第9話 静寂の中の声
午後の演習場は、春の日差しに満ちていた。
アストラ魔法学園一年Sクラス――
本日の授業内容は「魔力制御と集団連携」。
担当教師が言う。
「今回は、制御不能になった低級魔獣を鎮静化する訓練だ。
倒すんじゃなく、あくまで“抑える”のが目的だぞ」
ざわめく生徒たち。
中には自信満々の者もいれば、不安げな者もいる。
レンはやる気満々で炎を指先に灯していた。
「星牙、今日のあんたも“観察だけ”とか言わないでよ?」
「……別に。やれって言われたらやるさ」
「もう、やる気あるんだかないんだか」
隣ではクレアが微笑む。
「でも、あなたが本気を出したところは、まだ誰も見てないもの」
「見せる必要がないからな」
その言葉に、レンとクレアは顔を見合わせて苦笑した。
教師の号令で訓練が始まる。
結界の向こうに放たれたのは、
四足歩行の黒い獣――中級魔獣。
魔力過剰で暴走しており、牙の一撃で金属すら裂ける。
「それじゃ、始め!」
炎、風、水、光。
生徒たちの魔法が次々に放たれ、
訓練場は一瞬で魔力の嵐に包まれた。
だがその中で、一頭のフェル・ウルフが暴走を始めた。
制御用の結界を突き破り、観覧席へ向かって突進してくる。
「やば――!」
誰かの叫び。
教師が防御魔法を展開するよりも早く、
星牙が小さく息を吐いた。
「重力収束」
静かな声とともに、地面が一瞬沈んだ。
暴走していた魔獣が、まるで糸を切られたようにその場で崩れ落ちる。
周囲の空気が歪み、風も音も止まる。
時間が止まったような静寂。
「え……今、何したの?」
レンの声が震える。
クレアも唇をわずかに動かした。
「風が……止まった。魔力の流れごと、凍りついたみたいに……」
星牙は淡々と答える。
「ただの圧縮。空気の層を重ねただけだよ」
「“だけ”って……」
教師が駆け寄り、魔獣を確認する。
生きてはいるが完全に無力化されていた。
「……見事な制御だ、星宮。君、何者だ?」
「生徒です」
「……そりゃそうだが」
観覧席がざわめく。
中には「序列一桁じゃないのか?」と囁く者もいた。
だが星牙は、興味なさそうにその場を去っていった。
その背中を見つめるレンとクレア。
「……ほんとに、ずるい人」
「何が?」
「いつも、“静かに世界を変える”」
風がまた吹く。
星牙の足元の影が、光の中に伸びていった。




