0082話 sideダント
「戦争が始まる」
淡々と言い切る友人の言葉に、どこか空々しい物を感じてしまう。しかし、きっと嘘では無い。面倒くさがって言わない事はあっても、この友人が嘘を吐いた事など一度も無いのだから。
……戦争……またあの国か、懲りない……いや、負け続けても攻めてくるんだから、いっそ愚かとしか言いようが無いが。いや、今はそんな事よりも―――
「……いつ頃仕掛けてくると思う? 」
「そこまでは分からん……が、知り合いの商人から上の貴族連中に探りを入れさせた。それに、どこの領地も緊急時徴収なんぞと銘打って臨時の税を取り立ててやがる。まず、間違いない」
「そうか……」
ガリガリと思わず髪を掻き毟る。
過去30年間、このバルスト獣王国とエグレス王国、及びドネロ公国連合の間では二度戦争が行われていた。開戦の理由は、獣人種は魔物の近似種であり、我々は此を打倒し、彼の地に平和を取り戻すべく行動するものである。と、いったもので……。
まぁ、正直何を言ってるんだこいつらは、って当時は頭を抱えた物だが。ギルド側からの抗議、諸外国からの制止を振り切り開戦へと至った。
結果はエグレス、ドネロ連合の惨敗。バルスト獣王国側からは多額の賠償請求が行われ、同連合はこれを受理。支払いは滞りなく行われ、彼の連合もこのような事は二度と繰り返さないだろうと周辺国含め息を吐いた十数年後。
また、彼の連合は布告を出し攻めてきた。
正直、何の冗談かと耳を疑った。当時はまだギルド長等と言う役職ではなく一介の冒険者に過ぎなかったが、それでも不審を覚えた。
そして、二度目の衝突。結果は変わらず、前回より高額の賠償請求を行い、更には責任の代償として当時の王と公爵の処刑が行われ、両国共にトップが完全に代替わりを果たした。
そして、現在のバルスト獣王はこれに留まらずもう一つ手を打った。それが、目の前にいる二人。コンラートとアマーリエ夫妻だ。
当時Aランク冒険者として名を馳せたこの二人だが、年齢を理由に隠居、その噂を聞き付けた獣王によって近衛、及び兵士達の指南役に抜擢される。
そんな二人が指南を務めた兵達は、より精強差を増し戦時もかなりの活躍を見せたと言う。その功績もあってか王は二人を信頼し、ある一つの任務を二人に要請する。
概要はこうだ“―――彼の国にて、再び戦禍の兆しありし時は舞い戻り報告せよ。又、可能であれば彼の国が何故そこまでして我が国へ攻め入るのか、その原因の究明を行うべし―――”
……まぁ、実際は『また、いきなり攻められても面倒だからな。ちと、調べてきてくれ。なに、旅行とでも思って気楽に楽しんでくれ。あ、勿論費用はこっち持ちだ、どうよ? 二人してのんびり異国を旅行なんて風情があって良いだろ? 』だったそうだが……いや、今はそれは関係無いな。
問題はその二人がこうして、開戦間近の情報を持って戻ってきたと言う事。ならば―――
「……メイア」
「はい、すぐに早馬の人選と準備を……それで……」
「分かってる、手紙はこっちで準備する。境都ギルド長の印を押した手紙なら、向こうの大臣連中もすぐに気づくだろう。本格的な報告はその後で良い」
「では、すぐに動きます」
そう言ってソファーを立ち、部屋を出ていくメイアを見送る。
「はぁ……」
深く息を吐き、ソファーへと深く座り直す。
「それで、お前達はどうする? こっちで報告しても良いが……」
「いや、それはありがたいが、直接王都まで行こうと思う。色々と話したい事もあるし、礼も言わなきゃならんからな」
「そうか、そうしてくれると助かる。出立は? 」
「知り合いの倅をここまで連れてきたんだが、そっちの様子も少し見ておきたい……まぁ、一週間かそこらって所だろうな」
何時に無く真面目なコンラートと幾つか確認をとり、別れる。その後、机へと向かい手紙を書きながら、街中に響く鐘の音で正午を過ぎたことを知る。
……本当はもっと気楽な会話がしたかったんだが……戦争か……っち、あの国は一体何を考えてやがる……。
益体も無い思考に耽りながらも筆を走らせる。
そうして、手紙が完成した頃。オロス達のランク決めの事を思い出したが、最早後の祭りだった。
お読み頂き有難う御座います




