マザーマシンを作ろう その2
工房が出来上がったころ、ようやく頼んでいた青銅のネジが納品された。
職人が手作業で台形のネジをこさえてくれた棒と土台が届いたのだ。
これがすべての基本になっていくので出来栄えを確認しないといけない。
少なくとも二つはしっかりと組みつくようで、台形ネジの棒を回転すれば土台が移動することを確認した。
「それじゃ、これを汲みつけますか」
本当は金属製が欲しいところだが、今はないので木製の土台に青銅板を張り付けたベースを用意した。
ベースにはすでに回転部と、棒を取り付ける穴などを用意してある。
棒を寝かせるように設置し、土台をねじ込む。
だいぶ形が旋盤っぽくなってきた。
回転部は黄銅を筒状にし軸受けとして使う。
グリスは村の家畜の油を使い、魔道ポンプとモータを取り付け旋回運動をさえる。
なるべく加工しやすい金属にてチャック等も作った。
「ようやく形になったけれど、すごいお金を使ったわ」
「アデル、貴方いくら使ったの」
組みあがった初の本格的な現代旋盤を見にわざわざ母が工房を訪れていた。
「聞きたいですか?」
「とてつもなく嫌な予感がするのよ」
「ざっと1,000万ディンほど使いましたね」
「は? 貴方そんなにお金を持っていたの?」
1ディンが1円と換算すれば1,000万で工作機が買えるなんて破格なのだけれど、ざっとノンノ家の予算の3年分ぐらいなのよね。
「半分ぐらいが借用ですけど払える予定です。ナーシサス家からの融資ですので」
「私は聞いてないわよ」
「お母様、一応私も成人したんですから契約ぐらいちゃんと結べますよ」
「そういう事じゃないでしょ……ほんとアデルは誰に似たのかしら」
多分お母様だと思いますよとは、口が裂けても言わない。
お母様も領主だからと、お父様に何も言わずに施策とか税金の件とか決めていたじゃないですか。
「これが契約書です。ほら、私にしか責任がないようになっているでしょ?」
「貴女がノンノ家の後を正式に継いだらこの借金はノンノ家の借金と同じじゃない!!」
「だから大丈夫ですって、侯爵家には来年春までに給湯器とコンロを納入することで帳消しにしてもらうんですから。ほらここに書いてあるでしょ」
侯爵家から借りた金額は600万ディンにのぼるが、給湯器とコンロで300万ディンずつ相殺される予定なのだ。
今回の旋盤があれば今男爵家にあるものより性能がいいものをより安価に作れる。
「すでに必要な材料は用意してありますから大丈夫です。ご心配には及びませんよ」
「……」
母の顔が前世のスナギツネみたいになってしまった。
もう何を言っても無駄だと思われたのかもしれない。
「領地運営の引継ぎは継続しますからね」
「それは大丈夫です」
「ならいいわ」
それは次期領主として逃れられないのでやるつもりである。
心配しなくても大丈夫だ。
去っていく母を見送り、私はさっそく黄銅の加工をしてみることにした。
チャックと加工素材が同じなので、うまくいかないかもしれないがまずはやってみるしかない。
三つ爪チャックを締め上げて、用意した黄銅棒をセットする。
長さは10分の1メルテほど。
あまり長くすると先端がぶれるのでよくないからだ。
「さて、じゃあ回転を開始しますか」
魔道スイッチを押して水ポンプを動かすとモーターも回り始める。
なぜ水圧式にしたかといえば、過負荷時の制御の為だ。
無理な力がかかったときに圧力制御弁から余計な力が逃げてくれれば旋盤にダメージが入らないで済む。
魔道回路だけだとこのあたりの制御がまだできないのだ。
ゴリゴリと回転する母材が安定しているのを見て一度止める。
次は台座にチップを取り付けた刃具台を置く。
一度設置したらチップ以外二度と外さないだろうね。
これも加工基準のひとつになるから。
「さて、じゃあ試しに削ってみますか」
母材を回転させながらゆっくりとチップを近づける。
これも作ってもらった短いハンドルが付いている台形ネジを回転させることで台座が動くようになっている。
今日はまだメモリを付けていないが、徐々に寸法のメモリを付けていく予定だ。
シャリシャリという音がし始めチップが母材の黄銅棒に当たると細い切子とよばれる切削のゴミが出始める。
「順調に削れているわね。ゆっくり進めましょう」
自動送り機なんてものはないので私は手でハンドルを回しながら削れていく様子を確認する。
今のところ問題なさそうだ。
チャックもしっかり固定されているし、母材が飛ぶような負荷もかかっていない。
一回目の加工を終えると、若干いびつだった母材の棒がきれいにまっすぐになっていた。
ただ、刃の送り速度が私の手作業だったので、表面はちょっとキズのような加工痕がある。
途中切子を巻き込んだせいもあるだろう。
まだ、チップも切子が良いところで切れるような形状はしていないししょうがない。
「まぁ1回目にしては成功かな」
私はチャックから黄銅棒を外して確認してふーっと息を吐く。
精度の向上はまだまだこれからだ。
出来れば鉄を加工したいけれど、そのためには必要な鉄素材の入手が必要だが、そもそもハルディン王国における鉄は需要に対して供給が圧倒的に足らないのだ。
鉄の剣は非常に高価なのだ。
だから黄銅とか青銅をつかって工作機を作っている。
さすがに前世の知識があると言っても製鉄を始めるのは無理があるというやつだ。




