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0028話 side アン

今回も少し長め。

分体(・・)を通して不快な来訪者を一方的に虐殺したアンは森の中でその様子を確認し終えた。


(さて…。来客も終わったことじゃ、帰るとするかの。)


霧に覆われた森の中、辺りに倒れ伏す騎士達を一瞥して踵を返す。周辺には獣の気配も感じられる。きっと倒れた騎士達の掃除は獣達がしてくれることだろう。


(先程一人わざと見逃したが…あれは国には帰れんじゃろうなぁ…。もう少し残すべきだったかのぅ…。)


そんな中で、洞窟へと一歩を踏もうとしたところ、分体の目に突然人影が写り込む。


(ん?まだ生き残りがおったか?…やはり鈍っておるのぅ…。まぁ逃げるようならあれも見逃して構わんじゃろ…。)


最早来訪者には微塵の興味も無いアン。用は済んだとばかりに分体を消そうとした時、人影から突然声がかかる。


「いやぁ!素晴らしい!流石“龍種”は違いますねぇ!まさかあの数の騎士が瞬きの間に全滅してしまうとは!やはり試しておいて正解でした。いやはや、あの程度のレベルではお遊びにもなりませんか。」


興奮したように声を上げ、そしてしみじみと呟きを漏らす。


そして引っ掛かる事が1つ。


(なんじゃと?今あやつ“龍種”と申したか?それに試す、じゃと?)


その人影が言った“龍種”そして“試す”と言う言葉から、どうやらここに“龍種”が居ると知りその実力を“試す”為に来たと言う事を思い付くアン。


(しかし何故じゃ?“龍種”の事を知っているのならば、尚更こんな所には近づかないようにするのが普通(・・)の人種族じゃと思うたが…。)


現れれば災厄を辺りに振り撒く存在。それが“龍種”に対する文明を持つ者達の基本的な認識の筈。そして、例え現界している場所が判明したとて決して手を出してはいけない、と言うのも共通認識として浸透している。


何故なら手を出せば待っているのは確実な破滅だけなのだから。それは例え優れた文明を持つ国で有ろうと、英雄と呼ばれるような強大な力を持つ者が居たとしても変わらない。


共通認識を無視して行動していると思われる人影に、アンの思考は空回りを続ける。


(なんにせよ、敵対の意思を持ってここに来た、と言う事かの?ならば潰すか?しかし奴が単独で無かった場合は後ろに居る者を潰すのが面倒じゃのう…少し游がせるか…?)


が、そんなアンの思考など知ったことかとばかりに人影は独白を続ける。


「おっと、失礼。挨拶がまだでしたね。お初に御目にかかります、(わたくし)ザジル・ベンゾ、と申します。以後お見知りおきを“死を喚ぶ霧の闇龍”殿。」


霧の中から人影の姿が分体の目に見える距離まで近づいてくる。性別は男、森の中には凡そ適切とは思えない背広に身を包み、時季違いと思われるロングコートをその上に羽織っている。頭には洒落たハットを被り、そのつり上がり気味の目は糸のように細められている。


(ふむ…妙な出で立ちの男じゃのう…。分体越しであるならば警戒する必要もあるまい、少し言葉を交わすのも一興かの。)


そう決めるとアンは己の体を宙に溶かし、分体に意識を集中する。


一瞬で分体の周囲の魔素を掌握し、相手が妙な真似をすれば即座に反撃できる体勢を整えると魔素を通してザジル・ベンゾと名乗った男に語りかける。


『ふむ、確かに儂が“死を喚ぶ霧の闇龍”と人の間で呼ばれておる事は間違い無い。しかしベンゾとやら、何故儂がここに居ることが分かったのかのぅ…ここに居ることは例え他の“龍種”であっても知らぬ筈じゃが?』


そして、己が抱いていた一番の疑問を投げ掛ける。


そう、この場に居ることは例え同族であっても知らぬこと。何故なら初めて現界してとある国の都に暴虐の限りを尽くした後、アンは一度もその権能を振るった事が無かったのだから。


力を使わねば他の“龍種”で有ろうともその存在を感知することはできない。それが長い年月を生きる間にアンが身を持って知った事実なのだから。


「ふふ、興味を持っていただけましたか?しかし流石にそれを教えてしまうのは問題があるので、出来ない相談ですねぇ。」


対して男は質問に答えることはせず、ただニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるばかり。


『…別にお主を拷問にかけて吐かせても良いのじゃぞ?』


「おおっと、それは恐い事をおっしゃる。しかしこの体は仮初めのもの。別に、煮るなり焼くなりしていただいても一向に構いませんよ?」


少し威圧を発しながらアンが脅しを掛けてみるが、男もそれは予想済みだったのか、おどけた調子で答える。


(ふむ…体から魔素のラインが延びておる。仮初めの体、と言うのは本当らしいのぅ…しかしまだまだ甘いの。魔素のラインを辿ればお主の本体に辿り着けると言うものよ。)


瞬時に言葉の真偽を確認すると別の分体を作り出し、男に分からぬよう魔素のラインを辿らせ始める。


「あっ、それとこの体から私本体に辿り着くのは無理だと思いますよ?特製の魔術具を使った中継器を介してこの身体を動かしていますし。」


男の言葉に遅れて分体が魔術具の元にたどり着く。そこからは何処にも魔素のラインが延びていない。恐らく隠蔽系の魔術で阻害されているのか…それとも未知の技術か。


(どちらにせよ、“龍”の目すら欺くか…。ちと厄介なことになったかの。)


宙に溶けたまま新たに判明した事実に思わず頭を抱えそうになる。


『…どうやら、そのようじゃな…。』


「おや、もう発見してしまいますか…。いやぁ、危ない危ない。」


アンの敗けを認めるかの用な発言に男はふざけた調子で返している。その態度が妙にアンの心を苛立たせる。


『で?一国の兵を動かし、代理の身体を使い。こんなまどろっこしい真似までして一体何が目的じゃ?』


もう前座はここまで、とばかりにアンは本題へと切り込む。その時に腹の探りあいが面倒、と言う感情が威圧とともに出てしまったのはご愛敬だろう。


「せっかちな方ですねぇ。折角永い時を生きるのです。もう少し余裕を持ってみては?」


『喧しい。お主の相手をするのは疲れるから、さっさと本題を話せと言うておるんじゃろうが。さもなければその人形、今すぐにでも潰してしまいそうじゃ。』


「おやおや、丹精込めて作った身体を人形とは。流石にこれ1つ作るのにそこそこの労力を使っていますしね、壊されても堪りませんからお話しするとしましょうか。」


そんなアンの脅しをものともせず、ヤレヤレと態度に出して話すベンゾ。そんな態度にまた苛立ちが募るアンだったが、もう少しの辛抱だと、今すぐにでもその人形を壊したい衝動を抑える。


そんな葛藤など知らぬとばかりに男は話し続ける。


「先ずはあなたの力が本当に噂通りの物なのか試してみたかった、と言うのが1つ。そしてもう1つは―――」


態度を改め、姿勢を正し話しかけてくるベンゾ。アンもその話を黙って聞く。



「―――私達に協力して頂けませんか?というお願いですね。」



いつもお読み頂き有難う御座います。


昨日より更に長くなってしまった…。


そして、今回も一話で纏められず…一応次でアン視点が終わり、その次からオロス達に話が戻る…筈です。


はい、予定は未定なので期待せずにお待ち下さい。

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