ノンノ工房へようこそ
「すごいですね、この給湯器という魔道具は」
正式に婚約を交わした夜、普通に我が家に住むことになったローランはノンノ家のお風呂に入って感動したらしい。
まぁするわよね。
普通は井戸から水を汲み、自宅のかまどで湯を沸かして湯船に入れるしかないわけで、普通の平民なら沸かした桶のお湯で布を浸して体をぬぐうぐらいしかできないのだから。
お貴族様ならうち程度でもお風呂に入ることはできるけれど、それだって週に1回は入れればいいほうなわけで、蛇口をひねればお湯が出るなんて夢のような設備よね。
「そうでしょう?これをナーシサス家に設置するの。大型のやつだから部品も大きくなるのでローラン様にも手伝ってもらうわ」
「アデル様、私のことは呼び捨てで大丈夫ですよ」
「では私のこともアデルとよんでください。ローランのほうが年上ですし、爵位としては現状上ですから」
「わかりましたアデル」
くっ、騎士の笑顔というのはなかなかに心に来るわね。
思わず頬に熱を感じるわ。
ちなみにローラン、騎士ではあるけれどゴリゴリのマッチョかというとそうではない。
確かに筋肉質だしガタイはいいが、背も高いのと無駄な筋肉がついていないので大変かっこいい。
全体的に落ち着いた色味なのもいいわね。
ちなみに、結婚してないのに男女が一緒に住むのはいいのかと言われるかもしれないが、別に問題はない。
結婚前に盛って子供さえ作らなければ後ろ指さされることは無いのである。
この時代、移動には時間がかかるから婚約したら嫁入り先だとか婿入り先にいっていろいろ勉強するというのは一般的なのよね。
「明日は工房を紹介するわ。すでに手伝ってほしいことがあるのよ」
「わかりました。よろしくお願いします」
そういって彼は自分の部屋へ下がっていった。
ほんと礼儀正しいわよね。
まだ借りてきた猫状態なのかもしれないけれど。
*****
「ここが魔道具量産のための研究を行う為の工房よ」
「なんだか金属や魔物素材がたくさんありますね」
翌日、朝食を食べて私は乗馬服のような若草色の服に着替えてローランを工房に案内した。
私の格好を見てローランははじめ驚いたような顔をしたが、理由を話したら理解してもらえた。
魔道具作成作業において、今は旋盤も使う為ひらひらしたドレスを着るわけにはいかないのだ。
それに汚れるからとエプロンをするのも危険。
紐が巻き込まれたら死ぬ。
高速で回転する物体というのはそれだけで危ないし、そもそも魔道具を作成すると何かと汚れるので専用の作業着が必要なのだ。
ちなみに、学園でも魔道具作成時はこの格好であった。
「ここが工房ですか。鍛冶屋などとは違いますね」
「作るものが違いますからね。では早速いくつかお願いしたいことがありまして」
そう言って案内したのは工房の裏手。
ここにはナーシサス侯爵家に納めるために用意した大きい素材が並べられている。
「これと、これ、それとあれを持って工房に戻りましょう」
「結構重たいな……まさか、これらはアデルが1人で運んだのか?」
「まさか、農民たちに手伝ってもらいましたよ。魔法が使えると言っても物を移動させたりなんてできませんから」
そんな雑談をしながら持ってきたのは複数枚の銅板と黄銅の丸棒だ。
丸棒のほうはある程度の長さに切断して、ポンプのギアにするよてい。
銅板は丸めて銅管にするのだ。
ただしかなり小径の銅管にする予定なので、銅板はかなり薄いものを用意した。
「なんだかすぐに曲がってしまいそうですね」
「これから丸めるので可能な限り薄くしてもらいましたからね」
持ってきてもらった黄銅棒を台座にセットしてもらう。
「では、これの切断をお願いします。早速手伝ってもらいますよ」
「ははは、お手柔らかにお願いします。あとで魔法を教えてくださいよ」
「もちろん!ちゃんと対価は払うわよ」
さて、私は銅管を作りますか。




