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噛み痕  作者: M.O.I.F.
3/5

中編2

三話目です。

魂と呪いは一つではない?

「それで、話って?」

私の部屋に招き入れたとたんみっちゃんが聞いてくる

二階にある私の部屋に来るときに私の親を見ていたはずだけどみっちゃんは何も聞かずに上がってくれた

私自身初めて話すだけに緊張する

弟と私の奇妙な関係はもう私一人で抱え込むことはできなくなっていた

確かに弟は側にいる―けど


私はいつも袖で隠している右の腕を捲って見せた

「……包帯?」

怪訝な顔をして聞いてくる

私は意を決して腕の包帯を取った

息を飲むみっちゃんの声

私は涙をこらえ自嘲気味に笑った

無理はない

私の腕は“無数の噛み痕”に埋め尽くされていた


―――


私が事故の一月後に“噛み痕”がつくようになってから其れは毎日決まった時間に起きるようになった

まだ小さい弟が噛むだけだから最初は少しの痕が残るだけだった

でも止めたり、叱ったりする人がいなくなった弟は歯止めが効かなくなったんだと思う

次第に痕は深くなり、腕から消えなくなった

“噛み痕”は痛みを伴い、私は毎晩歯噛みし泣いた

もう、嫌だ

何度もそう思った

でも、私の弟なの

私のせいで死んでしまった、弟

だから嫌だと思う度に私が途端におぞましく思えた

ベッドの上で痛みに泣く度に嫌だと思う

其れがおぞましくて、心が叫びたくなるほど痛む

ずっとそんな毎日だったの


―――


「ずっと……」

―辛かったの

そう言おうとして言葉が止まる

其の言葉が弟を非難するように感じた

……

「……みっちゃんはどう思う?」

見も蓋もない質問をしてしまう

私は、答えが欲しかった

沈んでしまった私の心を

包む何かを、答えを求めていた

みっちゃんは暫く考えこむように目をふせたあと

……

……

「……辛かったんだ、ね」

言い出せない言葉をはっきり言われて、救われた気がして――

途端におぞましくなった

「やっぱり……私、そんな風に思ってたんだよね」

部屋のマットに膝が落ちる

体が震える

また、弟を失った気持ちが湧いてくる

その感情が足の指先から全身を這いずり廻って私は身を縮めた

「……どうしたら」


長い間震えてた気がする

「…私ね」

崩れた私の高さにあわせて座りながらみっちゃんは切り出した

「色々調べてたの

あの事故のこと。

貴女が事故の関係者って知ってからは余計にね」

「え…?」

一瞬何の話をしていたか判らなくなった

狼狽えた私を見据えてみっちゃんは真剣な様子で言葉を繋いでいく

「私のお母さんがね、あの道を通る度に呟いてるの

“打ち捨てられた子が後悔に泣き伏せている”

そのあとはいつも“私ではどうにもできない”

って呟くの」

みっちゃんの家庭は占い師をしている

急な情報に私の頭がフリーズする

理解が追い付かない

あの道……?

「だからね」

あの道って……?

「あの道の事故にあった子の家族の貴女がいかなくてはいけないの」

事故。

子。

私の頭でその言葉が回り、一つの形になっていく

全ての言葉が繋がった時、私の頭を疑念が大きな警鐘音を鳴らした

「じゃあ…」

「え?」

弟がまだそこにいるのなら

「私の…

私の腕に噛みついているのは何???」



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