マザーマシンを作ろう その1
秋が深まり冬の始まりを思わせるにおいがし始めた日、ドゥアイ子爵家から木材が届き始め、基礎工事が終わった屋敷の隣に工房が立ち始めた。
今年は村の男達が出稼ぎに出ず、私が工程管理も行って夕食前には帰ってもらうようにしていることから来年村の人口が増えそうな気がしている。
秋の夜長、平民の家に明りはない。
真っ暗な夜にやれることなんて限られるからだ。ナニとはいわん。
建設の工程管理はしているが、私は領地経営の手ほどきを母から受けつつ、ある機械を作り始めていた。
金属加工は街道沿いの金物屋に依頼することである程度製造ができるので、青銅の棒などの製作依頼をしている。
何をしたいかといえば、マザーマシンを作りたいのだ。
まずは物体を回転させながら切削を行う機械、旋盤である。
はじめは精度が出ていなくてもよく、物体をしっかり固定し、回転させて加工できるものを作る。
私が作った魔道具はすべて私が手ずからやすりなどを使って作ったものなので量産に向かない。
こんなもの職人に一つ一つ作らせたら金がいくらあっても足らないというのは誰でもわかるだろう。
前世、すべて人の手で作り上げられたアナログ時計が何千万もするのは、そもそもの製造コストの高さにある。
ネジ一つ大量に作れないのは問題なのだ。
ただ、今回つくる旋盤でいきなりねじを作るわけじゃあない。
今回作れるのは精度もろくに出ない旋盤になるはずで、それを使って旋盤の部品を加工するのだ。
テスト加工を何度か繰り返し、加工精度の標準偏差、つまり加工寸法などのバラツキを確認する。
そして、バラツキを把握したら、そのバラツキと欲しい基準寸法の中央値に近い部品を選び出す。
その部品を基に、より精度の良い旋盤を作り上げることになる。
そうやって標準偏差を限りなく小さくしていくことで、バラツキが小さいものををいっぱい作れるようになるのだ。
最終的な加工機は可能な限りハルディン王国の設定寸法で作り上げるつもりでいるが、細かな部分はナーシサス侯爵領内の規格寸法で作るつもりだ。
まだメートル原器なんてものはないので、ノンノ家が原器を作ってしまえばいい。
そうすれば、ナーシサス家の決めている寸法がデファクトスタンダードになって、ゆくゆくは国家標準になるだろう。
ナーシサス家、ひいてはノンノ家の加工機を使わない限りその寸法がまともに出ないようにしてしまえば、仮に魔道具をまねされたところでくいっぱぐれることは無い。
すぐに解析されて複製されたとしても同じ値段では作れないように最初から準備してしまえばいいのだ。
「お嬢様、何か届きましたよ?」
「ありがとう、きっとナーシサス家からね」
「そのようです。小さいですが宝飾品ですか?」
「それよりもっと良いものよ」
届いた小さい木箱を開けると、中に三角形の小さい鉄の塊が入っていた。
私がお願いしたものはチップと呼ばれる刃具だ。
虫型昆虫の甲羅の素材で、かなり固く加工が難しい品だが、その硬さは折り紙付き。
関節の間に剣を入れなければ鉄の剣でも欠けると言われている。
それを丁寧にヤスリがけしてもらい、全く同じ形状のものを3つ作ってもらったのだ。
かなり高額だった。
そもそも魔物素材自体も高級防具に使われる程度に高いのに、その加工をお願いしたのだからしょうがない。
三角形の真ん中には穴が開いており、前世のチップと同じような形状に出来ている。
「ちゃんと高さが、1センチメルテになってるわね。さすがナーシサス家の職人だわ」
「お嬢様、そんなに大きさが重要なのですか?」
「重要よ、すべての根幹になっていくのだから」
チップは寸分たがわずナーシサス侯爵領で配られる尺の寸法通りになっていた。
3つとも尺で見る限り同じサイズだ。
きっとミクロン単位ではブレがあるだろうが、まずはこれでいい。
ここから正しく図れる計測器なども作っていくことになるのだから。




