閑話004
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(はぁ…。)
海沿いの高速道路を、給料10ヶ月分に昇る愛車を走らせながら、これで何度目かとなるため息を心中で吐く。
原因は主に、後部座席に座り人様の気など知らぬとばかりに駄々甘空間を作り出す一組の男女。
そう、結局あの後着いてきてしまった友人の彼女さんを追い返すことも、勝手な事をした友人をその場で見限る事も出来ず、流されるがままトランクに荷物を積み込み、車を走らせ今に至る。
(はぁ…。何してんだ俺…。)
数時間前まで、多少の遅刻も何のその。友人との久しぶりの再会を楽しみにしていた。そして流されるままこの現状を作り出してしまった自分自身に思わずため息が漏れる。
「でも、本当に一緒して良かったの?ほら、二人で会うのも数年振りだったんでしょ?」
(お、良いぞ!もっとこのアホ垂れに言ってやってくれ彼女さん!)
流石に、この状況でまともな精神回路を持っていたらしい彼女さんからは、この状況に対する遠慮なのか抗議の声が上がり、思わず心の中で賛同する声を止められそうにない。
「気にしなくて良いよ。エリちゃんとの旅行なんか久し振りだしね。」
(っ…!この野郎…!人の事をタクシードライバーか何かと勘違いしてねーか…!誰が宿泊先のホテルに急いで予約状況の確認やら、無理矢理頼み込んで隣の部屋にアサイン掛けてもらったと思ってやがる…!)
余りにも身勝手なその言い分に、悪態が口を衝いてしまいそうになるのを、彼女さんが居ることを考えて何とか堪える。
確かにこのような状況も、この友人と一緒に居て初めての事ではない。
中学時代、高校時代、そして大学時代、思い出すだけでこの友人と二人で会う時に彼女同伴だったことなぞ最低3回以上はあるのだ、一度目は苦笑で許し、二度目は憤り、三度目には呆れを通り越してどうでも良くなった事以外何も覚えていない。と言うか余りにもあれ過ぎて早々に記憶から消した。
だってあれだぞ!?友人宅で駄弁ってたら急に彼女を呼び出して、来たと思えばこっちを放置でベッドの上で二人だけの空間を作り始めるとか…正気か!?あれか?プレイか?他人に乳繰り合ってるのを見せつけて新たな境地を開拓するプレイなのか!?こちとら部屋を出ていくわけにも行かず、興味の無い漫画を必死に読み込んでいたんだぞ!その時の気持ちがお前にわかるか!?
…………。
いかん…思わず記憶の奥底に沈めた筈の情景を思い出して更なる怒りが込み上げる所だった…。
深呼吸、深呼吸…。すっすっはー…。鼻から大きく息を吸い、ゆっくりと口から吐き出す。
様々な呼吸法を試し、荒ぶりそうな心を何とか落ち着かせ、気合いを入れて二人の会話に少しだけ口を出す。
「あははは、えっと…藤嶋さん…だっけ?気にしなくて良いよ、野郎だけの二人旅ってのも何か寂しいしね。それに、こいつの奇行には慣れてるから、気にせず楽しんでよ。」
嘘だ。今すぐにでも、あんたの隣でヘラヘラしてるそいつの顔面に1発キツイのをお見舞いしてやりたい気分だ。
だが、こちとら社会人3年目。もう本音と建前が人間関係を円滑に進めるための手段だ、と言うのは嫌と言うほど味わっている。
最早スタートしてしまった以上、これ以上ギクシャクしているのも疲れるだけだ。折角の旅行だ、楽しめなければ嘘になる。なれば少しの間このスイーツ空間に居ることすらも享受しよう。
そう思えば後は簡単だ。未だに燃え続ける怒りを腹の奥底に沈め、ただ許しを与えるような菩薩の如き精神で対処するだけだ。そうすればきっとこのアホも、先に自分がしでかした事を悔い改め旅行中は節度を持った距離感で彼女さんと接してくれるに違いない。…きっと…多分…そうだったら良いなぁ…。
「う、うん…。」
「ほらな?言っただろう気にしすぎだって。」
「で、でもさ…。」
うん、彼女さん。あなただけが今は便りだ。この旅行中そいつの手綱は頼んだよ…。じゃないと折角の旅行だと言うのにストレスで胃に穴が空きそうだ…。
そして、その隣で呑気なことを言ってる彼氏…。今度会ったらそん時は覚えておけよ…。
「そうそう、野郎二人のむさ苦しい旅に比べたら、藤嶋さんが居てくれる方が何倍も楽しいだろうしね~。」
―――車は走り続ける。その先にある結末に向けて―――
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