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いつかその日が来て再びまた逢えるまで、毎日のいたずらで愛をささげよう。君が前を向いて歩けるように

作者: 澪ナギ
掲載日:2026/01/23

 ハロウィンは、今のあたしにとってはなんの代り映えもないただの日常だ。


 お菓子をくれなきゃいたずらするっていうかわいらしいキャッチフレーズ。

 悪魔のいたずらを鎮めるためのそれは、いつしか交流の言葉に変わって。生界の生物たちにとっては、ハロウィンに使う一種の特別な言葉でもあったりする。


 昔なら、それに乗っ取って同じように使ってたんだろう。お菓子を用意して、言われたらお菓子をあげて。向こうが持ってなかったらちょっとかわいいいたずらをする。

 けれど、今のあたしには。


「うぉびびった」


 ”いたずら”っていうのは正直、日常である。


 陽真の後ろについて、ぼーっと歩いてる彼氏さまが電柱にぶつからないように。目の前でいきなり音を鳴らしてやった。

 そしたら当然陽真はびっくりして足を一瞬止める。そうして、目の前に気づいたら。


「お、サンキュ」


 あたしに気づいて、そう言う。

 それにはほんの少しだけ優しく風を吹かせて、「どういたしまして」と応じた。



 いたずらっていう、意思疎通。

 あたしたちにとっての、会話。


 肉体を無くして、自分なりの意思疎通を覚えて。それを受け入れてもらってから続く、いたずらな日々。


 いらっとしたり危険を教えるときはポルターガイストを起こして、嬉しいときや相槌を打つときは風を吹かせる。

 彼氏さまがほかの女の人と仲良くなってしまうと、陽真への念が変に影響してしまうのか、ちょっと女の子の方に害が行ってしまうのは申し訳ない。


 そんな、毎日がいたずらな日々だから。


「ハロウィンか」


 街がかぼちゃで彩られていくこの季節に、特別感は正直ない。


「菓子渡しても春風ちゃんはイタズラばっかりだもんな」


 それは陽真も同じようで。そんなことを言うから、くすくす笑うようにペンダントを風で揺らした。

 とりあえずあたしは今年もお前の仮装が楽しみだよ、と。言葉は伝えられないけど、そう心で伝えて。そっと陽真の隣へと降りてみる。

 歩幅を合わせるように足を動かして。


 周りからしたら独り言になる言葉を聞きながら。


 陽真のメッシュ色に染まっていく街を、二人で歩いて行った。







「今年の仮装はどうするんだい?」

「なんも決まってねぇわ」

「また恐竜でも着るぅ?」

「ロマンだケドな」


 ハロウィンが近づいてきたある日。今年も後輩や先輩たちとの集まりがあるのに、陽真の仮装は決まってない。

 一昨年の恐竜は正直かわいい枠だったよなあれ。陽真はロマンとか言うけど、恐竜の目がかわいいからもうあれはかわいい枠だ。

 去年のゾンビ執事は結構メイクで顔の印象違ってたし、せっかくなら今年は顔をいじらないかっこいい枠が見たい。フィノア姉にジェスチャーでお願いしてみようかな。


 なんて、武煉とフィノア姉、陽真の三人の会話を聞きながらどう伝えるか迷っていると。


「あれ、陽真先輩たちだ」


 笑守人学園の廊下を歩いてた後輩たち四人が声をかけてきた。

 見えないとわかっていつつも手を振れば、一番ちっこい水色の後輩は陽真のペンダントにあいさつをする。あたしにあいさつしてくれてるとわかってるので、優しく風を吹かせた。


「よぉ」

「先輩方は次の授業お休みです?」

「そぉ、今ハロウィンの衣装会議ぃ」

「明後日じゃん、間に合うの?」

「俺たちはもともと決まってますけど、陽真がね」

「今年も恐竜でいいんじゃないのか」

「お、龍クン恐竜のロマンわかってる感じ?」

「いや刹那が気に入っていたから」

「オマエはほんとぶれねぇわ……」


 なんて笑ってたら、後輩たちはまた歩き出す。


「我々はこのあと授業なので、参りますわ」

「おー」

「また放課後に迎えに行きますよ」

「武煉先輩は俺が出迎えてあげるね」

「華凜に出迎えて欲しいんだけれどね?」

「なら逆に俺が迎えに行ってあげるよ」

「必死すぎる兄は妹を困らせるんじゃないかな」

「龍、俺授業遅れてくわ」

「好きにしろ」


 おっと千本出し始める蓮を置いて歩き出してんぞ。

 相変わらずバトってんなとちょっと苦笑いをしながら。


「んじゃまたあとでな」

「はぁい」


 ちっこい後輩に声をかけている陽真に、目を向ける。彼氏さまは妹に話しかけるように、視線を合わせて笑ってた。


「帰りにでも仮装のヒント教えてくんねぇ?」

「刹那死神!」

「ウワなにその物騒な仮装」

「というか今言うのかお前は……」


 龍に言われて、刹那はご機嫌に頷く。相変わらずかわいい後輩に癒されつつ、耳は龍たちの会話へ。


「また珍しい恰好すんのねぇ」

「ハロウィンの言い伝えだ」

「言い伝え?」

「えぇ。ハロウィンだけでなく季節のイベントは国ごとにいろんな風習や言い伝えがありますが……ハロウィンはとくにそういうのが多いんですよ」

「代表的なのは、この世のものではない仮装をすると」


 ――死者と交流できるらしい。


「あとはジャック・オー・ランタンのランタンに火を灯すと死者が逢いに来る、とかな」

「ジャックは敵…」

「オマエのカノジョの目に殺意宿ってんぞ」

「こいつは昔ジャックとひと悶着あっただけだ」


 なにそのひと悶着めっちゃ気になる。


 けれどそれはあたしは聞けないので、いつか陽真伝手で聞けるとして。


 時間だからと、未だ殺意マックスの蓮も連れて去っていく後輩たちの背を見届けてから。


「この世のものではない、ね」


 小さくこぼした陽真に視線を移したら、何かを決めた目をしていた。





 そうして迎えたハロウィン当日。

 陽真は、この世にはいないミイラ男の恰好をして、毎年恒例になりつつあるパーティーを楽しんだ。


 あたしと交流を図ろうと、同じくこの世のものじゃない死神姿の後輩には、愛でるようにたくさん優しい風を吹かせてやって。



 このメンバーになってから笑顔ばかりだと、幸せに浸って。



 パーティーが終わって後輩を送ってってから、武煉たちとも別れて。陽真と二人、帰路につく。



 ゆっくり陽真の歩幅に合わせて足を動かしながら、楽しかったな、って伝えるようにペンダントを揺らした。


「春風も楽しんでくれたの」


 もちろん。それを伝えるため、強めにペンダントを揺らす。


 まぁ、ひとつ心残りみたいなのがあるとすれば。


 せっかく交流のためにミイラ男の恰好をしてくれたのに。結局あたしは、いたずらしかできなかったことかな。


 陽真が仮装を決めてからたくさん考えてみたけれど。やっぱり意思疎通はポルターガイストだったり、風を起こしたり。いつも通りのいたずらしかできなくて。


 それが、ちょっとした心残り。それは陽真には伝えられないけれど。



「春風」



 どうしたもんかなと足を動かしてたら、名前を呼ばれた。

 まるでほんとに生きてるみたいに言うから、あたしもあの頃みたいに、呼ばれた方に振り返る。


 そこには、視えてんのってくらいまっすぐあたしを見る陽真。


 思わず「なに」なんて言ってしまった。聞こえないはずなのに、会話が続く。


「覚えてる?」


 ――何を。


「ハロウィンの言い伝えのもう一個」


 ――もう一個?


「ジャックの話」



 あぁ。



 ランタンに火を灯すと、逢えるっていうやつ。


 けれど、きっと。


 陽真が言ってるのはその、龍が言った方じゃない。


 仮装とかについて調べてたときに出てきた、もう一つのジャックの言い伝え。


「……やってみねぇ?」


 言いながら、陽真はパーティーのおみやげにもらっていたかぼちゃのお菓子ボックスを掲げる。

 たしかに名前はジャック・オー・ランタンだけど、ほんとのランタンじゃなくていいの、なんて。聞こえるはずもないけれど。



 そっと、近づいて行った。



「……」


 陽真は目を閉じる。



 あたしは、少し地面を蹴った。




 その、ランタンへと少しずつ陽真が近づいていく中で。





「!!」




 少しだけ大きめに風を起こす。

 陽真がそれにキスをしないようにして、ランタンを取り上げた。



「……ハッ」


 ふわふわと浮くランタンに陽真は笑う。


 きっと意味がわかったんだろう。



 ――それはだめだ、って。




 もうひとつの言い伝え。どこかの遠い遠い国で伝わる話。

 ランタンにキスをしたら死者に逢えるという、ちょっとしたおとぎ話。


 物語の中なら素敵だけれど、実際はランタンにキスをしたらジャックに魂を奪われて、結果的に自分も死者になるから逢える、っていう話だ。



 きっと前だったなら、許してたかもしれないけれど。



 今は、もうだめだよ。



「やっぱダメ?」


 頷くように、取り上げたランタンを揺らす。



 まだやることいっぱいあるんだろ。

 守っていきたいものがあんだろ。



 ちゃんと知ってるからな。



「……お見通し、ってヤツ?」


 歩き出す陽真の後ろを、ランタンと一緒についていく。

 お見通しだよ。

 ずっと見てるんだから。



 だからさみしいときもあるけど。



 まだ、逢ってはやらない。



 代わりに。



「お」



 やっといたずら以外の伝え方をひとつ、今もらえたから。



 それを死者との交流ってことで、いきなり死のうとするなんていうちょっと心臓に悪いいたずらはやめてもらえるかな。



 そう、伝わるように願いを込めながら。

 飴を持ち上げて、陽真の目の前へ浮かす。



「……」



 それを、受け取って。

 陽真は笑う。


「……菓子もらったからには、イタズラはなし、な」



 ちゃんと伝わったそれに、相槌を打つように風を吹かせば。



「わかったよ。ただ、そのときになったらお迎えはオマエが来てよ」



 ――待ってるから。



 できればそれはずっと先だといいね。

 そう、再び願いを込めて。



 頷くように、風で陽真がつけるペンダントを揺らしてから地に足をつける。


 そうしてまた、ゆっくりと足を動かしながら。

 陽真の独り言に聞こえる言葉に、相槌を打っていった。



『いつかその日が来て再びまた逢えるまで、毎日のいたずらで愛をささげよう。君が前を向いて歩けるように』/春風


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