0019話
しかし、そんな事を考える必要はすぐに無くなった。
アンは一度だけ頭を振るとこちらを見て話を続ける。
「いや、すまぬ説明の途中であったの。」
…いや、それは良いんだけど…大丈夫…か?
「今や遠い昔の事じゃ、今更お主が気にするような事ではない。」
それだけを言い切るとアンは先程の続きを話始める。
「では話を戻すぞ?この薬を使ったものがどうなったかのか、と言うところまでは話した通りじゃ。しかし、ここである疑問が生まれる。それは何故服用したものがそのようになってしまったのか、じゃ。」
先程よりもはっきりとした口調で話すアンを見て大丈夫そうだと思うのも束の間、アンの提示した疑問に意識を移す。
…なるほど、確かに結果があるなら原因があるはず、その原因が薬の副作用以外だと言うのなら確かに気にはなるか。
「うむ、この薬の作成者も同じ疑問に至ったのじゃろうな。実験を繰り返し行い原因を探ることにした。そしてある結論に行き着いたのじゃ。それが“魂”の渦負荷による消滅という現象じゃ。」
…魂の渦負荷…ね。
「うむ、どうにも魂と言うものにはある程度許容できる限界があるそうじゃ。この薬の場合は己の肉体の変質、そして受け取る情報量の増加に自らの魂が耐えきれ無かった事が原因のようじゃの。」
そこで一旦言葉を止めるとまた口を開く。
「お主の魂がどの程度変質に耐えきれるかは分からんがな。じゃが、分からんからこそ軽々に手を出すべきではないと儂は思うぞ?」
…まぁ、それを聞いて無理にでも、とは思わないかな。
「うむ、それで良い。さて、前振りだけで大分時間が掛かったがここからが本題じゃ。お主が何故魂だけの歪な存在の仕方をしているのか、と言う事についてじゃの。」
…?今の俺の状態と言うのは普通の事じゃないのか?その割には普通に話してるけど?
そんな俺の思考を読み取ってか呆れた様な表情をするもののそのまま話を続けてくれる。
「お主のような状況が普通であるはずが無かろう。しかし、その状態に心当たりはあるがの。」
…そうなのか…。しかしその心当たりとは?
「うむ、通常であれば体、つまり入れ物が出来てからそこへ魂が吹き込まれる事で命が生まれる。しかし希にではあるがその流れが逆になることがある。」
…つまり俺の場合はその順番が逆転している、と?
「そう言うことじゃの。まぁお主はその中でもかなりの変わり種じゃがのぅ。普通は魂は生じた段階では無垢なものじゃし、お主のように何かを思考したり、まして他の存在に自らが紐付けされている、と言うのは見たことも聞いたことも無いの。」
…そうだったのか…。まぁ気にしても仕方無いからあるがままを受け入れるけどね。しかし、オロスに存在を紐付けされてる、ってことは離れられないって事?
「うむ、今回のように儂が無理矢理引き剥がさねば無理であろうな。まぁそれも自らの体が出来るまでじゃ。体が出来れば魂はそちらに同化し自由に行動も出来るじゃろうて。」
…なるほど、なら焦ることは無いか。しかし色々な事を教えて貰ったが良かったのだろうか?教えて貰ってもこちらには渡せる物など何も無いんだが…?
そんな思考を伝えようとするとアンがはっ、としたように顔を上げる。
「む?オロス達が起きたか。今日はここまでじゃな。――――――――」
それだけ言うと体を視界の端に写っていたもやが晴れる、と同時に何かに引っ張られるような感覚を覚え、視界が急速に変化していく。
気付くとオロス達の寝ていた部屋におり、アンが言った通り二人が目を覚ましていた。
…最後にアンが何かを言っていた気がするけど何だったのだろうか?