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0045話 sideエリ


―――――――――――――――


「…んっ!……うーん…」


目を開く。定まらない視点で天井を見上げ、頭が回り出すまでぼーっと一点を見つめ続ける。


目覚めの時だと言うのに部屋の中は暗い。それも当然か、何せここは洞窟の中にあると言う常識外れな家の中なのだから。


「灯れ(らいと)」


昨日教えられた通りに、魔素を介して部屋の中にある魔術具を起動させる。すると、暗かった室内が設置された魔術具によって明るく照らされる。


…まぁ、最近は暗くても見えてるからあんまり必要ないんだけど…良いわよね?


「…よしっ!」


横になっていたソファーから立ち上がり視線を巡らす。が、今日も一緒に居る筈の同居人の姿は見当たらない。


(また、顔でも洗いにいって寝落ちたのかしら?…また面倒を掛けるのはアレよね…)


ここに来てから随分と世話になっている家主の顔が思い浮かび、迷惑をかける前にと、回収の為に部屋を出る。


「…っハァハァ…!…ック…!」


ドアを開け外に出る。そして扉を閉じまた家の中に戻る。


さて、状況を整理しよう。


(私はドアを開けて外に出た。そしたら目の前で息を荒げながら倒れるぶ…もといオロスが一人…何やってんの?)


予想外の光景に思わず目頭を指で抑える。もしかしたら自分の見間違いかも知れない。そう気を取り直して再びドアを開ける。


パシャパシャ


入口付近で倒れていたオロスの姿は?見当たらない。代わりに、何処かから水を叩きつけるような音が響いてくる。


(…見間違いだった…のよね?)


そう、現に目の前で倒れ付していたオロスの姿は影も形も無いのだ、つまり先程のはただの見間違い。完全に目覚めたと思っていたが、どうやらまだ寝ぼけ半分らしい。


(…取り敢えず私も顔を洗いましょ…)


恐らく同居人はそちらに居るのであろう、と音のする方向に向かって歩いていく。


パシャパシャ…カツン…カツン…


すぐに水場へと辿り着けば、そこには最早見慣れた彼の姿が。やはり顔を洗いに来ていたらしい。


「おはよう、オロス」


「おう、おはようさん」


ビシャ…ビシャ…


此方へと歩み寄ってくる彼に合わせて何やら水音が聞こえてくる。どうやら顔を洗うだけではなく、服を着たまま直接水浴びをしていたらしい。


「…何やってるのよ…あんたそのまま家に上がる気じゃ無いでしょうね…」


「誰がそんな事するか…このまま乾くまで外で待機だよ」


思わずジトっと睨み付けながら詰問してしまったが、あんまり気にはしてないのか苦笑混じりに返してくる。


(でも、濡れたまま放置ってどうなのよ…?)


「ちょっとそこに立ってなさい」


「ん?お、おう」


「動かないでね……灯れ(ライト)」


「お?おお!?」


オロスに注意を促すと、昨日教えられた通りに空気中の魔素へと働きかけて少し大きめの火球を作り出す。それをオロスの前で固定、大体直径30cm程で突発的に作った物ゆえ持続性は高が知れているが…まぁ、服を乾かす程度なら十分だろう。


「凄いな!これが魔法か、ありがとう!」


「体した手間じゃないし別に良いわよ。それと……」


「おお、温い温い。ん、なんだ?」


「“魔法”じゃなくて“魔術”らしいわよ?」


「…何が違うんだ、それ?」


「さぁ?アンちゃん曰く根本から違うらしいけど良く分からなかったから」


「何だそれ……」


「知らないわよ。じゃあ顔を洗ってくるわ、その火球あんたの服が乾くまでは多分持つと思うから、消えたのを確認してから部屋に戻ってね。」


こちらの指摘に訳が分からない、と顔をしかめるオロスを尻目に悠々と水場へと向かう。第一こちらも良く分かっていないのだから聞かれても困るのだ。


パシャ……パシャ……


昨日慌てていて疎かになっていたので念入りに、しかし肌を傷付けないよう丁寧に顔を洗っていく。垂れた髪が濡れるがどうにもならないので多少は諦める。


(アンちゃんに髪を縛るものでも貸してもらえば良かったかしら……)


あの“龍”を名乗る少女が持っているかは定かでは無いが、言えば何となく何でも出てきそうな感があるのは何故だろうか?


パシャ……パシャ……


「…ふう……」


まだ何となく物足りない感はあるが一定の所で切り上げる。綺麗にはしていたいが、あまり冷水を掛けすぎるのも逆効果なので物足りないくらいで止めるのがベスト……だった気がする。


「……灯れ(らいと)」


濡れた髪を乾かすために先程よりも小さな火球を作り、少し離した場所に固定する。


髪が乾くまでの時間、暇なので水面に写る自分の顔を覗きこむ。炎の明かりに照されて黄金に輝く髪、そして人形のように整った顔立ちにどこか他人を見ているような気分になる。


(やっぱり違う顔……)


記憶の中にある鏡に写る見慣れた自分の顔とは似ても似つかない。今ならば、その記憶こそが間違いなのだと信じることもできる。


(だけど……)


それだけは、してはいけない気がする。所々虫に食われたように穴だらけで、思い出せるのも断片的な物ばかり。人の名前は思い出せないし、物の名前でさえ思い出せないこともある。


そんなあやふやな記憶だけど、穴だらけの記憶にはっきりと残るある人の笑顔だけがやけに心を締め付ける。


きっと大切な人だった……筈。そうであって欲しいと心のどこかで願っている自分がいる。


(こんな変な場所で目覚めて……こんな姿になっちゃったけど……)


きっとまた会える。今はそれだけを信じて行動あるのみ。


乾いた髪を掻き上げて、ふんすっと気合いを入れ直す。


――――――決意を新たに少女は新たな道を歩み出す。

いつもお読み頂き有難う御座います。

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