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0049話


―――――――――――――――


「落ち着いたか?」


(…はい、取り乱してすみませんでした)


取り乱してしまった自分が恥ずかしくて思わず謝罪してしまう。それと同時に項垂れると、水鏡に写った自分(?)も項垂れる様子が見てとれる。…はぁ…見間違いじゃ無いんだよなぁ…。


その事実に、改めて叫びたい気持ちになるが必死に抑えて観察を続ける。


まず見た目は…黒い、その一言に尽きる。一応人の形を取ってはいるが全身が真っ黒で、まるで影絵をそのまま立体にしたような姿だ。ただ、その目だけが紅く光輝いているのがやや不気味か。


まぁ、そこまでは良い。世の中には、気付いたらオークになってしまった不幸な奴も居るのだ、それに比べれば幾分マシだろう。


(だがしかし、だ!何もここまでピッチリした感じの見た目で無くても良かろう!)


そう、水鏡に写る姿は人の形を模しているだけで、裸身に薄い布地を纏っただけの様に見えるのだ。…詰まるところ…全身タイツマン?そんな感じだろうか?それに一部分だけ強調されているのも何かの悪意を感じる。


しかし、その部分に触っても感触は無いと来た。…完全に嫌がらせか何かですよね?これ…。


改めて確認した自らの姿に思わずその場で踞る。


「もう良いかの?」


(…えぇ、はい。良いですよ…。と言うか、これ以上見ていたくないので早めに消して頂けると…)


「分かった」


すると、今まで目の前にあった水鏡は忽然と姿を消し、その影に隠れていたアンが視界に入る。大量の水がその場から消えたというのに、足下は一切濡れておらず影も形も見当たらない。


「?お主どうかしたのか?」


(…いえ…何でもないんです。ただ、若干変態チックな見た目にショックを受けているとか、そう言う事は一切無いです)


「ふむ?つまり見た目に不満があると?ならば自分で容姿を変化させれば良いじゃろうに。無理に人型を取る必要等無いじゃろう」


どうしてこうなった…と項垂れるも、その思いをアンにぶつける訳にも行かず、心の中で葛藤し続ける。…いや、だってこの体はアンからの贈り物(?)な訳だろう?つまり好意な訳だ。人の好意にいちゃもんつけるとか、そんなヒトデナシにはなりたくないし…いや、既にヒトでは無いのかも知れないけどさ…。


そんな状況にあってもアンの言葉はしっかりと聞き取ることができた。…え?そんな事ができるの?いやいや!聞き間違いかもしれないから一応確認しておこう。


(…え?あのー…変化とか言うのをすれば見た目が変わるんですか?)


「そうじゃな。お主は恐らく“シャドウ”と呼ばれる魔物になった訳じゃが、“シャドウ”とは本来不定形、つまり定まった形を持たぬ種族じゃ。故にその体を自らの意思によって変化させることが出来る筈じゃぞ?」


(…!?)


なんと!それならどんな姿にでもなれる、と言うことか!なにそれ凄い!じゃあ早速…


「あぁ、それとじゃ…」


試そう、と思ったところでアンから待ったがかかる。


「先程は無理に人型を取る必要は無い。と言うたがお主が人のカタチをしておるのは、その魂が人に近しいと言う事でもある。故にあまりそのカタチから掛け離れた姿に成るのは止めておくのじゃな。」


(?それはなんでだ?)


「ふむ…。前にも話したとは思うのじゃが“魂”は肉体の急激な変容には着いていけん。最悪お主の自我は消失し全く別のナニかに成り果てるじゃろう」


その瞬間、ゾワッと背筋が粟立つような感覚を覚える。自分が自分で無くなる。初めて聞いたときにはサラッと聞き流していたが、改めて聞くと正直これ程恐ろしいことも無いのでは、と思える。


だってそれは死ぬのと一緒だ。体は生きていてもそこに自分は居ない。肉体を得て、本当の生を受けたからこそ実感できる死の恐怖。…流石に死にたくは無いかな…。


「まぁ、儂が言いたいのはそれだけじゃ」


(いや、すまない助かった。自分だけなら間違いなく後先考えずに行動していたと思う)


「良い、大した手間でも無いしの」


それでも助かった。と改めてアンにお礼を告げると照れたように頬を掻き顔を背けてしまう。


…さて…そうなると何かを羽織るみたいにするのが良いのかな?羽織る…羽織る…コート…だと更に変態チックだな…丈の長いマント?うーん…それも微妙か…なら…


(なぁ、さっきの水鏡、もう一回出してもらっても良いか?出来れば自分で確認しながらやりたいんだが…)


「うむ…ほれ使うと良い。」


目の前にまた巨大な水鏡が現れる。それで自分の姿を確認しながら少しずつイメージをしていく。すると、体から徐々に何かが抜けるような感覚と共に水鏡に写る姿もその姿を変えていく。


変化が終わり、改めて水鏡でその姿を確認する。


黒いフード付きのローブをイメージしたのだが、うん。どうやら上手くいったらしい。端から見たら怪しさ全開だろうが、まぁ、全身タイツマンよりはマシだろう。


(ありがとうアン、色々助かったよ)


「何、お主が気にする程大した事はしておらん」


(いや、この水鏡だけじゃなくてさ…この体の事もだよ。まだお礼を言ってなかったから。だから、ありがとう)


「う、うむ。まぁそう言うことならその言葉だけ受け取っておこう。感謝するが良い」


そう言って、えっへんと胸を張るアンの姿はその幼い様相も相まって大変に可愛らしい。…うむ、これは良いものだ。


『そろそろ良いかな?』


そんなアンの姿にほっこりした気持ちになっていると、広間に響く聞き覚えのある声。


…この声は…!

いつもお読み頂き有難う御座います。

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