4話 爺様
転生して小さな赤ん坊の姿になった俺だが、驚くほど早く成長していき約一週間ほどで身長150㎝ほどになっていた。
しかし前の身体よりは圧倒的に低く特に目の高さが低いのは違和感があって不便だった。
だが不便なことだけではなく身体のスペックが異様に高くなっていた。
棚の上にある本を取ろうと思い切ってジャンプをしたら建物の天井を突き抜けてその建物が豆粒ほどの大きさに見えるほどまでに高く飛んでしまい、そしてそこから急降下し人生初のスカイダイビングをした時は本当に死を覚悟した。
しかもさらに驚くことにその高さから落ちても無傷で身体に痣ひとつすら出来ていなかった。
また空中を漂うキラキラとした黄色っぽい『流れ』を見ることができるようになった。
母様が言うにはその『流れ』は魔力というものらしい。
明らかに地球ではないこの世界ではこの力は普通なのか、と尋ねたら『母様』は「それはちがう」と優しく微笑みながら言った。
じゃあなんでこんな力があるのか、と聞いたら『母様』は困ったように「あなたは特別だから」と言っていた。
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この世界に赤ん坊の姿で来てから5年がたった。
身長は180㎝を超え最初は戸惑っていた身体能力も大体は使いこなせるようになった。
そして今日も『爺様』、『母様』のお父様に稽古をつけてもらっていた。
1年ほど前からほぼ毎日『爺様』の所に行って剣の稽古をつけてもらっている。
最初は痛そうだし疲れそうだから剣なんて習いたくなかったけれども、読むことができる本はすべて読み切ってしまいやることがなく退屈だったから、としぶしぶと通っていた。
『爺様』は顔は怖いけれどもとても優しく、なによりあからさまに嘘な武勇伝がとても面白かった。
曰く、大量発生してしまった竜五万匹を一撃で倒した。
どうせトカゲ五匹を殺したぐらいだろう。
曰く、自分は世界の危機を救ったから全ての人にあがめられている。
もう年なんですね。わかります。認知症はなかなか治らないようですけど頑張ってくださいね。
曰く、武器もなにも持たない丸腰の状態で神二人と戦って圧勝した。
認知症の上に厨二病とはかわいそうに。
でも武勇伝は嘘だろうけど確かに剣の腕前はすごくまだかすり傷一つ『爺様』には入れることができていない。
「ハアァ! セイ! オリャアァ!!」
声を上げながら1mほどの長さの木刀を上から下に、左から右に、そしてななめに『爺様』に振るがすべてを受け流される。
「ハハハッ そんな遅い攻撃なんぞ当たらないぞ! 一撃ぐらい入れてみろ!」
「オリャアァァ!!!」
たくましい声とともに横薙ぎに剣を振る。
「フンヌ!」
『爺様』が俺の剣を吹き飛ばす。
「今日はこれで終いじゃ。また明日な。」
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(また一撃も攻撃を当てることはできなかったな
くそぉぉぉ!明日は絶対に当ててやる!)
幻想的なこの世界に二つの色の異なる太陽がきれいなグラデーションを作り貫二を温かく照らしていた。