第10話 課外演習① ― 潜行開始
アストラ魔法学園一年Sクラス、午後の掲示。
〈課外演習:東京ダンジョン・入門区画(1―20階)〉
担当は実技教官の九条真砂。
「ルールは三つ。無理をしない、十層ごとの転移陣で必ず帰還報告、単独行動は禁止。
ダンジョンは全世界共通の構造・強度、全五百階、十階層ごとに転移陣。——教科書どおりだな」
星宮星牙は、腕時計に擬態した従魔の表示を軽く撫でた。
【同期完了。支援プロトコル待機】
「回復と結界の補助、最小限でいい」
【了解】
班分けは四人一組。
星牙/レン・フレイムハート/クレア・リンドウ/支援系の真田(地・結界)。
役割は、レン=先鋒、クレア=制圧&視界管理、真田=遮蔽と足場、星牙=遊撃。
九条が結界ゲートを開く。
「それじゃあ——潜るぞ」
*
1階層。
石畳の回廊、低い天井、青白い壁灯。どこのダンジョンでも見慣れた“同じ風景”。
レンが囁く。「前、二。左に二体、足音軽い」
「風で押し戻す。——真田、床を荒らさないで」クレアが手短に告げる。
土色の符が床に滑り、薄い防震の板が敷かれた。足音が消える。
影から跳び出したのは《ホブゴブリン》。
レンの風刃が一歩目で膝を刈り、クレアの冷却風が刃の縁に乗る。
氷片が散り、二体同時に崩れた。
「ナイス、二人とも」真田が親指を立てる。
星牙は一歩も動かず、天井の**魔力脈**を見上げた。
(流れは素直。学院の地脈とは違って、逆流はなし)
5階層。
群行廊の先で、音が吸われる。
レンが肩を竦める。「無音域だね。やな感じ」
星牙は指先で空間をなぞり、微弱な反発結界を置く。
「これで声は届く。——前方、交差路で右が安全。左は湧きが濃い」
クレアが小首をかしげる。「視えた?」
「**星屑**の偏り。光が散る角度でわかる」
右へ。湧きは薄く、時間を節約。
九条から魔導端末に通達が入る。〈各班、現在地を送れ〉
——S一年第3班:深度6、異常なし。
星牙は短く入力し、進む。
9階層。
小広場。転移陣まであと少し。
天井の石がぱきりと割れ、三体同時湧き。この層では珍しいが想定内。
「レン、正面。クレア、右を鈍らせて。真田、左を壁で止める」
「任せて!」
「了解」
「行く!」
風が先に走り、右の個体の関節に冷風の楔が刺さる。
左は土壁がせり上がって足止め。
正面は——星牙の一歩。
杖が刀へ変わり、星撃・微小重圧が刃に集まる。
「——落ちろ」
金属もどきの皮膚が紙のように裂け、静かに倒れた。
レンが振り向く。「やるじゃん、遊撃」
星牙は肩をすくめる。「先鋒が強すぎて暇だった」
クレアが淡く笑う。「なら、退屈させないように頑張る」
10階層・転移陣。
九条の声が通信に入る。〈一時帰還報告、忘れるな〉
陣に立ち、学園の臨時拠点(安全室)へ。
回復、装備の点検。ヴァルが小さな治癒符を光らせ、擦過傷を消す。
【次階層から、罠密度が上昇。推奨ルート:中央回廊→西翼】
九条が頷いた。「中央は混む。西へ回る。——焦るな、まだ序盤だ」
星牙は静かに呼吸を整えた。
淡く灯る転移陣を見つめながら、心の奥で思う。
(平穏なのは、今のうちだけか)
訓練の一日目は順調に終わった。
だが、その深層で蠢く“何か”の気配は、まだ誰も知らない。




