが開く音と、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。


「目が覚めたか」

「お前は……!」

 咄嗟に身構えるユウキ。目の前に現れた男は、元の世界にユウキを探しに来た魔法使いの男だった。

「昨日は手荒な方法をとってしまいすまなかったな。本当は話し合いの上、同意を得てこちらに来てもらいたかったが、時間が無かった故、ああするしかなかったのだ」

 昨日。今この男はそう言った。俺がここに連れてこられてから、まだそう時間は経っていないらしい。

 そして、今の発言でわかったが、どうやら敵意は無いらしい。


「そうだったのか……わかった。それで?ここはどこなんだ?俺をどうするつもりだ?」

「それらに関してはこの後話そう。……そうだ。君の名前は?」

「ヒビヤ ユウキだ。あんたは?」

「俺はリンド。よろしくな、ヒビヤ ユウキ」

「ユウキでいいよ。」


 リンドと名乗った魔法使いの男は、自己紹介を終えると、自身が着ているのと同じ、赤を基調としたローブを取り出した。

 それをユウキに手渡すと、それを羽織るようにユウキに指示する。

「今から移動するんだが、君の格好は少し目立つ。あと、俺からは離れないように」

「目立つ?」

 ユウキが自身の格好を見ると、上下ともに黒のジャージだった。俺の世界では普通の部類の格好なのだが、ここではどうやら違うようだ。

 リンドに言われた通りローブを羽織る。サイズはピッタリだった。


 リンドと共に建物を出ると、そこにはとても美しい街並みが広がっていた。レンガのような建築材で統一された町並みを、たくさんの水路が配置されている。

「すご……」

「美しいだろう。このマレッダの街は」

 マレッダの街と言うのか。確かに美しい。ここはいわゆる水上都市というヤツなのだろうか。水路にはこの町の住民が船に乗り世間話をしたり、買い物をしている様子が見えた。


 しばらく移動を続けると、厳かな神殿のような建物が目の前に表れる。

「ここだ。君にはここで、このマレッダの王と会ってもらう」

「王様!?なんでいきなり?」

 ユウキの脳内にアニメでよく見る、きらびやかな王冠に赤いマントという、典型的な格好の王様が思い浮かべられる。

「君がワープポイントだからだ。さあ、着いてきなさい」

 ワープポイントだからって……。というかそもそも、なぜ俺なんかにワープポイントの力が宿ったのだろうか。


 ユウキは大賢者が言っていた言葉を思い出す。

 大体のワープポイントは山だったり大木だったりで、命ある人間に力が宿るのは稀。大賢者はそう言っていた。だけど、なぜ命ある人間に力が宿るのが稀なのかについては大賢者は語らなかった。

 “命ある人間に宿るのは稀”だから命を落とした人間、つまり死体には力が宿ることがよくあるのだろうか。実際に異世界のどこかに死体がワープポイントに指定されている所があるのか?

 そもそもワープポイントってポンポン増えるものなのか?


 ……考えてもわからないことが多すぎる。それに、今朝の不思議な夢……。

 “この世界は大当たりで、多くのことを学べる。しかし長居はするな。”

 多分だけど、あの夢で語りかけてきた声の正体は大賢者な気がする。わからないことだらけのこの世界では、この声に従うことが最適解ではないか?

「……よし」

 なら優先してやるべきは情報収集だ。この世界のこと、魔法のこと……。そして、俺の世界への戻り方。


 決意を抱いたユウキは、この世界の王に合うべく、歩を進めたのだった。



 ──マレッダの王と呼ばれた人物は、ユウキの想像とは少し違う風貌をしていた。

 王様というより神官に近い服装の老人は、ユウキを目の前にすると小さく感動の声を上げ、ユウキに声をかけた。


「お主がワープポイントの少年だな?ようこそ。マレッダの世界へ。名前はなんという?」

「初めましてマレッダの王様。ヒビヤ ユウキです。」

「ヒビヤ ユウキ……。お主は、なぜこの世界に連れてこられたのか、その理由は聞かされておるのかな?」

 マレッダの王は、そう問いかけてくる。

「いえ……。俺が、ワープポイントだからということしか」

「ふむ、リンドよ。それくらい伝えておかんか」

 マレッダの王はリンドに向けて厳しい声色で言う。

「申し訳ありません。何よりもこの世界に連れ帰るのが最優先と判断してしまいました」

「そうか。まあ、良い。では私が説明するとしよう」


「ヒビヤ ユウキよ、訳も分からずこの世界に連れてこられて大層困惑しておるだろう。すまないな」

「では早速だが、お主がこの世界に連れてこられた理由を説明するとしよう」

「率直に言うとな、他の異世界との戦争の抑止力にする為じゃよ」

 戦争の抑止力?俺が?


「ワープポイントというだけで抑止力になるのですか?」

「もちろん今のままでは抑止力にはならない。故に、お主には魔法の訓練を受けて貰おうと思っている」

「魔法使いとして実力を持つ者がワープポイントを宿していたなら、それだけで簡単に一国を滅ぼせるじゃろう」

「……だが、私たちは戦争を望んではいない。しかし他の世界からの攻撃は度々受けておっての」

 ……なるほど、それで抑止力を欲しているのか。


「でも、王様。俺がこの国に居たら、それこそ戦争になってしまうのではないですか?たぶん、沢山の世界が俺を求めて攻め込んで来ることになってしまうんじゃ」

「そうなる前に、お主には真っ先に守護魔法を覚えてもらう。守護魔法で他人の魔力を遮ることで、お主に直接ワープされることを防ごうというわけじゃ。この国にあるワープポイントにも守護魔法がかけてあって、普段はそれで部外者の侵入を防いでいる」

 守護魔法……。俺が大賢者から貰った魔法とは別の魔法だ。覚えておいて損はないな……。

「わかりました。では、よろしくお願いします」

「よし。お主が守護魔法を習得するまでは、この国の魔法使いにお主のことを守らせよう」


 俺が守護魔法を習得した後も、暫くはこの世界に留まることになるだろう。その間にできる限りのことをしよう。……そして、いつか必ず俺の世界に帰るんだ──……


 *


「はぁー疲れた……」

 ユウキはベッドに飛び込み、そのまま脱力する。

 異世界──マレッダの世界に来て、4日が経過していた。……最初の1日は眠っていたので実質3日だが。

 この間、ユウキは守護魔法の習得だけでなく、この異世界の文化や魔法の仕組みなどについても学んでいた。


「ふう……」

 ユウキは目を閉じて、学んだことを思い出す。まずは魔法のこと。


 魔法の仕組みはいたってシンプル。体内の魔力を一箇所に集中させ、頭の中でどんなことをするかイメージする。

 炎を出したければ燃え盛る炎をイメージし、傷を癒したければ損傷部位が治っていく様をイメージする。守護魔法なら自身が殻をまとっているさまをイメージする。

 このイメージも最初はまったく安定せず、魔法が不発に終わる。さらに、イメージにも人によって得意不得意があるらしく、不得意なイメージを補うために呪文が存在するらしい。呪文は人によって様々。自分がイメージと結びつけ易い言葉を選ぶのが主流のようだ。


「……でも、俺が大賢者から貰った魔法は、引き寄せて壊すことしか出来なかったんだよな……」

 そう、俺が魔法を学んだ上で、ここが一番困惑した。魔法とは、自身の魔力をイメージによって加工し、現象を引き起こす。ただ、大賢者から貰った魔法はそうではない。最初から“こういう魔法”と決められていて、そこに魔力だけ通せば作動する、頭の中でのイメージは不要。そんな感じ。引き寄せる過程で、イメージを介入させ、炎などをを発生させることは出来ず、ただ引き寄せ、壊す。


「まあ、大賢者から貰った魔法だから、何か特別な力があるのかもしれないな」

 そう結論づけるユウキ。考えてもわからないことは後回しだ。


 次に、この異世界のこと。


 このマレッダの世界にはなんと一つの島と広大な海しか存在していないらしい。広大な海の果ては滝のようになっていると言われているらしいが、真偽は不明。実際に確かめた人は存在しないようだ。


 そして唯一の島はそこまで大きいサイズではないらしく、魔法をベースに人工島を作ることによって民が不自由なく生活するのに必要な面積を確保しているとか。

「魔法ってほんとなんでもできるんだな……」

 とはいえ魔法ベースの人工島の維持には相当な力を割いているらしく、それ故自由に動ける魔法使いは限られている様だ。


 ……最後に、この世界に存在するワープポイントは一つだけ。“マレッダの神木”と呼ばれる樹木にワープポイントが宿っている。俺がマレッダの王様と会った神殿内にその樹木は存在する様で、魔法使いたちの守護魔法によって守られている。


 この世界の人が大勢住むには向いていない地理、その地理を補強するために魔力を割く魔法使いたち、一つしかないワープポイント……。

 これらの条件が合わさって、この世界は非常に打たれ弱い。他の異世界に本格的に攻められると恐らく、3日と持たないだろうとリンドは俺に教えてくれた。


 それ故に、ワープポイントを宿した俺を真っ先に確保できたのは幸運だったらしい。これにより、ほかの異世界に対して少しでも対抗しやすくなれば、この世界はまだ生き残り用がある、らしい。


「……でも」

 というか。そもそも。

 俺はこの世界に永住するとは一言も言っていないし、その気もない。

 だが王様たちは、俺がここに留まること前提で話を進めている。

 ……俺がこの世界から出て行くと、彼らは困るだろうか。

「困るだろうな……でも、俺の最後の目標は、戻ることだ。俺の……世界に……」


 まぶたが重くなってきた。明日も守護魔法の習得の為の訓練だ。

 ……ああ、自宅のベッドが恋しいなぁ……。


 ユウキは郷愁を胸に、静かに眠りに落ちていった。

 ──この夜が、マレッダの世界で過ごす最後の夜になるとも知らずに。

 

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