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怪奇談シリーズ

我が学校の怪談

作者: 吉善

初めまして、生まれて初めて小説を書きます。「吉善きちよし」です。

昔から学校の怪談が好きで、この作品を完成させる事ができ、とても嬉しいです。

ちょっぴり怖い、ちょいホラーですので、皆様お楽しみください。


 ある小学校の入学式。

 同じ幼稚園や偶然近くの席に座った子に声をかける子が多く、ざわざわとした始まりではあったが、式が進むにつれて子供達は少しずつ大人しくなっていった。

 だが、その騒めきに再び火が付く事を、子供達は知る由もない。

 それは、閉会の言葉の一つ手前に予定されている、校長先生の挨拶の際に起こった。

 司会の声が会場に響く中、背中と腰の間まで伸びた、漆黒に輝く髪が風に揺れ、校長は堂々と舞台上に登場した。

「校長先生は女の人なんだね」

 新入生の中の一人で、水色のリボンを付けた女の子が小声でつぶやいた。

 パンツスーツに身を包んだ校長は、白髪一本ない見事な黒髪が、光に照らされて輝き、凜とした表情を引き立てていた。

 年は、三十代の半ばといったところで、新入生達は少々堅物な印象を受けた。

 皆仲良く、思いやりのある生徒に育って欲しい。

 という内容の話が終わったところで、校長は挨拶をこう締めくくった。

「最後に、校長先生から皆さんに、大切なお知らせがあります。皆さんは、我が学校の怪談を知っていますか?」

「かいだん?」

「怖い話のこと」

 怪談、という単語を知っている十数名程度の新入生達が反応する。

「毎年、入学式の少し後、一人でいる新一年生が、ずぶ濡れの女に襲われるという出来事が起こっています」

「おばけ?」

「変な人ー?」

 自分たちに関係する話と知り、半分程度の新入生が反応する。

「先生達もその女を捕まえようと必死になっていますが、いつも煙のように消えてしまうので未だに捕まえられていません。そのため……」

 校長はキリっとした表情を浮かべ、新一年生のいる列を端から端まで見つめ、すうっと息を吸い込む。

「新一年生は一人にならないように気を付けること! 以上です」

 校長はそう言い切ると、一礼して舞台を降りた。

 礼から頭を上げた時に一人の子が声を上げる。

 そしてそれが水面に投じた石の波のように広がり、校長が舞台から降りる最後の一段を降りた頃には、式が始まる前とは比べ物にならないほどのざわめきとなってしまった。

「すっげー。この学校お化けが出るんだってよ!」

「あたしこわーい」

「お化けなんかいないんだって。大人がうそついてるだけだよ」

「もし出たらどうしよう」

 お化けを信じる子、信じない子。

 もし出会ってしまったら逃げると言う子、戦って追い払うという子。

 それぞれの心にワクワクとビクビクがそれぞれ別々の量ずつ芽生え、閉会の声がいつかかったのかもろくに分からないまま、入学式は終了した。


 そんな入学式から一カ月ほど経過したある日。

 水色のリボンで髪を束ねた一年生の女の子が一人、音楽室に向かっている最中の出来事であった。

 水色のリボンで髪を束ねた一年生の女の子が、廊下を歩いている最中の出来事であった。

「どうしよう……。みんな先に行っちゃった……」

 その女の子は普段は友達と一緒なのだが、いつも準備が遅いためついには友達もしびれを切らし、先に行ってしまったのだ。

 仕方なく一人で音楽室へ向かう女の子。

 すると、ふと廊下を裸足で歩く音が背後から聞こえてきた。

 女の子は振り返ろうとしたが、入学式の日の校長先生の言葉が脳裏をよぎった。

『一人でいる新一年生が、ずぶ濡れの女に襲われるという出来事が起こっています』

 まるで金縛りにでもあったかの様に、女の子の足が止まり、振り向くこともできない。

「う、うそ……。お化け……?」

 逃げ出したくても、足がまるで自分のものでないかのように動かない。


ヒタ……ヒタ……ヒタ……。


 足音が一歩一歩近づいてくる。


ヒタ……ヒタ……。


 明らかに、女の子の方へと近づいてくる。


……ヒタ。


 足音が止まった。

 止まった位置は、女の子の真後ろ。

 当たりが静まり返り、音楽室にいる友達の声がかすかに聞こえてくる。


ーー助けて。誰か!


 心の中で助けを求めるものの、友達が駆けつけてくれるわけも無く、ただただ時間だけが過ぎていく。

 そして数秒後、女の子の方に何かが落ちてきた。

 生暖かい何か。

 ゆっくりと肩を見ると、そこには水が一滴たれたような跡。

 振り向いてはいけない。

 頭ではそれが分かっていた。

 だが女の子は、意を決して振り向いた。

 いや、振り向いてしまった。

 足音や気配は、もしかしたら気のせいなのかもしれない。

 肩に落ちてきた水も、雨漏りか何かなのかもしれない。

 自分自身を安心させたいというほんのわずかな気持ちが、女の子を振り向かせてしまったのだ。

 女の子の後ろにいたのは……。

 黒く長い髪を、顔を隠すようにして垂らした女性のお化けだった。

 髪の毛は先ほどまで水の中にでもいたかのようにびっしょりと濡れており、毛先からは水滴が垂れ落ちている。

 顔は全体的によく見えないが、前髪の奥にある目が見開かれているのだけは見えた。

 その目が、女の子をじっと見ている。

 女の子は、声が出なかった。

 そのお化けと目が合った瞬間、まさに蛇に睨まれた蛙となってしまったのである。

 今度は、お化けの方が先に動いた。

「美味しそう」

 そう言い、お化けは口角を上げながら口を大きく開いた。

 前髪が微妙に揺れて見えた唇には、真っ赤な口紅が塗られており、それはまるで口裂け女のよう。

「お、お化けー!」

 女の子は大声を上げ、後ろへ倒れこむ。

「食わせろぉ……」

 女の子を捕えようと、お化けが手を伸ばした。


 その時だった。


「また出たなお化け!」

 箒を持った六年生の男の子が、女の子とお化けの間に割って入った。

 その男はどこかで女の子の悲鳴を聞き、駆けつけたのであった。

「お前......。食事の邪魔をするのか!」

「う、うるせー! 昔はよくも食おうとしてくれたな!」

 男の子が箒を振って立ち向かう。

 だが、ついにそのうちの一振りがお化けのこめかみに命中した。

「うぐっ!」

 一瞬よろめき、お化けは背を向けて走り去ってしまった。

「はあー……。はあー……。だ、大丈夫?」

 心配した様子の声で男の子がそう尋ねると、女の子は小さくうなずいた。

「どうした!?」

 騒ぎを聞きつけたのか、中年の男性教師が走ってきた。

 この学校の教頭の先生である。

 手短に六年生から話を聞くと、まだわずかに聞こえるお化けの足音の方へ走った。


 少し時間は流れ、校長室。

 バタンッ!

 教頭に追われるお化けは校長室へ逃げ込み、教頭も後を追って中へ。

 ドアを閉めてそこから中の様子が見えなくなったところで、お化けは顔を隠すように垂らしていた長い髪を手でオールバックにすると、教頭の方を振り向いた。

「上手くいきましたね、教頭。今までで最高では?」

 お化けの正体は校長先生であった。

「校長先生! いくら私でも、いい加減堪忍袋の緒が切れましたよ!」

 椅子に掛けていたタオルで頭をふきながら『めんどくさい小言が始まった』とでも言いたげな表情を浮かべる校長。

 耳をほじるような動作をしながら椅子に座ると「意見があるなら聞きましょう」と教頭に真面目な表情を見せる。

「意見を聞く気があるなら、まずは意見を聞ける状態にしましょう」

 耳をほじるふりをして付けた耳線を引っこ抜かれ、校長は口を少し『へ』の字にする。

 机の上に置いていた打撲用の塗り薬をこめかみに塗りながら、教頭に背を向けるよう椅子をぐるりと回すが、教頭にさらに回され、一周して二人は再度対面する。

「校長。私はこの春にここに赴任する際、あなたはきっと優秀な方なのだとばかり思っていました。異例ともいえる出世スピードで校長となったお方ですから」

 あと、外見にも騙されたのでは? と、校長は心の中で思いつつ、その言葉を飲み込んだ。

 この校長、堅物そうなのは外見だけである。

「まったく……。ところで、いい加減に教えて下さい。なぜ校長先生が自らお化けに扮してまで、一年生を怖がらせるのですか?」

「なぜ私自らお化けに扮するのか……。ハ、もしかして、教頭先生もやってくれるのですか!? お化け役! 私は口裂け女と濡れ女ですから、教頭先生は頭部的な意味で海ぼ……」

「はい?」

若干青筋を立てた教頭の薄い頭がキラリと光る。

「う、『海を』守るライフセーバー、なんて」

「やりませんよ! 何を考えているのですか。私が知りたいのはそっちではなく、なぜ一年生を怖がらせるのかです」

「……ああ、そっちですか」

 当たり前です、と教頭が言うと、校長は小さな声で短くうなり「まあ一言で言え言えば、学ばせるためですよ」とだけ返した。

「はあ……。学ばせるといっても、何を学ばせるのですか? 私にはどうも、一年生達を怖がらせているようにしか見えないのですが」

 やや困惑する教頭の顔に、校長は得意げに笑った。

「……私は幼い頃、田舎で育ったんです。その当時、テレビゲームやインターネットなど、都会の流行りの情報はほとんど届かないほどの超ド田舎でした。遊びと言えば、友達と広い畑で鬼ごっこしたり、林で冒険ごっこしたりすることが唯一の楽しみでした。小学生の頃には、一度も一人で遊ぶことなど考えられませんでした」

「はあ……」と教頭。

「ろくに勉強もしない馬鹿ばっかりでしたけど、強い絆は今も消えていません。私が教師になると言い出した時なんか、それぞれの得意教科を私に教えてくれました。……とは言っても、一年もしないうちに全員のテストの点を超えちゃいましたけど」

 校長は、幸せそうな顔で思い出し笑いをした。

「……そうですか。それで、このお化け騒ぎと何の関係があるのですか?」

 校長は、顔を真顔に戻した。

「失礼しました。ここからが本題です。私が教師になる前の研修で、初めて都会の学校に訪れた時のことです。私は目を疑いました。人の苦しみや痛みを知らない子供が多く、いじめや暴力も多すぎました。……私は別世界にでも飛ばされたのかと思いましたよ。少しでも何とかしようと、一番酷いいじめをしていた男の子を更生させようと必死に努力しました。研修最後の日、ついに私はその男の子のいじめを止めさせたのです」

「……ほう」

 教頭が、珍しく校長を称えるような目で見つめた。

「いじめた方が謝った時も印象的でしたが、いじめられた方が私に『助けてくれてありがとう』と言ったのが、特に印象的でした。そこで私は思ったのです」

「……何をですか?」

「人はいじめられて、初めていじめの愚かさを知ります。人に殴られて、初めて人の痛みを知ります。それと同じように、人に助けられて、初めて人を助ける素晴らしさを知ります。私は、教育とはそういう事を学ばせるものなのだと思うのですよ。教頭先生」


 五年後。またこの学校で、お化けに遭遇した一年生が一人。

 しかしそのお化けは、水色のリボンを結った長髪をなびかせる少女を筆頭とした六年生集団に追いかけまわされていた。

(教頭め裏切ったな! 何が『一年生は私が保護する。君たちはあのお化けを追って!』だ!? 本物だったら教師失格だぞ! たーすーけーてー!)

 トイレから拝借したであろう木製のデッキブラシを武器に追う水色リボンの少女。

 お化けに扮した校長は、生徒に追いかけられつつも自分の教育の成果を実感していた。

 そしてこれからも、校長は次に怖がらせる生徒を見つけるため、学校中を徘徊するのだった。


改めまして吉善きちよしです。

僕の初作品「我が学校の怪談」はいかがでしたでしょうか?

「なんか校長先生が出てくる怪談のやつ」といったものでいいので、皆様の印象に残っていれば幸いです。

見てくださった方からの感想をいただければ非常に励みになりますので、宜しければお願いします。

最後までご覧いただき誠にありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 感動した!!!! [一言] なぜこれが芥川賞に入らないのかがわからない
2016/12/18 14:22 N.Jay
[良い点] 肝試しが好きなので楽しませていただきました [一言] 続きが気になりました。特に教頭が、お化けになるのかが・・・
[一言] 読ませていただきました!なぜかこの話怖いというより面白かったと思いました。こんなこと思うのは私だけなんでしょうか?
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