0009話
炎に照らされた洞窟を、彼はズンズンと進んで行く。脇と背に増えた荷物を抱えているが、明るくなった影響かその歩みは最初に比べると随分とスムーズだ。
最早全てを諦めたのか脇に抱えられた状態で、手足を完全に脱力し荷物と化した少女が口を開く。
「ねぇ…。ちゃんと着いていくからさ、降ろしてくれない?」
「駄目だな。歩幅が違うから一緒に歩くとなると合わせなきゃならんだろう。そしたら余計な時間を喰う。それならこの方が手っ取り早くて良い。」
「…あぁ、そう…。もう好きにして…。」
しかし、少女の意見は聞き入れられなかったようだ。その瞳から光が消える。その頬がやや赤くなっている様に見えるのは羞恥心からだろうか?
と言うか、こんな誰も居ないような洞窟の中で羞恥心も糞も無いだろうに…。それとも、まるで荷物のように扱われている現状がそんなに不満なんだろうか?
そんな事を考えていると彼が急に立ち止まる。道は一本道で、迷ったと言う訳ではなさそうだが…。
「おい、何か聞こえねぇか?」
「…知らないわよ。私は唯の荷物よ。あなたは、荷物に話し掛ける変な趣味でも持ち合わせているの?」
「あぁ!もうめんどくせぇ!…ほら、これで良いのか。」
そう言って脇に抱えていた荷物(少女)をその場で降ろし、宥めるように声をかける。
「…はぁ…。それで、何よ…。」
「いや、だからな?何か音が聞こえねぇか、って聞いたんだが…。悪かったって、今後はもうちょい何か考えるから。機嫌直せって…。」
「言ったわね!絶対だからね!?…ごほん。っで?何、音?私には特に何も聞こえて来ないけど?」
「使えん。これなら態々降ろさなくても良かったか。」
「何か言ったかしら?」
「何でもない、気にするな。ほら、急ぐぞ。もしかしたら水場を見つけたかもしれん。」
「って!ちょっと!?さっきと全く変わってないわよ!!走り出すな!人の話を聞けーっ!」
再度少女を脇に抱え走り出す彼。少女は話が違うとばかりに喚くが彼はそ知らぬ振りである。…いや考える、とは言っても実行するとは言ってない。と言うのはこの事なんだろうか…。
「もう!いやーっ!!」
洞窟の中には、ただただ少女の悲痛な叫びだけが響き渡る。
―――――――――――――――――
走ること数分、辿り着いたのは先程よりも大きな広間であった。その中央には大きな地底湖だろうか?天井から水滴が、ぽたり、ぽたり。と音をたて湖に落ちている。恐らく、彼が聞いたのはこの音だったのだろう。
しかし、それなりの距離を走った筈だが、そんな先の音が聞こえるとはな…。彼の聴力は相当良いのだろうか?
「ふう…。これで暫くは大丈夫だな。」
「………。」
彼は改めて少女をその場で降ろし、安堵のため息をつく。少女は無言。最早何かを悟ったような顔をしているが…。大丈夫だろうか?
地底湖に、炎の灯りが反射しキラキラと輝いて見える。この広間は相当広いのか、少女の生み出した火球では奥まで見通す事が出来ない。
彼は湖の近くまで行くとその場でしゃがみこみ、片手で水を掬うとそのまま口を付けて飲み始める。
湖は見えている範囲だけでも凡そ50m位はあるだろうか?かなり広く、水は透き通っているにも関わらず底を見通す事はできない。深さも相当にありそうだ。
「…っぷは!よし、これで2時間くらいたって何も無ければこの湖は特に問題ないだろう。」
「………。」
「おーい!俺はこの周辺を少し見て回るけどどうする?」
「……はぁ…。良いわ、着いていくわよ。また荷物扱いされちゃかなわないしね。」
やや憮然とした表情で答える少女であったが、多少耐性が付いてきたのか――もしくわ、ただの諦めか――もう、普通に会話を交わしている。
そして、湖を中心に移動すること数分それはあった。
凡そこのような洞窟の中にはとても似つかわしくないソレは――
「何で、洞窟の中に家があるんだ「のよ」?」
木造の一軒家であった。