0027話 sideとある兵士
ちょっと長め
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(何で?なんで…!何で!?)
声が響かぬよう必死に手で口を押さえ心の中で絶叫する。
意味が分からなかった。考えたくも無いのに、あまりの衝撃に頭の中であの光景がひたすら繰り返される。
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「っち!ふざけた奴だ。おい、貴様!そこを塒としているのなら中の構造にも詳しかろう。この洞窟の最奥まで案内せよ!それを持って今回の無礼見逃してやる。」
相手の態度に腹を立てたのか、後ろに控えていた隊長から怒声が上がる。
(面倒な事になってきたな…。貴族上がりの坊っちゃんが…黙って副隊長に指揮を一任して大人しくしてれば良いものを…。)
俺が気に入らないと思っていた理由の1つ。それは隊の総指揮を取るのが、今よく分からない相手に怒鳴り散らしている貴族の三男坊だと言うことだ。
録に騎士としての修練も積まず、親のコネだけで騎士団の士官へと成り上がった糞野郎。
コネで入ってくるのはまだ許せる。そんな奴は大勢居るしな。だが、騎士団に入ったからと言って何もせず。あまつさえ騎士団の資金をちょろまかし、自らの懐に仕舞い込み。隊の世話をしてくれている侍女連中にまで無理矢理手を出す最低のクズ野郎。
更に奴には公爵家(王家)の血が流れている為、例え騎士団長であっても事を大きくできないのだから最早手に負えない。
そんなゴミの言葉にアレが言葉を返す。
『ほう…。この儂に無礼とは…大きく出たのう。』
辺りの季節が突然冬にでもなったのかと言うほどの寒気が走る。ガチガチと周辺からも歯を震わせるような音が響き出す。
寒気の正体は殺気。目の前の存在から放たれる圧倒的なまでの殺気が辺りを支配する。
(ヤバいやばいヤバイ!前に騎士団長と組手をした時にも戯れに殺気を飛ばされたことがあるけどそんなレベルじゃない!)
恐怖と焦燥。そして、この状況を生み出した元凶への負の感情に心が支配される。頼むから、もうこれ以上余計なことをしないでくれ。一刻も早くこの場を立ち去りたい衝動に駈られながらもそんな願いが声にならない声となって口をつく…
…が、そんな祈りはバカには届かない。
「き、貴様!この私の命令が聞けないと言うのか!良いだろう、ならば先ずはその使い魔を八つ裂きにし、後に貴様自身も惨たらしく処刑してやる!全隊突撃!目標靄状の使い魔!」
(終わった…。)
視界が効いていなくても、今奴が顔を真っ赤に染め上げて、そのでっぷりと突き出た醜い腹部を揺らし激昂している姿が目に浮かぶ。
突撃の号令が掛かるが誰一人としてその場を動こうとしない。いや、動けない。目の前に居る存在から放たれる殺気に、最早身動きを取ることすらできず、ただ震える事しかできない。
『そうか…。それが答か…。残念じゃ…。』
繋げられた魔術によって頭の中に響く最後通告。
辺りの霧が黒く染まる。咄嗟に口と鼻を手で覆う。視界が滲む。
すると、突如咳き込み出す同僚達、何かを吐き出すような音。そして、ガシャガシャと身に纏っていた鎧が地面にぶつかる音が連続して響き出す。次いで聞こえてくるのはあの悪魔の声。
『ふむ、まぁこんなもんかの…。何人かは生き残っておるじゃろうが…まぁ良いじゃろ。この声が聞こえておるものは、しかと国本に戻り伝えるが良い。』
一拍の間。そして悪魔は続きを囁く。
『次は無い。もしもこれで懲りなんだら…。お主達の街が、国が、その全てをこの黒き霧が覆うと思え。』
おまけとばかりに先程以上の殺気が叩き付けられる。が、言葉通りにそれ以上は何も起こらず、辺りの霧も元の色を取り戻す。相変わらず視界は悪いし、先程の黒い霧の影響か、目には涙が滲み良く見えない。
口許から手を離し目を擦る。そして目を開けると飛び込んできたのは倒れ込み、ピクリともしない同僚達の姿。見えている範囲で立っているのは俺とあの靄だけと言う惨状。
「ひっ!?」
この場所から、そしてこの惨状を生み出した奴から今すぐにでも逃げ出さなくては。それだけが俺の思考を支配する。
駆け出すことはできなかった。脚が縺れ無様にその場で倒れ込む。それでも一刻も早くこの場から逃げようと、立ち上がる事すら忘れ、ただ這って進む。
早く早くっ――――――
ただ前に進む…
早く早くっ――――――
枝葉が顔に傷をつけるが、そんな事はどうでも良い。今はただ前へ…
はやくはやく――――――
最早どれ程の距離と時間を移動したのかも分からない。徐々に腕の力が抜けていく。
(あっ…。ダメだ…こんなところで…。)
そして、意識が真っ白に染まる。
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「うっ…。お”ぇぇぇぇ!」
込み上げる吐き気のままに嘔吐する。
最早、先程の場所がどこだったのかも分からないくらい離れた筈なのに、未だに恐怖で体が震える。
(早く離れないと…。)
未だ覚束ない足取りで歩き出す。一刻も早く、一歩でも遠くあの場所から離れるために…。
いつもお読み頂き有難う御座います。
次回はアン視点…の予定です。




