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だれかの箱庭 ~クレオメの夢~  作者: なぁさん
Chapter.3_この世界に生きる
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2

 私たちが住む森から街へはそれほど距離はない。その分、森から溢れた魔物が街に行ってしまうことがあるため、住んでるついでにこの森の森番と冒険者を兼任している。兼任と言っても、冒険者としての活動はほとんどしてなく、この森に関する依頼をついでに受けている程度。森番の仕事も時々奥地からやって来てしまう魔物を除けば比較的安全に処理できているので、街の子供が時々家の近くまで遊びに来ることもある。

 それもあって、街へと続く道付近は特に気をつけているのだけれど、今日も大丈夫そうかな。


 街に入り、出店や景色を楽しみつつ教会を目指して街を歩いていたところ、人が集まりやすい広場がいつものような楽しい騒がしさではない、緊迫というか困惑に近いような事に気づいた。


「お、なんだなんだ。喧嘩か?」

「いや違うらしい」


 たまたま近くにいた冒険者らしき風貌の二人の会話が聞こえた。


「よく分かんねーんだけど、泥棒がでたんだってさ」

「泥棒? にしては物々しいじゃねぇか」

「だよなぁ……あ。ところでよう―――」


 二人はそれほど興味はないのか、すぐに話を変えて冒険者ギルドの方面へ歩いて行った。他にもちらほらと話し声は聞こえるのだけれど……

『泥棒だって?』

『もう捕まったのかな?』

『誰が何を盗まれたって?』

『さぁ? でも衛兵たちが―――』

 多分ここでは泥棒の情報はほとんどなさそう。


 本当にただの泥棒なら街の衛兵の仕事だろうし、私が関わってもあまり力にはなれなそうだと思う。

 改めて教会へ向かおうとしたら突如後ろから声をかけられた。


「あ、天使様!」


「えっ……」


 聞き慣れている声に振り向くとそこには、案の定灰色の輝く髪を靡かせた貴族のご令嬢がいた。身長は私よりも少し低いが元気は何倍も高い。


「こんにちは! イオンお姉様はいらっしゃらないんですか?」


 普段はイオンと一緒に来ることがおおいいからか、不思議に思っているのだろう。


「えーと……こんにちは。イオンは今日は一緒に来てないんだよ。リアちゃんは今日も一人なの?」


 もちろん分かりきってはいるけれど、一応は聞いておく。


「はい! お屋敷が騒がしかったので、つい!」


 わー元気。というか『つい』でまた勝手に出てきちゃったんだ……

 彼女はこのフォクスリー辺境領の当主家の長女である『エミリア=フォクスリー』。時々お屋敷を飛び出しているお転婆なのだが、今回も案の定らしい。見るからに周りに護衛らしき人はいないし、護衛の人が困っている表情が目に浮かぶようで……


「天使様どこか行くのですか?」


 そんな周りはどうでもいいかのようにエミリアは私に絡んでくる。元気ー。


「ええ。ちょっと教会に用があって」

「では私も連れてってください!」


 何かと私によく着いてこようとするのは、きっと自身の母が恋しいからその代わりしたいのかもしれない。

 当主の妻でエミリアの母でもあるフォクスリー夫人は、領地ではなく王都で暮らしている。夫婦仲が悪いとかではなく、魔道具の研究・開発および王立学院の臨時講師をしている。そのため、一年の大半は王都で暮らしており、フォクスリー領にもあまり帰ってこられないのだ。

 それもあって、エミリアは寂しさを紛らわすかのようによくお屋敷から出て来てはやんちゃをする。この街は治安がいいほうだけど毎回危なっかしい。


「いいけど、お家の人が来るまでだよ?」


 特別断る理由もないし、このまま一人にしておくわけにはいかないので、ひとまずはとに行動することにした。


「ありがとうございます。では参りましょう! おそらくもう私が出てきたのはバレていますので!」


 そう言ってエミリアは私の手を掴んだ。ただ、私といると余計目立つだろうとことは本人も気づいているだろうな。



 顔馴染みに軽く挨拶つつ、エミリアとともに教会を目指していたら後ろの方から声がした。


「お嬢様!」

「あ、エリオット。もう来たのね」


 声に釣られ振り返れば彼女の護衛……エリオットが私たちを見つけたようで、慌てて駆け寄ってきた。周りに挨拶した甲斐があってか早かった。


「エミリアお嬢様、また勝手に! 心配したではありませんか!」


 若干切らしていた息をすぐ整えて、エリオットはエミリアに問いただした。


「だって、お屋敷のみんなが騒いでるんだもの」

「理由になっていませんよ! 全く……天使様、保護してくださってありがとうございます」


 エリオットは私に振り返り頭を下げた。いつものことだからもう気にしてはいないのだけれど、毎回丁寧なお辞儀に感心した。


「いえいえ、いつものことですから」

「本当にすみません……さぁ、帰りますよお嬢様」


 エリオットがエミリアをもう逃しはしまいと手を引こうとしたところ、エミリアは私をエリオットの間に挟み、盾にする形で私の後ろに回った。


「いやよ! まだ天使様と一緒にいるの!」

「天使様を盾にしないでください!」

「いや! 教会行くの!」

「教会? なんでまた……」

「私が用事あるので」


 おそらくこのままだと終わりは見えなそうだし、ひとまず……


「リアちゃん、お出かけはおしまい」


 エミリアに方に向き直って言った。


「えー。でも……」

「教会はまた今度一緒に行こう?」

「じゃ、じゃあ天使様もお家に来て下さい!」


 いつものことだから予想はしていたけど……急にお屋敷に行くのはお申し訳ないと思いつつもエリオットに視線を合わせると『大丈夫』だと首を振ってくれた。


「……お昼には帰らないとだから少しだけね」

「いいの!?」

「でも本当に少しだよ? イオンがお腹空かせちゃうから」

「ええ、ええ! 少しだけ!」


 教会はまたの機会になりそうかな……

 再び元気になったエミリアは私と手を繋ぎ直して歩き直した。


「ところで……」


 聞けていなかったことを近くを歩くエリオットに投げかけた。


「『お屋敷のみんなが騒いでる』ってリアちゃん言ってましたけど、何かあったんですか?」


 今日エミリアが飛び出してきた理由でもあることをまだ聞いていなかったので今のうちに聞いておこうかと思った。


「あぁ。その事なのですが……」


 エリオットはわかりやすく言い淀んだ。そして、


「ここでは……ちょっと……」


 なんとなくだが察した。


「わかりました。ではまた後で」


 おそらく、公に話すのはよくない。というか面倒ごとなのは分かった。まぁ、着けばわかる事だし、急ぎではないのならと置いておく。


「すみません……」

「いえいえ」


 イオンの感じていた嫌な予感は案外このことなのかという思いは頭の片隅に置き、私たちはエミリアに引かれて歩みを進めた。

 お昼までには帰れるといいんだけど……

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