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0006話

「名前が思い出せないですって…!?ちょっと、それは何の冗談?と言うか、冗談でもあんまり面白くないんですけど?」


呆れたように、ジト目で少女が彼を睨み付ける。慌てたように、手を振り彼が早口で弁解をする。


「冗談じゃない!本当に思い出せないんだ!自分も、家族も、友達も、皆!誰一人として名前を思い出せないんだよ!!」


段々と弁解に熱が入る彼だった。が、それに対する少女の反応は冷ややかな物で、最早その眼差しは、夏場の台所に現れる奴を見たときのように冷めきっている。


「本当なんだよ…!そうだ!お前も同じ様な境遇なら名前が思い出せなくなってる筈だ!試しに自分の名前を言ってみろよ。」


「はぁ…まぁ良いけどね…私の名前は――」


彼の提案にため息一つで返し、自らの名を口にしようとする少女。しかし…


「私の…なま…えは……」



「思い出せない……?」


どうやら、彼の言が正しく、そしてその推測も当たっていたようだ。途端に少女は黙り込み、必死に名前を思い出そうと試みる。しかし、思い浮かぶのは、親しい人の記憶のみ。名前は一切出てこない。


「嘘……嘘よ!…ぃやだ!何で!?」


「お、おい…」


やがて半狂乱になった少女が叫ぶように声を上げ始める。


「嫌よ!何で!?あいつの顔も、仕草も、癖も、全部…全部思い出せるのに!何で名前だけが思い出せないの!?」



「嫌よ……嫌…イヤ……イヤァァァァ!!」


「お、落ち着け!」


顔に手を当て、泣き叫ぶかのように暴れだす少女を、彼が慌てて抱き止める。少女はその腕を嫌がるように、言葉にならぬ叫びを上げ抵抗する。


「大丈夫、大丈夫だから……」


顔を、腕を、体を引っ掻かれ、彼の体に傷が刻まれていく。


しかし、それを意に介さず。彼は抱き止めた少女が自らを傷付けぬように優しく抱き。何度も、何度も大丈夫。と囁き続ける。……うむ、こんな時に言っては、あれかも何だが…見た目二桁成りたての少女を抱き締めるオークと、抵抗する少女…端からみたらアレだな……おっとこれ以上は止めておこう。


―――――――――――――



数十分後、彼の我が身を省みぬ献身の甲斐あってか、少女は落ち着きを取り戻し。泣き疲れてしまったのか、彼に抱かれたまま眠りについてしまった。


彼も、それを見て安心したのかその場で座り込む。胡座をかき、丁度足の上で少女が楽な体勢になれるよう微調整をする。


「ふぅ…子供相手は慣れてるつもりだったけど、こう言うのはちとキツいな…」


彼がため息と共に呟く言葉は、広間に響くこと無く霧散していく。


「そうだよな…こんな年で、親しい人間の名前を全部忘れてて平常心を保ってられる方が珍しいよな…。」


「くそっ、失敗したな…。」


空いている手を地面に下ろし、拳を握る。そして呟くのは、己の発言に対する後悔。その顔には苦渋が満ちていた。


しかし、それも一瞬の事。次の瞬間には彼の顔には後悔の色はなく。ただただ、決意に満ちた男の顔があるのみだった。


「こんな小さな女の子を守って、家族の所へ連れて行く位ならアイツも許してくれるよな…。てか、こんな状態でほっぽって行ったら、それこそ叱られるな。」


自らの発言に自嘲気味に微笑みつつ、少女の顔にかかった髪を優しく払い、その頬に手を当て、顔を覗き込む。


「ははっ、どことなく、寝顔がアイツそっくりに見えやがる…。俺達に娘が出来てたら、こんな感じだったのかな…。」


そう呟く彼の顔は、先程の決意を固めた物とはまた違う、慈愛に満ちた表情をしていた。……まったく子供のように、コロコロと表情の変わる奴だ。まぁ嫌いじゃないが。


「さて、俺も少し休もう。それに、このままだと、起きた時がまた五月蝿そうだからな。何処かに寝かしておく……か…?」


そう言って彼が立ち上がろうとするが、またしても問題が発生する。


どうやら眠りについた少女が、彼の服を掴んで離さないようだ。彼は苦笑を浮かべ一人ごちる。


「たく、これじゃまともに休めねぇじゃねぇか…。」


……どうやら、彼にとっては気の休まらない休息になりそうだな。

今回は割と難産でした……


いや、毎回難産なんですが、今回は更に大変でした。文字だけで色々と表現するのがこんなに難しいとは……


あ、その割には大して上手く書けてねぇな、とかの突っ込みは無しの方向で……


今後の成長にご期待下さい

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