中編3
4話目です。
死者は道に縛られる
生者は死者が居ることを望み
死者は生者に縛られる
死者は生者を呪う
生者に消えない痕を永遠に残した
死者はあの世に旅立つ
永遠は残り続けた
魂と呪いは一つではない
「私の右腕は、えたいの知れないモノに侵されてたの……?」
弟がまだ事故の現場で縛られているというのなら
この腕に弟だと思っていたコレ……
この腕を弟の片身と思い捧げてた私
痛みに泣き、葛藤を繰り返した私
腕を見下ろしながら心は激しい慟哭を叫んでいた
心臓が痛くなる
今までいとおしくも思えた腕の痕は蟻塚の虚穴の様に得体の知れないモノに見えた
先ほどとは違うおぞましさが胸を這いずり登っていく
「じゃあなんだって言うの」
思わず語気が強くなる
みっちゃんも私の様子に気づいたようで「落ち着いて」となだめた
「私もこんなことになってるなんて思わなかった
ここで見せてもらうまでは知らなかったもの!」
そういうとみっちゃんは立ち上がり考えこむように腕を組んだ
「私が一つ言えることは貴女が事故現場に
行ったときからその痕がつきはじめたことと、
貴女の弟が縛られているのは無関係ではない
ってことくらい
だから早く弟さんのところにいってあげた方がいいと思う」
――
今朝も腕に噛み痕がついた
…………
夕日に赤く染められたあの道に私達は来ている
世界の影は色濃さを増し、一時の世界の変貌を感じさせる
夏の湿度の高い生暖かい風の息苦しさも相まって私の体は重たく呼吸しづらい
何時もの道だったのにまるで知らないところに来たように思えた
みっちゃんにそう言ってみると
「太陽と月の境目であるこの時間は冥界のモノが顕著に出てくる……」
実にらしい答えが返ってきた
いつも通りの彼女に少し安心する
「ここで何をするの?」
彼女が話し続けるのを遮って尋ねる
前の日、私がここに来なくてはいけないと諭され、
二人で来た
世界は赤黒く染まり、隣のみっちゃんの顔さえ黒く染まったようにはっきり見えない
それでも不思議とその輪郭が少し不機嫌そうに象られたのがわかった
「……だからいってるでしょ?
ここは、あの世に繋がる境に一番近いの
だからこの時間に貴女に“対話”してもらって成仏させるの」
「対話?
また弟と話せるの?」
「そう、お祓いって霊とお話して納得して帰ってもらうことを指すの
それは身内の人間か、強力な霊媒師しか出来ない」
ずっと沈みがちだった私の気持ちがすこしばかり上気する
「でも……前来たときは話せなかったけど」
「それは……」
一度言葉を切るみっちゃん
少し考える様子を見せた後、言葉を繋げた
「…霊になるって言うのはとても稀なこと
普通死んでしまった人はこの世でさ迷うことはあっても死を受け入れて去っていく
そしてそういう人達と対話は出来ないの
対話するのは縛られた人達」
「縛られた……人」
私が呟く
その様子に「そうなの」と頷きながら
「おそらく弟さんは“貴女”に縛られている」
「私に?」
「そう、事故の後見にきた貴女に
噛み痕はそれでついているのだと思う」
「……」
話を聞いて絶句する
私が、弟を縛っていた?
認めたくない思いが湧いてくる
でも……
「……そうかもね」
弟にいてほしいと願ったのは、私
本当の弟をこんなところに一人にしておいて私は勝手に噛み痕なんかを弟と思い込んだ
「じゃあ…話せる?」
私も覚悟を決めた