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まま  作者: ひろな
1/1

どこにいるの…

まま…雨がふってるよ

大きな窓に手をつくと今日もまた

一つため息をついた。

わたしは、なお小学1年生。

六畳半の両壁にそれぞれ置かれた2段ベッドの

左側の下、ここが私のお家。

上から垂れ下がったカーテンを閉めて

布団に潜りこむ。

どうか明日は会えますように…


おはよー。よく眠れたか?

うん。


ほんとうは眠れなかった。

だって今日から夏休みだもん。


なおちゃん残さないのよ。

うん…ちょっとだけ頷く


みんながバタバタと朝の準備をしている中

少し口に入れては、お皿とにらめっこ…

今日は食べなきゃ…

そんな事をしているうちに

みんなは準備を整え楽しそうに夏休み中に

やりたい事や計画を話しあっている。


もう、またなの?

いいから着替えてらっしゃい。


うつむき加減で部屋に戻る足は重く

幽霊みたいにすりすりと長い廊下を

歩いて階段を上がる。

部屋に戻るとみんなの身の周りの物が

綺麗に整頓され洋服ダンスは自分の棚以外は

空っぽになっていた。


わたしだって…

ベッドの下のボール箱から

リュックを引っ張り出し急いで着替えると

残りの洋服をリュックに押し込み

一目散に玄関にむかった。

玄関の扉を勢いよく開けると、

なおより少し上の女の子が車に乗り込む

ところだった…

次々と車が出入りし1人また1人

とうとう最後の1人が乗り込むと

車の窓からいってきまーすと元気な声が

遠ざかっていった。


なおはリュックの肩紐を握り閉めたまま

玄関に突っ立っていた。


なお。

…中に戻ろう。


背中でする声にぶんぶんと首を

ふった…




ながいながい夏休み。

今日も縁側で外を見つめている。

いつからだろう…

なおが親を求めるようになったのは


生後まもなく、とあるマンションの一室の

押入れで見つかったなおは

そのままこの養護施設に引き取られた。

母も父も知らず物心ついた時にはここにいた。

ここにいる先生やスタッフ、ボランティアの大人、

十八歳からニ歳三歳児の様々な子供がいる

この環境がなおの普通であった。

だか徐々になおは周りとは違う、また

ここいる施設の子とも違う事を感じていった。

それは小学校に入学する頃には

どんどん大きくなっていた。

この施設の子供達には何らかの理由で

一緒には住めないが親がいた。

だか長期の休みや親の手続きにより

一時的に親のいる家に帰るのだ。

なおはこの場所から離れた事もなければ、

親と過ごした事はなかった。

ある時はこの施設の先生が本物の親だと

思い込み。周りの子供達から聞いた親に甘える

ワガママを言うそんなことを先生達に繰り返した。

それが違うとわかるとまたなおの小さな心は

疑問となんだかわからない不安や

寂しさに襲われるのだった。

(いい子にしてたらパパとママが迎えにくるよ)

いつしか子供達の間ではこの言葉が

魔法のように繰り返されるようになった。

いい子…

まだ見た事もない、暖かく柔らかいような

だだ全てを受け止めてくれるような

その人達を追い求めては一生懸命〝いい子〟に

なるのだった…

しかしそれも長続きはしなかった。

いくら嫌いなおかずを残さず食べても

先生やスタッフのお手伝いをしても

自分より小さな子の面倒をみても

〝いい子〟(親が迎えにくる)にはなれなかった。


なおは自分のママ知らないの?

うん…

パパは?

…知らない。

いい子じゃないんだ

……………

………っ

捨てられっこだからな!なおは。

……………


こんなやりとりも慣れっこになり、

親はいないものだと言い聞かせながら

矛盾した心の奥底で湧き上がる何かに

戸惑いながら、いつも窓の外を眺めるのが

習慣になっていた。



ふと目が覚めるとベッドの上だった。

寝ちゃった…

先生かスタッフが縁側から移動させたのだろう。

なおは夜があまり好きではなかった、

みんなが寝てしまって、もし…パパとママが

迎えにきてくれたら誰も気づかないまま

帰ってしまうのではないかと不安になるからだ。

昼間は人の目がある安心からなのか、

夜中寝れないための睡魔が襲うのか

日中目を閉じてしまう事が多かった。

目をこすり起き上がると食堂に向う

いつもは賑やか過ぎるこの場所もしーんと

静まりかえっている。

長テーブルがいくつか

並び両脇に椅子が綺麗に机の下に

入っているのを眺めながら冷蔵庫に向かうと

台所の奥からスタッフの香織が顔を出した。


なおちゃん起きたの?

喉乾いたでしょ。


麦茶を取り出しコップに注ぎ手渡してくれた。

いっきに飲み干すとお代わりをねだり、

喉の渇きが満たされると、

食堂の隣にある部屋のソファーに香織を

引っ張っていった。

なおはこの施設の大人の中で

香織が一番好きだった。

いつも笑顔でなおちゃんなおちゃんと

優しく手をやいてくれる香織。

一度、なおのママになってと頼んだ事がある。

返事はなかったけど力一杯抱きしめられたのを

覚えている。

たわいもない話しをしていると

後ろから声がした。

ここ施設の経営者の織田川さん

みんなからは先生と呼ばれている。


香織さん今から来客があるから外してくれ。

分かりました。

なおちゃん、行きましょう。


私たちは縁側のすぐ前にある

ちょっとした畑にでた。

不恰好に育ったキュウリやトマト、

食べごろな物を選らんで2人で収穫していく。

収穫用のハサミでパチンパチンと音を立て

いると、ふと、部屋の中に目をやった。

先生と話してる人誰だろう。


香織ちゃんあれ誰?


普段人見知りな、なおだが自分の知らない

大人には凄く興味があった。


あ、あれはねケースワーカーさんよ。

ケースワー❔

なおちゃんやここのお友達を助けてくれる人よ。

香織ちゃんと同じ…

そうね、でも私とはちょっとお仕事が違うの。

ふーん。


そう言えばここに来る子達は必ずこの

ケースワーカーという人達に連れられやってくる。

お家に帰る子達とも時々このケースワーカーが

話しに来て、あれやこれやとお家の事を聞いている

ようだった。


なおは手に持ったハサミを収穫カゴに入れ

縁側から靴を脱いで先生の所まで走った。

先生の座っているソファーの後ろから頭だけ

出すと顔だけ見える位置から話しかける。


あ、あの…

な、なおの…

なおのパパとママ…

知ってる…?


ケースワーカーが答える前に先生が口を挟んだ。

この子は親を知らなくて…


するとケースワーカーはニコッと笑い

なおを見つめるなりこちらに近づいてくる。

なおは少し怖くなってケースワーカーが近づいて

来るのと反対側からソファーを周り

先生にしがみついた。


ケースワーカーはこちらにくるのをやめ席に

戻ると、こちらを見つめて口を開いた。


ごめんなさぃ。

あなたのパパとママは知らないの…


織田川さんこの子里親の経験は❔


先生は考えてはいるが…と言うと続けて、なおの

これまでの話しをしているようだった。


話しの内容はよくわからなかったが。

このケースワーカーはなおの親を知らないと

言う事と、里親?と言う者に

なおを合わせようとしている事だけは理解できた。

里親に会うのは小さければ小さいほうがいいらしい…


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