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0037話 side オロス

少し時は遡る―――



―――――――――――――――


目が覚める。洞窟の中なので、具体的な時間は分からないがそれなりに熟睡していたようだ。軽く伸びをするだけで、全身からバキバキと音がする。


(まぁ、いくら良さげな物とは言えソファーだとこうもなるか…。)


思わず出そうになる欠伸を噛み殺し、反対側のソファーで寝ているエリを一瞥する。今朝も、いつの間にか掛けられていた毛皮で作られたタオルケットの様なものにくるまり、幸せそうに表情を崩し眠っている。


(俺と同い年だと言い張ってても、こう言う所を見ると見た目相応にしか見えないよな…。)


少女の寝顔を見ていると、この現状においてやはり自分が守らねば。と言う事を強く思わせる。


(さて、あまり女の子の寝顔を眺める。と言うのも誉められた物じゃないな、顔でも洗ってくるか…。)


そのまま少女を起こさぬよう慎重に部屋を出る。


玄関を開け、目の前にある湖から手で水を掬い、叩きつけるようにして顔を洗う。


この時の慣れ親しんでいた感触とは違う顔の凹凸に若干戸惑いを覚えるが、これもいずれ慣れるときが来るのだろうか。等と不安を覚えるも気を取り直して気合いを入れる。


「ふぅぅぅぅ…。」


立ち上がり、湖から少し距離を取った所で両足を肩幅まで開き両手を頭上で交差させる様に1回転させつつ呼気を整える。


「ハッ!」


右足を前に一歩踏み出し、指の先まで意識を集中そのまま突き出す。続けて両手を交差頭上に掲げ受けの体制を取ったのなら、左足を強く前へと蹴り出す。


後方へと振り向き様左腕を上げ、受けを意識しつつも右の正拳を突き出す。


昔から何度も繰り返した型を、うろ覚えではあるが最後までやり通す。


「ふぅぅぅぅ…。」


最後にもう一度呼気を整え、体の力を抜いていく。


周囲を見て最初の立ち位置からかなりずれてしまったのがよく分かる。


(型が専門じゃ無かったとは言え、鈍ったな…。)


長いこと触れていなかった型を、今でも出来た事に少しの感動を覚えると共に、幼い頃ですら、もう少しまともな演舞にはなっていた筈の現状に思わず苦笑が漏れる。


そんな事に一喜一憂していると、何処からともなくパチパチと拍手が聞こえてくる。思わぬ音にビクリと肩を震わせ、思わず辺りを見渡す。


「すまぬ、邪魔をしてしまったかの。偶々見てしまったのじゃが、見事な物だったのでな。思わず拍手をしてしもうた。」


そう言って、何処からともなく現れたアンがこちらに近付いてくる。


「なんだ、アンか…。」


「なんだ、とはまたご挨拶じゃのう…。」


「あぁ、いや違うんだ。少し気を張っていたからつい…。」


「まぁ、良かろう。して、先程の物は何じゃ?何やら何時になく真剣な様子じゃったが?」


こちらの返答が気に食わなかったのか、顔をしかめるアンに慌てて訂正する。と、大して気分を害した訳では無かったのか先程の型について言及されたので、幼少の頃に習っていた武道の一環だと答えておく。


「武道?武術とはまた違うのか?」


「んー…。まぁ似て非なるもの…かな?」


しかし、先程までの無様を見られていたのか、と思うだけで少々返答が雑になってしまう。


(未熟だな…。)


分かっては居るが、こう言った所は昔から直せる気がしない。


「ふむ…。まぁ良かろう。で?何故(なにゆえ)そのような事をやり出したのじゃ?昨日はしておらんかったじゃろう?」


「それは…。」


アンの質問に思わず言い淀んでしまう。


何故急に、こんな忘れかけていた型などやり出したのか。目覚めの体に気合いを入れる為?それとも落ち込んでしまっていた自分に活を入れる為だろうか?


理由など決まりきっている。


エリを…あの少女を守ると誓ったからだ。


今の自分に出来ることなど高が知れている。せいぜいが、先日あった様な異形の前に盾として立ちはだかる程度が限界だろう。物語のヒーローの様にピンチからヒロインを助け出す、そんな事が出来る筈もない。


だからだろう、こんな記憶の片隅に置き忘れていた武道の型等を思い出したのは…。


少しでも自分に出来る事をしておきたかった。そんな言い訳紛いの為に“型”をやっていた。自覚すると改めてそんな自分に嫌気が指す。


(未熟だ…。)


ギリッと奥歯が音を立てて軋む。


「ふむ…。何を悩んでおるのかは知らんし、会って数日の儂がこんなことを言うのもあれなんじゃが…。1人で悩んでいても始まらんのでは無いか?儂で良ければ話してみよ、昨日のように出来ることであるならば相談に乗ってやっても良いぞ?」


「それは…。」


そう言って、先日からこちらへと親身になってくれている“龍”と名乗る目の前の少女が気遣わしげにこちらを見上げる。


きっと相談すればこの少女(の姿をしたモノ)はきっと力になってくれるだろう。昨日からのやり取りで、何となくそんな気はしている。


だが、同時にどこかで葛藤を抱えている自分が心の中に居る。しかし、迷っている暇などきっと無い。


ならばもう腹を括るしか無いだろう。


その場で膝を突き、頭を下げる。


「…お、おい!何をして…」


「頼む!」


アンが何かを言いそうになるが、それを遮って声を張り上げる。


「俺に稽古をつけて下さい!」


「…ほぅ…?」


―――――――――――――――



いつもお読み頂き有難う御座います。


初評価有難う御座います!これを励みに今後とも頑張って行きますので、応援のほどよろしくお願い致します!

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