0004話
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広間に立ち込めていた煙が晴れていく。と同時に新たに少女の生み出した火球によって、広間が照らされていく。辺りには独特な刺激臭が漂い、焼け焦げた蟻の死骸が散らばっている。その中心には火球と共に佇む少女。炎に照らされる少女の表情は、やや自慢気である。
「ふふん、どーよ。私にかかれば、ちょっと図体のでかいだけの蟻なんてこんなもんよ。」
誰にとも無くそう嘯く少女。あの数の蟻を焼き付くしたのだ、確かに大した威力ではあるのだろう。……まぁ髪の毛先が若干焦げているのはご愛嬌だろう。
「何が、こんなもんよ…だ!殺す気か!?」
「ちょっ!いたい痛い、イタイ!」
そう言って声を上げたのは彼だ。少女へと詰め寄り、そのこめかみを両拳でグリグリと挟み込む。どうやらギリギリで爆発の回避に成功したようだ。ただ、被害無し、とはいかなかったようで、その身に纏っていた服と髪はプスプスと煙をあげている。
痛みに抗議するよう少女が両手をばたつかせるが身長差の為か全く彼には届いていない。
暫くしてようやく満足したのか、彼がその両手を離す。少女はまだこめかみが痛むのか、両手で頭を抱え込むようにしゃがみこむ。
「全く…間に合ったから良かったものの、もう少し気付くのが遅かったら死んでたぞ。」
「あによ…あんたが煮るなり焼くなり好きにしろ、って言ったんじゃないのよ!」
「確かに言ったが、それとこれは別問題だ。」
少女の抗議も意に介さず、彼はそっぽを向き体に着いた煤を払っていく。……まぁ殺されかけた相手に対する報復がウメボシなら、まだ可愛いものだろう。
彼が全身の煤を払い終えると、ようやく痛みが引いてきたのか少女が立ち上がり顔をあげる。と同時にぶつぶつと呟きだす。
「大体何なのよ…目が覚めたらいきなり知らない洞窟の中だし…訳の分からない声は聞こえるし…変な魔法が使えるようになるし…かと思ったらでかい蟻みたいなのに囲まれるし…」
「お、おい、大丈夫か?」
まるで取り憑かれたように呟く少女、心配したように彼が声を掛けるがまったく聞こえていないようだ。
「終いには、ピンチにヒーローが駆けつけたかと思えばオークだし…いえ…別にね、別にカッコいい人に助けて貰いたかった訳じゃ無いのよ…いえ、欲を言えばカッコいい方が良かった訳だけど…でも、オークって…オークって…大体私がこんな目に合ってるのにあいつは一体何をしてるのよ…」
「なぁ、おい、聞こえてるか?お、俺やり過ぎたか?」
少女の呟き(もはやぼやきだろうか?)は止まらない。それを近くで聞く彼も先程のウメボシのせいかと、オロオロするばかり。
どのくらいそうして居ただろうか、突然に聞き知らぬ声が響く。
『おめでとう、君達三人は一つ目の試練を突破し、無事に合流してみせた。』
ウメボシ・・・地方によっては呼び方が変わる頭を握り拳で挟んでグリグリするアレ、結構痛い