ナーシサス領への再訪
工作機械をいじりながら、必要な部品の加工を進め1か月が過ぎた。
ギアポンプの加工についてはなかなかに苦労が多かったが、錆びないという利点がある黄銅を使ったことで、その性能は満足いくものとなった。
うちの井戸を使った実験で、十分な数量を確保できたのが大きい。
今までの我が家の給湯器から出てくる水の量は1分ほどでバケツ一杯の水が出る程度の水量だったが、これはその10倍は出るようになったのだ。
水道管の技術自体は現在もあるので、ナーシサス侯爵家では、屋敷上部に給水塔と室内にボイラー室を設け、私が作った魔道具の設置準備が進められており、そろそろあちらへ訪問し、設置作業を進める必要があった。
「というわけで、ナーシサス侯爵家へ行ってまいります」
「わかったわ。せっかくだからローランとデートぐらいしてきなさい。あなたローランを便利屋程度にしか思ってないのではなくて?」
「……そんなことはありませんよ? 我が領地でデートできるところなんてそれほどないですから、お茶の時間などとってコミュニケーションは取っています」
「遠乗りに行って領地全体を見るだとかをしていたようには見えなかったけれど? アデル、私の領地経営の引継ぎ以外の時はほとんど工房に居なかったかしら?」
母の言葉に何の反論もできないのでにっこり微笑んでおくにとどめる。
たしかにお出かけしたりだとか、何かを買ってもらうだとかは一切していないので否定はできない。
一応来て1週間の間に作業の進みが良かったから村の周辺と街道周辺の案内、ポールさんとの挨拶などなどは済ませてあるのだけれど、それだけでしかない。
「わかりました、せっかく領都に行きますから、街歩きにでも誘います」
「そうしなさい。その前にマルグリット様から無理やりにでもやらされると思うわよ」
母の言葉に遠い目になる。
確かにその通りかもしれない。
マルグリット様が私の話を聞きたがるのは間違いないし、その会話の内容で特に進展がないなんて話をすればご立腹されることは明白だ。
ちょっと行くのが嫌になってきた。
借金返済のためにはいくしかないのだけれど。
今回の訪問は、完成したギアポンプ他、いくつかの部品とともに向かうことになる。
護衛には定期的に入れ替わりがあるポールさん率いるナーシサス侯爵騎士団の兵士に同行してもらい、さらにローランも一緒に来てもらう。
ローランは侯爵家からそのまま馬も持ってきているので、その馬に乗って先導してくれる。
「こないだより護衛が豪華だわ」
「まぁアデルにはこれぐらい必要だと思うよ。それこそ他家から引き抜きがあってもおかしくないのだから」
「一応男爵を継ぐ予定の令嬢を誘拐したらただでは済まないと思うのだけれど?」
「とはいえってやつだね。少しは自覚を持った方がいい」
ローランに言われて、そんなもんかと納得することにした。
たしかに私の知識を欲する勢力はないわけではない。
ナーシサス侯爵派閥であれば別に引き抜かなくても私に依頼してくればいいだけだけれど、そうじなゃい派閥は最悪武力行使というのもないとは言えない。
とはいえ、歩兵10名に騎士のローラン、過剰だと思うのだけど、素直に守られながらナーシサス領へと出発した。




