0083話 sideオロス
暑い……
今だけは、ギラギラと刺すような日差しが恨めしい。
「おい!豚ぁ!!早くしろ!!!」
憎らしいほど元気な棟梁の声が耳に痛い。周囲からはトンテンカンと、リズムよく木槌を振るう音が響く。物理的に重くなった体に鞭を打ち。担いだ材木を抱え直し、早足で向かう。
……冒険者になった筈なのに、何してんだろうな……
「ちんたらしてねぇで、早く来いや!!」
催促の声、それに怒鳴り返す訳にもいかず。無言のまま、できるだけ早く現場へと戻る。目の前には、いくつもの細い鉄柱で組み上げられた足場と、それに囲まれた木造の骨組み達。そして、そこで働く同僚たる大工チームの面々。組み上げられた足場の上では、先程から罵声をこちらに投げつけてくる棟梁たる親方の姿も見える。
……ほんと、なんでこんなところで家作りの手伝いなんてしてんだろう。
冒険者となり、日銭を稼ぐため。討伐や採取に明け暮れる筈だった日々を思い浮かべ。オークとなったオロスは一人ごちる。
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冒険者ギルドでの試験(?)を終え、途中市場をエリと冷やかしながら。現在世話になっている飯屋『ハチミツ亭』へと帰りついたオロス達。
扉をくぐると、中は食事を取る様々な人で溢れ帰っていた。鎧を身に纏う冒険者や兵隊のような人。小綺麗な服に身を包む商人のような人。はたまた、畑しごとを終えた農家の人だろうか、泥のこびりついたズボンの人。
本当に、種々様々な人達が食事と、共に座る者達との会話を楽しんでいた。何人か、入って来たこちらへと目を向けた者も居たが、すぐにこちらへの興味を亡くし。数瞬の後には各々食事と会話へと戻る。
……すげー賑わいだな。
昨日たどり着いた時には、既にピークを過ぎていたと言うことだろう。人の居なかった朝ともまた違った店内の様子に目を奪われながらも、隣にいるエリへと視線を向ける。
どうやら、自分と同じく驚いたであろう視線を客達へと向けていたエリだが。すでに興味はテーブルを飾る料理へと移っているようだ。爛々と光る瞳には、しっかりと焦げ目のついた肉や、木でできた椀へと注がれたスープに、瑞々しく光る野菜の盛られたサラダ。それらを目に写すたび、ごくりと小さな喉が上下する。
……こいつ……さっき散々串肉だの、サンドだの、焼き菓子だの食べてただろーが……まだ食うのか?
若干の呆れをその視線に含ませつつ。隣で微動だにしない少女へと注ぐ。すると、少女もその視線に気付いたのか、こちらへと視線を返し。その瞳に含まれた意味を理解したのか、羞恥に頬を上気させながら、視線を反らす。
このまま、いつまでも見続けていても仕方がない。また少し食べるか?そんな言葉を投げ掛けようとした矢先。奥の厨房へと繋がる扉から、両手に料理を抱えた熊……もとい、サロメさんが姿を表す。
こちらにも気付いたのか、二人へと一度視線を向け。そのままテーブルへと料理を運んでいく。少しの談笑を挟み、手に抱えた料理を次々にテーブルへと配り終えると、いくつかのテーブルを巡り、空の皿やカップ等を回収しこちらへと向かってくる。
その手際は見事、と言う他無いだろう。殆ど音を立てず、食事や歓談の邪魔にならぬよう、キビキビと動く様は、その大柄な熊の見た目に似合わず、熟練の職人を彷彿とさせる。
そんな動きに目を奪われていたからだろうか、いつの間にか目の前にいるサロメが声を掛けてくるまで少しぼぅ、っとしてしまった。
「おかえり。見ての通り少し忙しくてね……疲れてるところ悪いんどけど……」
「手伝います!!!」
(あ……)
先に復帰したのはエリの方だった。言い淀むサロメの言葉に被せるよう。自らの願いを口に出す。その様子に安堵したのか。目元を緩ませたサロメが再度口を開く。
「そうかい、助かるよ。エリちゃんは配膳と、片付け。オロスは……厨房で皿の片付けなんかをお願いできるかい?」
「「はい!」」
二人揃って返事をすると、また嬉しそうに目元を緩める熊……ではなくサロメ。
「なら、二人とも店の裏手に井戸があるから、そこで手を洗ってきな!こきつかってやるから、覚悟するんだよ!」
送り出してくれる元気な声に背を向け。エリと二人、大急ぎで店の裏手へと向かう。そこで水を汲み上げ、手をさっと洗い裏手から厨房へと向かう。
……さて、忙しくなりそうだ。
中々新生活に慣れず、滞っていましたが。また少しずつ更新していけたら、と思います。
不定期になるとは思いますが、楽しんで頂ければ幸いです。




