0055話
「ねぇ…私達迷ってないわよね…?」
未だ道すら見えてこない現状に堪り兼ねてエリが呟きを漏らす。時折視界の端に林が見えてくるだけで、特に代わり映えのしない草原を歩いていればそんな感想が出てくるのも可笑しな事では無いかもしれない。
「エリよ…飯はさっき食べたばかりだろうに…」
「人をボケの始まった老人みたいに言うんじゃないわよ! 第一お腹が空いたなんて一言も言ってないでしょう!? 」
「いや、だって唐突にそんな事を言い出すからつい…な? 」
「つい、じゃないわよ……じゃなくて。さっきから何にも見えてこないけどこのままで大丈夫か、って話よ」
「なんだ、旅は初めてか?まぁ落ち着けよ」
そう言って、その場で立ち止まるとしたり顔で語りだす。
「旅ってのはな―――」
長くなったので要約すると、旅と言うのは目的地にたどり着く事だけでなく、その過程を楽しむもの。つまり、この何も無い移動を楽しめ。と言うことらしい。
「それで野宿になったら世話無いじゃないのよ……」
「……確かにな」
ジト目で告げるエリの言葉に思わず同意してしまうオロス。そう、いくら過程を楽しむものと言っても、それは安心・安全が確保されてこそ。未だに人の痕跡さえ見つけられない現状では安全の確保をできぬまま野宿、と言うことも考えられるのだ。
時刻は恐らく正午過ぎくらいだろうか?まだ余裕はあると思われるが、それでも慣れぬ旅だ。二人とも早いうちに屋根のある所で休みたい、と言うのが本音だろう。
「しかし、そうは言っても今は歩くしか無いだろう」
「……そうね」
そう言って止めていた足を踏み出す二人。……まぁ、野宿になっても、最悪周囲の警戒くらいは手伝おう。見た目不審者だから姿は見せないようにしてだが……。
―――――――――――――――
それから、歩くこと数時間。
見えるのは相も変わらず一面の草原と雑多に生える草木のみ。時折獣の姿を遠目に見ることもできたが、こちらを認識するとすぐに何処かへと去ってしまう。
日も大分傾き始め夕暮れが近づいている。オロス達も一旦人里やそれに繋がる痕跡を探すのは諦め、夜営に適した場所を探すことに目的を変更したようだ。
だだっ広い草原の只中に腰を据え、近くにあった林から薪に使えそうな枝と石をオロスが毛皮に包み持ってくる。エリはその合間にリュックの中から必要なものを取りだしせっせと夜営の準備に取りかかる。
日が落ち始め、夕暮れに差し掛かろうかと言う辺りであらかたの準備が終わる。オロスは持ってきた石をコの字型に重ねていき簡易の竈を作っていく。途中エリが魔術で水を作り周辺の土と合わせて泥とし、竈の補強をしていく、と言う一幕もあった。
その後エリの産み出した炎を薪に着火、竈に火を入れ。貰った鍋にこれまたエリが水を産み湯を沸かして、アンに貰った干し肉をふやかし簡易のスープを作っていく。……と言うかエリの魔術万能過ぎないか……。
その後、日も完全に落ちきり夜になると簡易のスープとアンに貰ったパン、と言う少し質素な食事を取り、色々な事を話し合っていく。
「しっかし魔術ってのは便利だな? 何でもできるのか? 」
「うーん……アン曰く人それぞれ適正はあるらしいわ。私の適正は炎らしいけど、適正が無くても確りとイメージできれば他の属性も少しは使えるみたい。例えばさっきみたいに水を出したりとかね」
「成る程な。てか、それなら竈も作れたりとかしたんじゃないか?」
「うーん……どうも炎以外を扱おうとすると凄いお腹が空くのよね……だから出来れば最低限にしたいかな? 」
「うーむ……折角なら風呂とかも入りたかったけど止めた方が無難か」
「そうね、それより―――」
竈の篝火に照らされながら二人は話し合っていく。人工の灯りが一切無い夜空には無数の星々が煌めく。
そんな光景に目を奪われていると、いつの間にか二人の話し声が途切れている事に気がつく。どうやら話し合っている内に二人して寝入ってしまったらしい……全く不用心な。
ならばここからは自分の時間だ。影から這い出て姿を現す。
念のために、と二人の様子を確認するが毛皮の上に横になったままスヤスヤと寝息をたてている。ただ、エリは少し寒いのか両腕を体に回し自らを抱くようにしている。
見かねてリュックの中からオロスとお揃いのローブを取り出すとエリに掛ける。それで少しはマシになったのか笑みを浮かべるエリ。
オロスは昼間のローブをそのまま羽織っていたので問題ない、と言うかあの体型なら多少の寒さは平気だろう……いや、偏見かもしれんが。
そんな風にして、二人の様子を確認しながら竈の火が絶えないように薪を追加していく。……確かこう言う時は火を絶やしちゃいけないんだよな?まぁ、あくまでそんな気がするだけなのだが……。
パチパチと木枝の弾ける音を聞きながら、周辺の魔素との同調を強め視界の範囲を広げていく。そう、無駄に影の中でぐうたらしてたわけではなく、色々と試行錯誤していたのだ。まぁ、表に出てるわけでは無いので出来ることも限られていたが……。
そう言った暇つぶ……もとい努力の結果として、魔素を介した視界の有効範囲を広げる事が出来るようになった訳だ。まぁ、情報量が多過ぎて頭がパンクしそうになるので、できる範囲はあまり広くないけどな……。
そうして、視界を広げつつ周囲の確認をしていくと林の影で何かが踞っているのを見つける。そして、それに近付く何かも。場所は近く、50mも無いだろう。ただ、木や葉の影になっていてその正体までは分からない。
(直接確認に行くか…?)
二人を見やる。深い眠りに付いていて起きる様子は見られない。……もし仮に、その何かがこちらに気付けば?その正体にもよるが……こんな人の痕跡が見られない場所だ録な者では無いだろう。
仕方無い、と林へ向かって移動していく。木の影に潜り、影から影へと移動を繰り返す。
そうして何かが踞って居た場所へと辿り着くと―――
(……犬?)
見つけたのは今にも絶えてしまいそうな荒い息を吐く仔犬だった。
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