7話 氷魔法使いの誕生-前編-
一ヶ月の月日が流れ、アランさんたちと共にセフラン王国の外にある森の中で大漁発生している魔物を討伐する依頼を門番から受け、現在森の中を散策中。
───だけど、ここで一つ問題が発生。
それは…。
「魔物すらいない気がするんですが?」
そう、魔物の気配を一切感じないのだ。
一体どういうことなのだろうか?
「気配遮断を持つ魔物が存在しているのかもね」
私の横にいるアランさんが淡々と口を開いた。
気配遮断ってチート級のチートやん! そんな魔物いたら意外とやばくない?
「そんな魔物居たら大変なことじゃないですか!? 知らない間にセフラン王国に入ってきたら……」
「前にも教えたはずだけど、セフラン王国は魔物を寄せ付けない結界が張られている。まぁ、今は大丈夫だけど、あと一、二年くらいしか持たないかもしれないけどね」
「だからですよ! 弱まっている結界をその魔物たちが押しかけてきたら大変じゃないですかッ!」
「そうだねー。でもほら、何とかなるでしょ!」
「いやなんねぇよ!」
この人無責任すぎない?
何が『何とかなるでしょ』だ!
私は無責任変態魔術師の横にいるその親友に助けを求めた。
「ルイさ~ん、この人になんか言ってくださいよ~」
ルイさんは、苦笑いを浮かべながら首を傾げた。
「うーん、そうですね……。アラン、あまりルナさんを困らせないでくださいね?」
「分かってるとも!」
ぜっっったい分かってないわ、この魔術師。
まぁいいや、ルイさんの横にいる、執事兼弟子のアノールも呆れているし。
さっさと見つけて終わらせ……!?
───貴様らは人間か? エルフもいるのか?
私たちの背後に、突如物凄い魔力量を感じ取り、振り向くとそこには、白銀の髪色をした鬼人の姿があった。
「鬼人? だとしてもこの魔力量はどこから……」
アランさんはただの鬼人ではないと思ったのか、鬼人の正体を暴こうとしていた。
私は目の前にいる鬼人を見つめていると、音もなく静かに鬼人は、私に近づいてきた。
すると鬼人は私にとあることを問いかけてきた。
「そこらの鬼人に見えるか? 小娘よ」
「見えません、けど?」
鬼人は私の顎に人差し指を置き、全女子が喜びそうな『顎クイ』をした。
全くうれしくもないけど。
男×男の『顎クイ』を見るのは美味しいし、楽しいわよ? 酷いもんは声にならない悲鳴を上げて気絶ものだし。
でも、今の状況×訳の分からないイケメン鬼人の組み合わせでは、なんということも無いわ。
だって、この世界に転生してきたとき、変態魔術師に初対面で抱き着かれたんだよ? 耐性も付くわけよ。
しかもイケメンと毎日会話しているし、変態魔術師に吸われてるし慣れるわ。
「面白そうな小娘だな!」
出たよ! 『面白れぇ女』みたいなやつ! 少女漫画とかであるある! キュンともせんわ。
中身は30のおばさんよ? 無理もないわ~。
「そうですか? 貴方も面白そうな鬼人ですねー」
「フハハハハハハハ! そうかそうか! 小娘名を名乗れ」
鬼人はどこか楽しげに、私の名前を問いかけた。
アランさんと、ルイさんは黙ってこちらを見つめ、アノールは警戒しながら冷や汗を流している。
私は普通に名を鬼人に名乗った。
「ルナ。それが私の名前だよ」
「ルナ。ルナか。いい名前だ。気に入った! 我はクロノス。神鬼人《オーガロード》だ。我のもとに来るがいい! 損はさせぬ」
「神鬼人!?」
アノールは慌てながら私を後ろに隠した。
神鬼人って上級クラスの魔物だっけ? こんな森に一匹でいるってどういうことなのかしら?
「目的は分からないけど、この子を渡すわけにはいかないよ」
「そうですよ。申し訳ありませんが、死んでいただきます!」
アランさんとルイさんはそう言うと、杖を構え始めた。
だが次の瞬間。
クロノスは指をパチンと鳴らすと、私以外、時が止まったように動かなくなってしまった。
風も雲も動くことなく、ただ私とクロノスの二人だけの時間が流れた。
「小娘よ。さぁ来るがよい!」
一体どうすればいいんだ!!
───そう心の中で叫んだのだった。
〈続く〉