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0046話 sideオロス


―――――――――――――――


遠ざかるエリを見送りながら、彼女の出してくれた火に当り濡れた体を暖める。


(…ふぅ…暖まるぜ…。しっかし突然水場に放り込まれたから何事かと思えば…そう言うことだったのか…アンには感謝しないとな)


先程までの醜態を思い出しながら、苦笑気味に一人心の中でごちる。


そう、つい先程アンに水場へと放り込まれる迄俺は昨日に引き続き格闘戦のみで稽古を付けて貰っていたのだ…まぁ結果は酷いものだったが。


(…強くならなくちゃな…)


拳を握り締め先程までの稽古を思い出す。




―――――――――――――――




拳を振り下ろすし勢いを止めず右、左と連打を繰り出す。しかし、それは相手に届く事はなく全て躱される。


「ほれ、どうした。そんな様では一生届かんぞ?」


余裕を持ってこちらの繰り出す拳を躱しつつ、そんな事を告げるアン。そんな様子に腹がたつことも無いではないが、避ける動作に手すら使わず躱されているのではぐうの音も出ない。


(もっと早くもっと強く!)


念じれば叶うものでは無い。そんな事は分かっていてもそれ以外に出来ることなど無い。


逃げ場を潰すように拳だけで無く蹴りも加えて更に攻撃の密度を上げるが一向に届く気配がない。


腕を振るのが辛い、踏み込む足が重い、止まること無く動き続けているせいで呼吸が苦しい、もう辞めようと何度思ったことだろうか。


だが、こちらから請い願っておいて、まだまともな試合にもなっていない。そんな情けない状況でこれ以上の無様を晒すのは男としての矜持が許さない。


ギリッ


歯を食い縛る、折れそうになる自分に活を入れ連打を続ける。腕を畳み、細かく且つ最短距離で相手に伸ばす。直線だけで無く時折横から上から下からと、様々な角度から拳を突き出していく。


ただ、それだけでは届かない、身を反らし、屈み、時にはこちらの懐に潜り込む事で全て躱される。


ならばと足を振り上げ、前蹴り、そしてそれをフェイントとしての二段蹴り、片足で着地してからの逆蹴り、と思い付く限りの技を流れにのせて放っていくが当たらない。


苦しい、もう何分こんな事を続けている?動く度に滴る汗が邪魔だが、それを拭うだけの余裕もない。


目がチカチカする。先程から思考は真っ白でもう何も考えられない。


「そろそろじゃな」


余裕からかこちらから視線を外し動きを止めるアン。


(っ!今…!)


ここが好機と渾身の一撃を―――


「甘い」


放とうと踏み込んだ瞬間頭部にコツン、と一撃。痛みも無い、本当に軽く小突くの一撃。


「あっ…」


だと言うのに、体は崩れ落ち、尻餅を着き仰向けに倒れ伏す。


「…はぁはぁ…うっ…!」


息が荒い、整えるために深く息を吸おうとするが、失敗し 噎せそうになる。


「ここまでじゃ、少しそこで休んでおれ」


「…ぜぇ。はぁ……!…う…うす…!」


思考が纏まらない、アンが何かを言ってきた気がするが良く分からない。ただ取り敢えず返事だけは返しておく。


体に力が上手く入らない。まるで自分の体ではないみたいに自由が効かない。


(ここまで…ボロボロになるのはいつ以来だったか…)


「ぬ?しまった!」


そんな思考をしようとした時、アンの声が響いた気がした。が、次の瞬間にはそんな事を考えている余裕は無くなった。


視界が今まで見上げていた洞窟の天井ではなく黒い何かに覆われ、何かに捕まれているような感覚。そして―――


ボチャッ


(!!?)


投げ出される感覚。そして口から鼻から水が侵入してくる、なんとかしようと、もがき、暴れる。


と、背中が下に着く。ふと、冷静になり上体をあげるとすぐに水上に顔が出る。


「…えっほ!…ごほっ!」


咳き込み、飲み込んでしまった水を吐き出す。




―――――――――――――――




そこまで思い出して思い返すのをやめる。


(いや…酷い目にあった…しかし、何も水の中にぶちこまんでもなぁ…)



いつもお読み頂き有難う御座います。

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