第6話 氷風の剣姫(フロストゲイル)
訓練場の空気が、ひやりと冷たくなった。
アストラ魔法学園一年Sクラス――恒例の個別模擬戦の日。
観覧席には他クラスの生徒たちも集まり、
開始の鐘を今か今かと待ち構えている。
「次の組、レン・フレイムハート対クレア・リンドウ」
教師の声が響いた瞬間、歓声が上がった。
二人ともSクラスでも上位の実力者。
“風を極めた者”同士の戦いが見られると、誰もが期待していた。
星宮星牙は最前列の観察席で腕を組んでいた。
いつものように、無表情のまま。
だが、その視線だけは二人の中心を鋭く見据えている。
「……始め」
開始の声と同時に、空気が震えた。
レンの炎が瞬時に膨れ上がり、周囲の風を巻き込む。
赤い渦が立ち上り、灼熱の奔流がクレアへと迫った。
しかし――クレアは微動だにしない。
彼女の足元に冷気が集まり、淡い蒼の花弁が咲いた。
風と水が交わり、瞬時に凍気を生む。
「氷刃乱舞!」
幾筋もの氷刃が、舞うように飛び交う。
炎が触れた瞬間、爆ぜるように水蒸気が上がった。
会場全体が白い霧に包まれ、視界が一瞬にして消える。
「視界封じか……」
星牙が小さく呟く。
「風を読むレンには厄介な状況だな」
霧の中、風の音が唸る。
レンの声が響いた。
「そんな手、見えなくても読めるよ!」
風を纏った足が、砂を裂く。
瞬間、レンの周囲に“火花を含む竜巻”が生まれた。
「紅蓮旋風!」
霧が一瞬で吹き飛び、紅と蒼の光がぶつかり合う。
風と炎、風と氷――同じ理を操る二人の魔法が、拮抗した。
「すご……!」
観客席の誰かが息を呑む。
レンは笑っていた。
「やっぱり強いね、クレア!」
「あなたもね。……でも、私、手を抜かない」
クレアの声が凛と響く。
次の瞬間、彼女の周囲に複数の魔法陣が浮かび上がった。
円陣から放たれた冷気が空気を切り裂き、レンの動きを封じる。
「氷鎖結界!」
その瞬間、星牙の目が鋭く細まった。
(……あれは、“風の流れを凍結させる”結界魔法。まだ一年でそこまで制御できるのか)
レンの足が止まりかける。
が、彼女は笑いながら右手を掲げた。
「甘い!」
炎が爆ぜ、熱気が一気に氷を溶かす。
「風は止まっても、熱は生きてる!」
灼熱の拳がクレアの防御を貫いた瞬間、
教師の笛が鳴り響いた。
「――そこまで! 勝者、レン・フレイムハート!」
観客席がどっと沸き上がる。
星牙はただ、一言だけ呟いた。
「……やっぱり、まだ本気じゃないな」
その声は誰にも届かなかった。
けれど、確かにレンとクレア、二人の耳には届いていた。
――この学園に、“上”がまだいる。
それを示すかのように、風がまたひとつ、静かに流れていった。




