アデル・ノンノの目指す未来 その2
ノンノ家の夕食は質素な感じだ。
男爵家で貴族と言ってもそれほど裕福でもないのでコース料理なんてお祝いの時しか食べない。
今夜はバゲットと野菜たっぷりのスープだ。
白パン?とんでもない。 そんなもの食べられないよ。
そもそも製粉技術がそこまで発達していない。
ノンノ家は男爵家なのでパン窯をもっている。
村民に貸し出してパンを焼いてもらい、一定のお金をもらっているのだけれど、ノンノ家ではそれが税金的な意味合いを持っている。
そして、村民が焼いたパンの一部を買い取ってこうして食卓に並ぶのだ。
窯の管理も領主の仕事の一つだと言える。
特にハンターギルドに対する商売で村の人たちは外貨(領外のお金)を得ており、それの一部を回収する形だ。
男爵家は農地を貸し出している費用と、日々の生活に必要なパン窯の借用、村内の農産品の納入で生活している。
現代でいえば村長的な立ち位置かな。
夕食を終えてリビングで母と二人お茶を飲む。
母はお茶に少しブランデーを垂らしているが。
「それでアデル。話は何かしら?」
「ナーシサス侯爵から魔道具工場の立ち上げ許可をいただきました。ノンノ領内に建設を許可してもらえましたよ」
「魔道具工場? 工房ではなく?」
「工場です。魔道具を量産……同じものをたくさん作ることを目的とした施設です」
そう、この世界にはまだ”工場”という概念がない。
そもそも魔道具を含め生活用品を作るのはどこも工房だ。
前世でいうところの町工場以下の親方と弟子数名みたいな人員でチマチマ作っているものしかない。
同じものを大量に生産する工場みたいなものはないのだ。
あっても大きめの工房で親方一人に対して弟子が何十人もいてという感じだ。
だから物価はすごく高い。
それこそ銀食器なんて職人が手間暇かけてシルバーを磨き丹念に作り上げた芸術品のようなものであり、貴族家の嫁入り道具になる程度なわけだ。
つまり同じものを大量に作るなんて考え方がない。
それを私は生活魔道具で行いたいわけだ。
「いまノンノ家にある魔道具だと、給湯器とコンロがありますよね? アレをもっと安くして、悪くても男爵家程度で買えるものを作りたいわけです」
「……貴方、うちにある給湯器でノンノ家の一年分の予算はするって言ってなかった?」
「はい、ほかの魔道具の相場だってそうですよね? アレは私が作ったのでその分の人件費が0ですから実際にかかった費用は私のお小遣いで足りたわけですが。」
私の問いに母が頷く。
王城などに配備されているモンスター討伐用の魔道具の類は、非常に高価であり下位貴族の家にあるようなものではない。
仮にあってもそれは高位貴族から借用しているようなものであり、1個当たりの予算はそれこそノンノ家程度の男爵家だと1年分以上もの予算となる。
実際のところ、我が家にある給湯器だって、私が構想設計をはじめ部品を集めて加工しつつ自分では製作できない部品を外注し、くみ上げて安全確認をして~とそれだけで1年はかかったのだ。
在学中、授業の合間や放課後に作っていたので丸一日の労働時間ではないが。
実際にかかった費用は外注で頼んだ部品のみだが、私の労働力などなど盛り込み、一般的な相場を考えればそれ位にはなるだろうとちょっと吹っ掛けているが。
「うちの領地には特産品がありませんよね? ですので、工場を建て村から労働者を集め、この給湯器を量産することで一つの特産としようと思ったのです。工場建設許可というのはこのための設備を建てる許可です。いくらノンノ家の領地といっても元はナーシサス侯爵家の土地ですから許可もなく勝手に大きな物を建てるわけにはいかないでしょう?」
「まぁそうだけれど、採算の見込みがあるから侯爵様は許可されたのよね?」
「そうですね。とはいえいきなり工場を建てるわけではありませんが」
そういって私は許可書を見せる。
まずはナーシサス領内の各貴族家に給湯器を配備するところから始めるようにとなっており、そのための工房立上げの許可と将来的に利益が出れば工場建設を許可すると書かれたものだ。
「貴女が領地経営科に行かなかったことを心配していたのだけれど、杞憂だったかしら」
「私だって後を継ぐつもりですから専門学科ではないにせよある程度勉強しております。なのでこのような交渉をさせていただきました」
事後報告で申し訳ないけれど、学校にマルグリット様がいる間に構想を話しておいてよかった。
おかげで学校にいながらナーシサス侯爵と交渉もできたのだから。




