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ハッと目が覚めたら天井がいつもより高い。
背中にあるはずの柔らかさも無い。代わりにあるのは木の硬さ。
どうやらアタシ……イオン=ベリーキャンドは、寝ている間にベットから落ちたみたいだ。
正直、少し焦った。
いや、普通に焦った。
いつも通りじゃない、慣れない視界が広がれば驚きもするでしょう?
あ、右腕がちょっと痛い。痺れている感じ。
思ったよりも長い時間この体勢だったのかも。
床についたままの頭が微かな振動を感じた。人の歩みと四足歩行の生き物が跳ね歩くような音。それは私の部屋の前で止まった。
「大きな音がしてたけど……大丈夫?」
部屋の扉のノックと共に声が掛けられた。
「大丈夫~」
返答をした後、部屋主であるアタシの返事を待つことなく扉は開かれ、閉じられた薄暗い部屋にしっかりと光が入ってくる。
「おはよう。……盛大だね」
言葉をかけられ顔を上げれば、齢十三、四歳ほどの背丈の少女がドアノブに手を掛けて立っていた。
頭の上には薄い青の光を発して浮く輪と、腰の後ろあたりに一対の翼。ただ、右の翼は半分ほどから先は無く、その対照的で神秘的なシルエットに可愛らしいエプロン姿というアンバランス感に安心感を得られた。
彼女はアタシを育ててくれた人であり、母のような存在。いや、そのもの。アタシの母さんである。
母さんはアタシの格好を見て微笑んでいると言うか、ちょっと笑いを堪えているように見えた……アタシの寝相、そんなにひどいのですか……?
「あぁ……私が何をしたというのでしょ———んぐっ」
理不尽にも神様あたりに苦言を呈そうとしかけたところ、天罰なのか、いつの間にか眼前に迫っていた四足歩行の獣に顔を踏みつけられた。
「フフ……2号も『変なこと言ってないで早く起きなさい!』って」
若干顔を逸らし笑いを堪えながらも、母さんは獣こと2号の行動の意味を教えてくれる。正直求めてない。助けて。
2号は森に住む、全長二十センチほどの兎の聖獣である。四羽いる兄弟の中で上から二番目の子だから2号。
そして聖獣とは、自然に生きる獣が突如として神秘的な力を宿した個体のことで、聖獣化する原因は未だ解明されておらず、まさに神の気まぐれという言葉以外に表現しようがない。また、聖獣の子が聖獣になるとは限らないのだが2号は運よく聖獣として生まれ、当時は街がちょっとしたお祭り騒ぎだった。懐かしいなぁ。
まぁそれはそれとして……
「こら2号~! 人の顔を踏むなっていつも言ってるでしょ~!」
この子は隙あらばアタシの顔を踏んでくるのだ。
「お返しだ~!」
横になっていた体をグッと起き上がらせて、両手で2号を捕まえてもふもふする。
「うりうり~~!」
そんな、私たちのくだらない朝の一コマを見せられている母さんの輪が、青白く穏やかに時計回りで回っていた。
うん、楽しそうでなによりです。
「ご飯作ってるから。着替えて来なさい」
そう言って母さんは部屋を出て行った。
落ち着いて立ち上がり、カーテンと窓を開ける。
空は晴天。
風も気持ちいい。
まさに快晴ね。
「……ほら2号。お前も出ていきな。レディが着替えるんだから」
部屋にのさばろうとしていた2号を部屋から追い出して寝巻を脱ぎ着替える。
はぁ……正直、今日はあまりいいことが起こらない気がする……あんな寝起きだったし。いや、寝起きは関係ないだろうけど。
アタシの勘は結構当たるらしい。それも悪い方向で。それだけではなく、アタシには関係ないところで起こることが多いらしく、友人達に結果だけ聞かされてもいまいち実感ができない。
…………気分を変えていこう。
あぁ……また新しい今日が始まる。




