0056話
ちょいグロ注意?
今回は“―――”で囲ってあるので苦手な方はそこを斜め読みでもしていただければ……と。
(犬、それもまだ仔犬か……親の大きさが分からんが生後2、3ヶ月って所か? 群とはぐれたか? )
草葉を掻き分けるとそこに居たのは一匹の仔犬。口が開きっぱなしになり先程から荒い息を吐いており、時折キューンと鼻声が漏れている。
こちらを認識したのか近寄ろうとするが上手く立ち上がれず倒れ込み、その場で鳴き声を上げるばかりで一向にその場から動けない。
(ん?これは―――)
よくよく見てみると、暗くて分かりづらいが体の下辺りが明かに毛皮とは違った色に染まっており、その下の草葉も濡らしている。
(怪我? しかもかなり深いか……? )
徐々に吐く息が弱まっているのを感じる。しかし、自分にそれを助ける術は無い。……悔しい?いや、流石に偶々見つけただけの動物には憐憫の情ぐらいしか湧かない。だが、見つけてしまったのなら何かしてやりたい、とは思う……が何ができる?
思考を続けていると、視界に入った複数の影がこちらへとかなり近づいていた。仔犬はまだ暫くは持つだろう、ならば……せめて安らかに眠らせてやろう。
草葉を被せ仔犬を覆い隠すと移動を開始する。相手から意識を逸らさずに木々の影を移っていく。そうして動いて行くと徐々に相手の姿が月明かりに照らされ顕になる。
ソレは全身が薄汚れた緑色をしており、体格は小柄。大体7~8才程度の子供くらいの身長で醜く歪んだ顔に下顎から上に突き出る2本の牙。手には錆び付き今にも折れそうな剣を持ち、木製の盾の様な物も持っている。服装は辛うじて下半身を覆うぼろ布があるだけ。
そんな生き物が4体ほど互いに言葉の様なものを交わしながらこちらへと向かってくる。
(あれは……ゴブリン?)
実際に見た訳では無いと思うが、そんな言葉が思い浮かぶ。何となくではあるがあっている気がする。どうやら、覚えていたのは無駄な知識ばかりでは無いのかもしれない。……まぁ、名前が分かったところで何なんだ、って感じだが……言葉は通じるか?
声が届く範囲まで近付くがあちらの言語はまったく理解できない。……いや、だってぐぎゃぎゃぎゃ言ってるだけなんだぞ?分かる訳無いだろう……。
だが、穏便に済むならその方が良いだろう。取り敢えず念話を通して意思疏通ができるか試してみる。
(なぁ、聞こえるか? この先には行って欲しくないから出来れば引き返してくれると助かるんだが……)
念話を繋ぎ呼び掛けると、それに反応したのかその場で4匹が立ち止まる。武器を構え辺りを見回すがこちらは木の影の中見つかる訳もない。ゴブリン達は互いに顔を向き合わせ、首を傾げるとそのまま進み出す。……失敗……言葉は通じないか……なら。
影を移り相手の正面へ移動しそのまま這い出る。……言葉がダメなら肉体言語、ジェスチャーで伝えるしか無いだろう。
こちらの存在に気付き警戒を始めるゴブリンを他所に、手で後ろを指さし腕で×(バツ)をつくり、こっちはダメ。そしてゴブリン達の後ろを指さしそっちに行けと何とか伝えようと試す。
その様子を眺め4匹は互いに顔を見合わせると頷きを一つ。……おお! 通じた!? やっぱり肉体言語は最強のコミュニケーションツールだな!
しかしそんな訳もなく、先頭の1匹がこちらへ手に持った武器を振り下ろさんと距離を詰めてくる。……はぁ……デスヨネー……。
流石にそのままやられるのは嫌なので影の中にエスケープ。ドスッと空打った武器が後ろにあった樹木を打つ音が響く。そこに居た筈の何かが突然消えたことで斬りかかってきたゴブリンは辺りをキョロキョロと見回している。目標を見失ったゴブリン達は俺の姿を探しているのか、警戒を続けたまま辺りを見回す。
(さて、どうしたものか……)
あまり時間を掛けたくはない。仔犬の事以前にオロス達も近くには居るのだから、最悪でもそちらに被害が出ないようにしなくては……。
思考を続けながらも、その間に彼らが何処かへ行ってくれる事も祈ったがそれも叶わず。俺の発見を諦めると再びオロスや仔犬の居た方向へと向かっていくゴブリン達。……ダメか……仕方無い……よな?
先程いきなり俺に斬りかかってきたのだ、オロス達を見つけた際の行動など知れている。ならば取りうる行動は一つだけ、奴等の排除だ。しかし、心のどこかでそれをしたくない自分も自分も居る。
だが、彼等を放置してオロス達に危害が加わるのは頂けないと覚悟を決める。腕の肘から先を先程見た彼等の剣を元に刃の様に変化させる。……よし、ぶっつけ本番だけど何とかなるだろう。
最悪自分は影に隠れれば逃げられることも先程分かった、ならば恐れるものなど何も無い。影を移り、最後尾に位置するゴブリンの足下に辿り着く。
腕だけを外に出し頭上に向けて一閃。特に抵抗は無くスッと刃が振りきられる。直後に別の個体の影に移動。同じ事を繰り返す。
ドサッと言う音が重なり全てのゴブリンが倒れ伏す。その下には先程先程見た物と同じような染みが広がっていく。幸い、と言うかなんと言うか、頭上の葉が多く月明かりが届かぬ為に確りとは見えないが体がずれて見えている辺り、多分真っ二つになっているのだろう。
(何かあっさりだったな……)
別に苦労したい訳ではないが、あまりにも手応えが無い。また暗くて良く見えないと言う事も相まって生き物を殺した、と言う実感が湧かない。……こんなもん……なのか?
身勝手な理由で他の生き物を殺す。もっと罪悪感の様な物を覚えるか、とも思っていたがそれも無い。何だか拍子抜けだ、そんな事を思っていると自分の中に何かが入ってくる様な異物感を覚える。
(ッガ……なん……これ……)
目の前があやふやになり、意識の片隅には何やら別の景色が映る。
―――――――――――――――
―――森の中を駆ける。隣を走るのはゴブリン達。目の前では赤子を抱え必死に逃げようとする人間の女?
―――しかし、逃走劇は長くは続かなかった。女は躓き転んでしまう。
―――何とか逃げようと必死に立ち上がろうとする女。そこを並走していたゴブリンの棍棒が強打する。痛みに呻き倒れ込む女。
……やめろ
―――ゴブリンは嬉々として痛みに呻く女の腕から赤子を無理矢理引き剥がす。とその腕にかぶり付く。
……やめろ
―――絶叫する赤子と女。その悲鳴すら心地良いとばかりに、赤子を次々と噛み千切り咀嚼していくゴブリン。
…………やめろ
―――赤子の全てを平らげ、今度は慟哭をあげる女に目を向ける。その面貌を醜く歪め、手を伸ば―――
……ヤメロォォォォ!!
―――――――――――――――
視界が切り替わる。いつの間にか影から出ていたらしい。視界も通常の物に変わっている。
(今のはなんだ!?)
夢と言うには余りにもリアル。赤子の声が、母親らしき女の慟哭が、頭に響いて消えない。そして―――
頭を振る。ダメだ、今は混乱している。そんな時に思考を巡らせたところでどうにもならない。それよりも先に今できることをしなくては。
頭を切り替え仔犬の元へと向かう。だが、頭に響く声が消えない。
―――くそっ!何だってんだ!
いつもお読み頂き有難う御座います。
普通に戦闘の様子を書く筈が……どうしてこうなった……。




