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領主の屋敷に着いた私は、エミリアが兄であるグレイに勝手な外出を咎められているのを眺めていた。
グレイは次期領主として育てられているフォクスリー家当主の長男である。イオンと同い年であり、彼の一つ上の婚約者含めて仲が良く、昔は三人で会うたびに遊び回ってたっけ。ちょっと懐かしい。
「まったく……いい加減落ち着いたらどうなんだ」
「そういうお兄様も私と同じぐらいの時はお転婆だったそうでは無いですか!」
「だれがそんなことを……?」
エミリアはグレイからの疑問に口を閉ざして、身振りだけで答えた。その所作はまさに貴族のご令嬢として文句はないほどだった。
「ッスー…………なんてこと教えてるんですかヘデラさん!」
ただ、グレイの矛先を私に移したことにはちょっと文句言いたいかも。
「安心して下さい。他の二人のことも一緒に話しましたから」
「その情報で何を安心すればいいというのですか!」
これ以上仲のいい兄妹のやり合いに混ざるのもいいけど……長くなりそうかな。
「あの、エリオットさん」
話を変えるために、近くで控えていたエリオットに振り返る。
「先ほどの話なんですけど……」
「ええ、はい。そうでしたね。……実は今朝この屋敷で賊が捕らえられまして」
えっ。
「自分も詳しくは聞かされていないのですが……窃盗の類らしいのですが、幸い被害は未然に防げたらしいのです。けれど色々と腑に落ちない事があったとか」
被害がないならよかったと、胸を撫で下ろした。
「何だ今朝のことか?」
こっちの話が聞こえたのか、エミリアにアイアンクローされそうになっているグレイが割り込んできた。
「うん、捕まえられてよかったね。……どこから入り込んだか分かったんですか?」
返事を返しつつも再びエリオットに振り返る。
「えっとそれが……」
「エリオット」
エミリアにほぼ捕まっているグレイが言葉で止めた。
「……侵入した痕跡は無かったそうなんだ。これ以上のことは直接本人に聞いた方がいいだろう」
そう言って、近くに控えていたメイドに指示を出した。
「天使様……もう行ってしまうのですか?」
兄のしっかり掴んだエミリアが聞いてきた。空気を察したのだろう。
「うん、ごめんね。また今度遊ぼうか」
「はい! お待ちしております!」
我儘ではあるが、引く時はちゃんと分別を弁えている子なのだ。
「その前にお前は反省しろ! そして放せ!」
完全に抑えられたグレイがそうエミリア怒鳴りつけた。言葉では分かっていても、行動はまだ正直になってしまうのはまだ幼さを感じさせる。
兄は兄で、言葉は強くても決して無理やりには引き離そうとしないあたり、本当に妹には甘い。
エミリア達と別れ、領主様に挨拶そこそこに今回の事件調査に協力することを条件として、衛兵詰め所に捕らえているという例の賊との面会をさせてもらえることになった。いや、今回のは事情聴取に同席すると言った方が正しいのかもしれない。
曰く、『捕まえた賊の身につけていた装備が領主邸に保管されていた先祖の物と酷似していた』のだという。ただなかなか目を覚まさず、つい先程目を覚ましたと連絡が来たのだと言う。詳しく調べるために装備を押収しようにも外す事が出来なかったためひとまずは手足を拘束し、そのまま牢に捕らえたのだと。
これはお昼までには帰れなさそうにもないかな……
私は元気にしています。