商人の採用
工房での給湯器組立はまだ道半ばというところ。
ネック工程は魔道回路とギア組立だ。
魔道回路は前世知識にある基板に比べれば圧倒的に簡単ではあるが、銅線のはんだ付け作業はなかなか難しく、銅線が正しく魔石ケースやスイッチ類にくっついていないなんてことがある。
次に大変なのはポンプの組立。
歯車の切削加工やケース部品などは旋盤はホブ盤にセットしておけば1日で出来上がるが、あたりを出す作業はどうしても技能が必要になった。
歯車に絵具を塗ってケースに収めて手で回す。
均等に絵具がもう一方の歯車につけばよいが、つかない場合はやすりで削って調整する。
調整を間違えて不良品を出す一番の工程だ。
「失敗したとしても気にしなくていいわ。金属は溶かしてまた直せる。繰り返してよいものができるようになれてほしい」
私言葉に皆が頷いてくれる。
仮に失敗したとしても給料は減らさない。
一日300ディン。
街道沿いにあるパン屋で1個小さめのパンが変える金額だ。
少ないかとも思ったが、まずは離職しないようにつなぎとめられる金額として母と相談して決めた。
一カ月働けば6,000ディンにはなるので、櫛や安いアクセサリーなら購入できる。
おしゃれをしたい彼女たちからすれば魅力的な金額だそうだ。
「アデルお嬢様、お客様が参られましたよ?」
「ありがとう、客間に通しておいて」
私はエプロンを外して屋敷に戻る。
さっとデイドレスに着替えて客間に行くと、一人の男性が待っていた。
ちなみに、部屋の入り口にはローランが護衛として立っていてくれている。
「ようこそおいでくださいましたベルナール殿」
「お初にお目にかかりますノンノ嬢。ナーシサス侯爵からの紹介ではせ参じました」
「お忙しいところわざわざ来てくださりありがとうございます。お話の通り貴方様には魔道具を販売してほしいのです」
「給湯器……でしたか。モレスモ商会では確かに魔道具も扱っておりますが、攻撃用ではないのでしょう?」
「ナーシサス家でどのようなものか説明はうけられましたか?」
「特に何も、お湯が出るとは聞いております」
「ではまず商品を見て頂きますか……」
そうして私たちはまず家の裏手にきました。
現物を見てもらい、そのあと蛇口をひねってもらうのが一番わかりやすい。
絵での説明もするが、やはり現物程説得力のあるものはないので。
「この魔道具にて水を井戸からくみ上げます。くみ上げる水は飲料用であれば川からでも構いません。そして給湯器魔道具に通すことによって水を沸かし湯を得ます」
「ノンノ様、こちらは魔道具と言っていいのでしょうか? 説明を聞く限り既存の魔道具とは思えません」
「魔道回路を使っているので分類上は魔道具でしょう。何か具体的に魔法を行使しているか?と聞かれると違うと答えざるえませんが」
「便宜上魔道具、ということなのですね。そしてノンノ様はこれを私に売ってほしいと」
「えぇ、すでにナーシサス領内の各家から依頼が来ておりまして、問題となるのはその設置作業なのです。私が直接出向くのは今はいいですが将来としては不安になる。であれば商人をされている方に手伝っていただくほうが良いというわけです」
「確かに道理ではありますな……わかりました。こちらは間違いなくナーシサスを超えハルディン全土で使われることになる魔道具でしょう。モレスモ商会が販売権を独占できるならそれに越したことは無い」
「ご理解いただけて何よりです」
こうして私は販売経路を手にいるれた。
利益率だとかはベルナール・モレスモと協議し決定した。
安すぎず高すぎずといったところか。
我が家も十分利益が出る。
さらにはモレスモ商会の支店もノンノ領に出来ることとなった。
もちろん契約には母も同席だ。
私だけで勝手に結ぶのではなくあくまでも”ノンノ家”として契約を結ぶこととなった。
あとは、地道に量産を進めるだけだ!




