**第3話
気まずい夕飯を終えて、そうそうに布団に入った。
つかまれた手が、まだじんじんと疼いている。
わけがわからなかった。
あたしは彼よりも勝っていたはずで、なのにかなわなかった。
それにタカユキくんのこともそう。
あたしがタカユキくんを好きだなんて、どうしてそんなことを思ったのだろう。
近づいた顔。
吐息が、顔をかすめた。
泰斗の顔が、声がまだ残っている。
「ゆい」
はっきりと声が聞こえたらと思ったら、急にドアが開いてぱたんとしまった。
こんなデリカシーのカケラもない行動はヤツにしかできない。
「……勝手に、入ってこないで」
「結依、さっきは、その、ごめん」
あたしは布団から顔も出さずに、その情けない声を聞いていた。
いつもの彼だ。
「しらない。アンタなんて顔も見たくない」
あたしの気も知らないで。
「ごめん」
「出てってよ」
この言葉は、きっと彼を傷付けている。
でも、こっちにも意地があった。
あんな風にされて、黙って許してやれるほど、あたしは冷静でいられない。
あたしは彼より勝っている。
なのに、このプライドはつかまれた腕の痛みでもろくも崩れ去った。
「ゆい」
「出てって。アンタなんか大嫌い」
たまらず布団から這い出て、目を見据えて言い放った。
くやしくて涙が出そうだったけど、コイツの前では絶対に泣かない。
あたしは、泰斗に弱い部分なんて見せない。
「俺は、ずっとお前のことが好きなんだよ!」
バカがバカみたいな声を出して、部屋を揺るがす大声でそうどなった。
「ちょ、なに言ってるの。しかも声、大き…」
「るせえ! 俺はお前が好きなんだよ! タカユキタカユキ言いやがって」
「言ってないわよ!」
「いーや、お前はいつもタカユキと俺を比較してんだよ。俺はお前に惚れてんのに、他の男の名前なんか出すな」
好き?
惚れてる?
バカみたいに大きい声でどなるものだから、言葉がアタマで理解されない。
泰斗があたしを好き?
「前言撤回だ!もう謝らねえ!いいか、俺はお前が好きなんだ。明日から死ぬ気で追いかけるぞ!わかったか!」
「か、勝手に何言って」
「捕まえたら、どうなるか覚悟してろ。逃げるなら、必死で走れよ」
そういうと泰斗はくるっと後ろを向いて、階段を下りていった。
残されたあたしは呆然と、またもや彼の後ろ姿を見送る。
「おとーさん、おかーさん! そういうことなんでよろしくっす!」
バカがバカみたいな挨拶を下でしているのを聞きながら、あたしはぱたんと布団に倒れこんだ。
泰斗はあたしを好きらしい。
そんなこと考えたことも無かった。
あたしは泰斗に負けるわけにはいかない。
あたしは彼よりも勝っていなければならないんだから。
だったら、つかまるわけにはいかない。
バカのバカみたいな告白が耳の内側で響く。
こんな乙女ちっくな感傷はあたしが許せない。
ウルサイ心臓なんか止まってしまえばいい。
この勝負、負けるわけにはいかない。