0025話 side とある兵士
鬱蒼と緑が生い茂り、濃い霧の立ち込める森を斥候の指示に従い行軍を続ける。
兜の面を降ろしていないとは言え、これだけの霧が立ち込めていると歩きづらいことこの上ない。
しかも、霧が鎧や服に張り付き露となって全身を濡らしていく。うっとおしいったら無い。
「…はぁ…。なんでこんな任務に向かわなきゃいけないんだ…。大体信用出来るのかよ、アレ。」
「おい、静かにしろっ…!隊長や後ろのあいつに聞こえたらただじゃすまないぞ…!」
「す、すまないっ…!」
「頼むぞ…。何かあったら罰されるのはお前一人じゃないんだ。」
思わず漏れたぼやきは隣にいた同僚に聞こえてしまったらしく声を潜め注意されてしまう。
憂鬱だ。大体、将軍閣下からの命にも関わらず、軍部にまったく関係のない人間が同行していること自体おかしいと思うのだ。
それに、今回の任務内容、詳しいことは一切知らされておらず。ただ特例として同行している者が本任務に置いて非常に重要なため、絶対に粗相の無いように、と言う程度の事しか知らされていない。
それでいて目的地はこんな霧の深い森の奥ときた。これでは多少愚痴が溢れても仕方ない、とは思って貰えないんだろうなぁ…。
「全体!止まれ!!」
そんな事を考えている間に目的地へ到着したらしい。副隊長から全体停止の号令が下る。
森を抜け辿り着いたのは大きな山の麓、そして目の前に見えるのは洞窟の入り口だろうか?
辺りには相変わらず濃い霧が立ち込めて側に居る同僚以外の姿は朧気にしか確認ができない。
「ここで小休止とする!輜重部隊は全員に水と食料を配れ!」
良かった。やっと休憩か、森の入り口から凡そ3刻ほとんど歩きづめだったからな。
周りにいた同僚たちは一様にその場でへたりこむ様に腰を降ろす。
同時に糧食の管理をしていた輜重部隊が小隊毎に糧食と水を配給していく。
配られたのは固いパンと少しのチーズ、それに温くなった水だがこんな環境で贅沢は言ってられない。近くに座る同僚達と無言のままモソモソと食べ始める。
口にパンを含んだまま辺りに視線を巡らせると、今回の同行者と中隊長らしき人物がいつの間に建てたのか、臨時のテントに入っていく姿が見えた。そして、その後に中に入っていく輜重隊数名と隊員が抱える箱。
数瞬の後、テントの中に炎の灯りと見られる物がゆらゆらと揺れ始めるのが見える。
「けっ…。俺達はこんな所で濡れ鼠のまま貧相な食事だってのによ。やつらはテントの中で火に当たりながら食事と来たもんだ。」
「おい…!いい加減にしろ。隊長達と私達一兵士の扱いが違うのは当然の事だろう!」
「でもよぉ…。」
「でもじゃない!そんな無駄なことを考える暇があるのならこの後の任務で全力を尽くせるよう、少しでも体を休めていろ。」
そんな同僚の言葉に同意するかの様に周囲の仲間は皆こちらに非難の視線を向けている。
「…ちっ!分かったよ…。」
一体こんな森の奥にある洞窟になぞ、何のようがあると言うのだろうか。
言い様のない不安だけが増していき、ますます悪態が口をつきそうになるが周囲の雰囲気的に口にすれば今度こそタダでは済まないだろう。黙っているしか無い中、胸の奥がザワザワするような不安だけが増していく。
(あぁ…早く帰って昌館にでも行きたいぜ…。)
そして、その時は近づいていく―――
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