0029話 side アン
―――私達に協力して頂けませんか?というお願いですね。―――
自分がしたことなど知らないとばかりに、しれっとそう言い放つベンゾ。
(協力?協力じゃと…。こやつ、自分で兵をけしかけておいて協力しろと言うのかこやつは…。)
あまりにも自分勝手な言い分に、怒りを通り越して呆れてしまうアン。
『お主は自分に剣を振り上げた相手に力を貸すのか?』
「時と場合によりますかね。私にもリターンがあるならばその話しに乗るのも吝かではありません。が、そうで無いならそんなふざけたことを抜かした相手をその場で殺害するでしょうね。」
今にも話を切り上げようとするアンに対して、あくまでおどけた態度を崩さないベンゾ。
アンは今にも帰りたい衝動を抑えもう少しだけ話を続けようと試みる。
『で?お主の目的は?何の為に儂の力を求める?』
「流石にそれは協力を確約頂いてからでなければお話しできませんね。ただ、どうしてもあなた方“龍種”のお力をお貸しいただきたい事だけは確かです。」
(自分で内容次第、と言うておきながら協力を求めるときにはその目的も行動理念も教えず、ただその力のみを求める。これは―――)
『話しにならんの。お主の戯れ言に付きおうてみたがこれっぽっちも惹かれるものが見つからん。今すぐこの場を立ち去るが良い。』
アンは辺りの魔素に伝える力の量を増やし、より大きな音としてベンゾに伝える。
「はぁ…。やはりダメですか…。だから―――やり――ダメ――――たんですがね…。」
アンの返答に大きくため息を付き、残念そうに肩を落としブツブツと呟きを漏らす男。
『なんじゃ、まだ何かあるのか?』
「いえ、なんでもありませんよ。只の独り言です。ではこの辺りで失礼させて頂きます。あぁ、それとこの体は、後数秒で自壊します。なので嫌がらせに壊すとかしなくても大丈夫ですよ。勿論魔素に帰るだけなので環境にも優しいです。素晴らしいですね。」
『つまらんのぅ…。』
今、正に相手へのせめてもの嫌がらせとして人形を壊そうと考えていたアンは、思わず舌打ちと共に不満を口にだす。
「最後に、私たちは何時でも貴女達をお待ちしております。その気になりましたら見つけ出してお声掛け頂ければ幸いです。では、これにて。」
最後の最後まで言いたいことだけを言い終えると、まるで最初から居なかったかのように霧に紛れてその形は薄れていく。
(分体に見張らせていた魔術具の方も同時に消え去ったか…。これで完全に辿ることは出来なくなったと…。)
ため息を1つつき、分体を消し去る。と同時に森の中で待機していたアンの本体が露になる。
「さて、大分オロス達を待たせてしもうたかの…。」
誰にともなく呟くアン。その足は洞窟へと向けながらも思考を続ける。
「しかし…。“龍種”を感知することに長けた者を従え。かつその力を畏れるでも敬うでもなく、利用しようとする…か。人間どもはいつの時代も度しがたいのぅ…。」
自らの思考を取りまとめるように、言葉に出して今あったことを確認する。
「しかし、肝心の奴等の目的が分からぬのでは、考えるだけ無駄じゃな…。」
それだけ言うと思考を止めるように、その場で頭を振る。
トンと1つ爪先で地面を叩く、次の瞬間にはアンの姿はその場から掻き消える。
残ったのは哀れな骸と、強者が去ったことにより、その血肉を喰らおうとする隠れ潜む獣達。
霧に包まれた静かな森の中、肉を喰らい、骨を砕く音だけが響き渡る。
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