0058話
パチパチと薪の爆ぜる音だけが響き渡る。
俺はオロス達が寝ている場所まで戻ってきていた。火が絶えないように適宜薪を追加していくが、日の出までは持ちそうにも無いので、途中拾いにいかないといけないだろう。
(ふぅ……)
ユラユラと揺れる火を横目で確認しながら、満天の星空を仰ぎ見つつ心中でため息を一つ。別に今のシチュエーションに不満が有るわけでは無い。むしろ光輝く星々に感動さえ覚えている。
しかし、俺の心を支配しているのは感動的な景色に対する感嘆では無く、先程自分が行った事に対する自責の念だ。確かに疑問は問題なく解決できた。あの時、ゴブリン達を殺した際に感じた異物感とその後に見た光景。それは殺した相手の魂を取り込んだ際の副産物だったのだろう。
事実、あの死にかけた仔犬の命を奪った際にも同じような感覚と、明らかに自分の記憶とは違う光景を見る事となったのだから。
沢山の兄弟姉妹に囲まれ、母親と思われる存在に寄り添う自分。暖かでどこか安らぎを覚えるようなあの感覚はきっと自分では無く、あの仔犬が感じていた物だろう。
そんな光景を見てしまったからだろうか、行動を起こす前に覚悟をした筈なのに、その決意は既に崩れ去ってしまっている。我ながらなんとも情けないものだ。
それでも後悔だけはしないと誓う。それはきっと“生きたい”と願っていたあの仔犬に対する侮辱だから。そして、あのゴブリン達にも……。
止めよう。こんな事、一人で考えてもきっと録な事にはならない。いつか……この二人と面と向かって話せるようになったら話してみたい。きっと大笑いしてくれると思うから。それで楽に成りたいと言うのもあるが、そうしたらきちんと向き合える気がするのだ……まぁ、そんな気がしてるだけなんだけどな……。
手元の薪を火元に放り込み、林のある場所へと向かっていく。薪に使えそうな枝を拾い集めつつ、夜が明けるまで火の世話を続ける。その間に何度も色々な事を考えはしたけども、結局思考は纏まらない。
―――そうして、一人孤独な夜は過ぎていく―――
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深い闇に包まれた森の奥。濃密な生の香りに溢れた未開の奥地に存在する一軒の小屋。適当な木材で作られた簡素な小屋は壁が苔むし、入口と思われるドアの辺りもその殆どが草木で覆われていた。
そんな小屋の中でソレは目覚めた。
最初に覚えた感覚は飢餓感。とにかく何かを口にしたい、と言う欲求。目につくもの全てが美味しそうに見えた。
先ずは自らの足下にあった朽ちかけの床を喰らう、美味しくない。次に苔むした壁も喰らう、美味しくない。部屋に入り込んでいた黒くて艶々したナニかも喰らう、美味しくない。
喰らう、喰らう、喰らう。
美味しくない、美味しくない、美味しくない。
目に映るもの全てを喰らうがそのどれもが美味しくない。喰らう度に少し飢餓感は軽減されるが、それでもすぐに食べたくなる。だから喰らう。もしかしたら、そのうち美味しいものがあるかもしれない。
ソレは外の世界へ飛び出し、目につくものをひたすら喰らっていく。草も、木も、虫も、自らの手が届く範囲なら何でも喰らった。だが、その全てが美味しくない。時折、少しマシな物もあったがそれは口にした物の内極僅かでしかない。それでは足りない。
ソレは移動を続ける、目につく全てを喰らい尽くしながら。もっと美味しいものを求めて―――
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