0063話 side オロス
暴風、まさにそう称するのが正しいだろう。迫り来る魔物の軍勢に向け突撃したコンラートさん。それによって引き起こされたのは無慈悲な殺戮だった。
一度、手に携えた巨斧を振るえば目の前に迫りつつあった魔物の腕が、頭が、上半身が、そしてその手に持った武器さえもそこらに転がる木っ端の様に吹き飛び、砕け、四散する。
刃物による切断などではない。ましてや、昔書物で読んだ重量を用いて叩き斬るのでもない。ただ、その一撃の破壊力に耐えきれず砕け散るのだ。どれだけの数が襲いかかろうとも、その全てが斧の一振りで露と消える。
5匹、10匹、20匹……次々と襲いかかり、次の瞬間には物言わぬ肉塊へと成り果てる。
背筋が凍りつく、もし自分が魔物だと知れたら今度はあの戦斧がこちらに向けられるのでは無いかと。もしそうなれば抵抗する手段など無いだろう、仮に受けようとしたところでその全てを粉砕されるだけだ。
(……今はそんな事を考えている場合じゃないだろう!)
頭を振り、無理矢理に思考を現実へと戻す。考えなければいけない事は山ほどある筈だ。
(俺のやるべき事は? 馬車に向かってくる奴の迎撃だ)
今はまだ注意がコンラートさんに向いているが、後方から回り込まれれば対応は難しいだろう。ならばその相手をするのが自分の仕事で、その時は遠くないと分かる。
現に魔物の群れの後続が先発隊を迂回するようにして、こちらへと向かってきているのだから。数は50にも満たないだろうが……そんなもの支えきれるとは思えない。洞窟の蟻達の時は相手が小さい事もあって何とかなった。
だが、今回の相手は最小でも人間の子ども程の背丈があり、手にはそれぞれ武器を持っている。対してこちらは徒手空拳だ、いくらアンに貰ったガントレットとレガースがあっても防げる範囲など高が知れている。
5匹……いや、3匹相手でも同時に接近されれば手傷を負うだろう。多少はエリとアマーリエさん(?)が減らしてくれるだろうけどそれでも限界はあるだろう、最悪体を張ってでも馬車には近づけさせない。それが俺の仕事だ。
「ふぅー……」
決意と共に深呼吸。足を開き、構えを取り、呼気を少しずつ整えていく。目の前では、まるで作業のように魔物達が次々と死んでいく。同時にコンラートさんの周囲には夥しいほどの死体が転がっている。それでも魔物達の行進は止まらない、まるで壊れた玩具のようにただ突撃をし続ける。
そして、後方に控えていた部隊が突撃を開始する。勿論コンラートさんを避ける形で。そして、やはりコンラートさんは目の前に迫る魔物と足下に広がる死体でそちらへの対処が出来ないらしい。……うし、いくぞ―――
ステップを踏み、こちらへと向かってくる集団の先頭に一撃を叩き込みに行こうとした直後、背後から複数の火球と巨大な氷柱が魔物集団へと飛び込む。
火球は着弾と同時に爆発、直撃した相手とその周囲を巻き込み数匹を先頭不能に追い込んだ。氷柱は集団の何匹かに直撃するとその勢いを保ったまま2、3匹と同時に刺し貫いていく。
……これはもしや―――
その後も降り続ける火球と氷柱の嵐を見て自分の出番は無いのでは、そんな事を考えた矢先、爆発の影を縫って3匹がこちらへと雪崩れ込んでくる。だが、エリの放った火球の影響か、その動きには乱れがある。
それぞれがバラバラに武器を振りかざしこちらへと迫る魔物達。その距離が段々と詰まっていく。
「ゲギャギャギャ! 」
魔物が武器を振りかぶり叩きつけるようにして殴りかかってくる。半歩横に回避、がら空きになったその醜い顔面へと右ストレートをぶちかます。ゴギャ、っと何かが砕ける音とガントレット越しに伝わる感触を無視し、次の相手と正対する。
次の相手も同じように武器を振り降ろすタイミングで右のストレートを放つ。結果は同じ、何かの砕ける音と感触を努めて無視しつつもこれなら何とかなる、と一瞬気が緩む。
だが、それがいけなかった。2匹目の影からこちらへと向かってきていた3匹目から思わず視線がそれていた。3匹目は飛び上がり、その勢いを持ってこちらに武器を振り下ろしてくる。
しまった、と思ったときにはもう遅く、こちらの脳天目掛けて武器が振り降ろされる。思わず両腕を交差させ、その根本で武器を受ける。
ガイン、と金属がぶつかる鈍い音と衝撃が腕に走り顔をしかめる。が、そんな事は気にしてられない。こちらに防御され、体制を崩した相手に前蹴りをお見舞いし、その勢いを駆って離れた距離を詰める。
前蹴りで転倒した相手の顔面に拳を振り降ろす。3度目となる感覚を味わいながら急いで周囲を確認する。だが、最早立っている魔物はおらず今のが最後の1匹だったらしい。
「ふぅ……」
慣れない戦闘、そして一瞬感じた死の恐怖。それらが混じって何とも言えない気持ちだが、深く息を吐いて気分を入れ替える。落ち着いた所で馬車のエリへと視線を向ける。
すると、何やら驚いたように口元に手を当てている女性と、何かを被るような仕草を繰り返し、こちらに伝えようとするエリの姿。
(ん? 頭に被る……? )
「ふぃー終った、終った……いやーお疲れさ―――」
頭部に手を当てる。そこには、この数日で馴染みとなっていた物がない。そう、ローブのフードがいつの間にか外れていたのだ。だが、気付いた時には既に遅く。こちらへと戻ってくるコンラートに、そして馬車でエリの横に居たアマーリエにも……
(やばっ! )
慌ててフードを被るが、最早なんの意味も無かろう。終った―――
いつもお読み頂き有難う御座います。
遅れてすみません、昨日の分の活動報告は日中とさせてください―――




