0043話
ちょい長め?
―――――――――――――――
「ふむ、なるほどの…。」
「あぁ、流石にいつまでも世話になるわけにはいかないからな。」
「うん、お礼をしたいけど今の私達には何も無いし、この洞窟に居たんじゃいつまでも恩を返せそうにないから…ね?」
「…そうか…」
アンはそれだけ聞き終わると二人の顔を交互に見て黙ってしまう。表情こそ変わっていないが、声の響きから若干の悲しみの感情が漏れてくる。
アンがお茶を淹れて戻ってきた後、二人はどちらからともなく先程まで話し合っていた事を全て話していた。その結果がこれである。
アンの沈鬱な声にオロスとエリ、二人も浮かない顔をしているがその決意は固いのか発言を翻そうとはしない。
先程までの明るいやり取りは既に無く、部屋の中は沈黙に包まれている。
「…はぁ…分かった。じゃが、今日は既に日が落ちておる。出発するなら一晩ここで休んでからにせい。この洞窟の入り口までは儂が送ってやろう」
「…あぁ、最後まで世話になりっぱなしですまないが、よろしく頼む」
沈黙を破ったのはアンの一言だった。
それまで成り行きを見守っていた二人も思わず安堵のため息を吐く。
「では、お主達の質問についてじゃが……」
「ふむふむ……」
その後、アンは一旦部屋を出て、大量の紙束を持って部屋へと戻ってくると、暫くの間二人の質問へと答えていく。
「エリよ、お主は魔術が使えるのじゃったな?旅に必須となる物もある、少しこちらで教えてやろう」
「あ、ありがとう!」
「オロス、お主にはこれを見せてやろう。エリに魔術を教えとる間に幾らか読んでおくと良い」
説明が終わると、今度はエリを連れ出し魔術の指南を始める。
その間オロスはテーブルに広げられた資料を見て、今後に役立ちそうな知識を頭に叩き込んで行く。
そうして、別れの夜は過ぎていく。慌ただしくも何処か緩やかに……
―――――――――――――――
「…さて、儂が教えられるのもこの辺りが限界じゃろうて、後は主らが外に出て学ぶが良い。」
「は、はい…」
「…おう…」
自分がやりたかった事を終えて満足したのか、やや上機嫌なアンに対して憔悴気味の二人。
エリの方はぐったりとしており、かなりの疲れが見える。オロスの方はずっと読み物をしていたのでその影響か目頭の辺りを押さえている。
「ふむ、二人とも疲れておるようじゃし今日はゆっくり休むと良かろう。では、儂は行くでな、何かあったら呼ぶと良い。」
「うーい……」
「はーい……」
アンはお決まりの台詞を言うとそのまま部屋を出ていく。その時に視線を感じたような気がしたが……気のせいだろう。
「……ぐごー……ぷひっ……」
「……すー……」
その後一刻と持たず、横になるなり早々に寝息をたて始める二人。
…ふむ…やっぱりこうなると暇だな…。またアンに頼んで眠らせてもらうか?
案の定暇をもて余した俺は昨日の事を思いだし、また眠らせてもらえないか等と益体も無い事を考えていた。
『ならばこちらに来るか?』
(!?)
そんな思考を重ねていると、突如頭の中に響く聞きなれた声。そして、そのまま何処かへと引っ張られるような感覚。
(あの…これって強制連行なん…)
「ん?何か言ったかの?」
(……いえ、なんでも無いです……)
有無を言わさぬ行動に思わず抗議の声を上げようとしたが、アンの視線と被せ気味に質問をされた事で、何も言えなくなる。
そうして、地下の部屋まで連れてこられると、前回話した時には見なかった物がテーブルの上に置かれていた。
(…ん?それは、ガントレットにレガース、それに…指輪か?何だこれ?前に来たときは無かったよな?)
「ほう、目敏いのぅ…それはじゃな―――」
その話題になった途端に目をキラリと光らせ自慢気に語りだすアン。どうやらこの事を誰かに話したくて仕方が無かったようだ。
色々と長くなったので纏めると、どうやら今日出掛けた際にお土産として買ってきていたらしい。だが、二人が明日には出ていくと言ったので、どうせならと別れの時に餞別代わりに渡そうと画策し、現在色々と調整中らしい。
…いやまぁ、分からないでも無いんだが、何でわざわざ俺を呼んだし…とかは言っちゃダメなんだろうなぁ…。
楽しそうに語りながら作業を進めるアンを尻目に、やや辟易とした気分になりつつもテーブルの上の品々を観察する。
ガントレットとレガースは共に甲の部分だけが金属のような物に覆われており、部屋の明かりを反射して鈍く光っている。
指輪は石座に赤く丸い石が嵌まっており、腕の部分には石座を喰らおうとしているような蛇の意匠が彫りこまれている。デザインの良し悪しまでは分からないが、一目でかなり手間の掛かっている物に思える。
そして、この3品に共通している事がある。それは、どれも金属製と思われる部分が吸い込まれるような黒色だと言う事。しかし、艶消しのような感じは無く。どれもが艶やかな光沢を持っている。
(なぁ、これ…)
「ん?なんじゃ?」
(あ、いや…何でもない続けてくれ。)
「?変な奴じゃの…」
問い掛けておいて途中で止めてしまったせいで怪訝な目で見られてしまったが、良く言い止まれたと思おう。
…流石にプレゼントする物に対して値段がどうこう言うのは野暮ってもんだよなぁ。
「よし、こんなもんで良いじゃろ。」
そう言ってテーブルから顔を上げるアン。その顔には満足気な笑みが浮かんでいる。
しかし、テーブル上の3品に特に変わった点は見られない。強いて言うならば先程よりもより黒くなってる…か?
(何か変わってるのか、それ?)
「ふふん…秘密じゃ」
思わず訊ねてみたが人差し指を口に当て「秘密」等と言われてしまえば沈黙せざるを得まい。
「さて…では此処からが本題じゃ」
改まってこちらへ向き直りそう告げるアン。その表情には先程のような笑みが全く見受けられない。
…どうやら、俺をここに呼んだのはこれが目的らしい。さて、何が出るやら…
(本題…とは?)
「うむ、本来の用途とは違ってしまったがこの土産達は居候達への贈り物じゃ。」
(ふむ?)
そう言ってテーブルを振り返り、一つ一つに指を這わせ優しく撫でて行く様は容姿とは別に、その表情と相まって何処か子供を送り出す母親の様にも見える。
「じゃが、これはあの二人への贈り物じゃ。しかし我が家にはもう一人居候がおろう?其奴への贈り物をどうしようかと思っての。」
(あぁ、なるほど…つまり俺に対しても何か贈ろうとしてくれてたのか…)
「まあ、そう言うことじゃの。」
(だけど…)
「そう。お主には実体が無い。故に物品を贈るのは意味がない。それで少し困ってしまってのぅ」
成程、聞いてみればそう思える様な話だ。こんな実体も無い俺にまで気を使ってくれるアンの心意気は素直に嬉しい。
しかし…
(あの二人程に気を使ってもらわなくても良いよ…流石に贈られても貰えないんじゃ意味がないしな)
「そうは言うがのぅ……そうじゃ!」
やんわりと断ろうとした矢先、良いことを思い付いたとばかりにニンマリと笑みを浮かべるアン。多分、止めることは出来ないのだろう、短い付き合いだが何となくそれだけは分かった。
「お主には体をやろう!」
――――――は?
いつもお読み頂き有難う御座います。




