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拝啓
———なぜイオンは取り憑かれているのだろう
朝食を食べている時にイオンから見えた謎の霊魂に対して、私はただ不思議に思った。仮にも竜の血を引いている彼女に憑けたことに。
霊魂は自身よりも強い存在に取り憑くにはそれ相応の力、例えば恨みや妬みといった感情や、守りたい救いたいといった守護欲と言えばいいのか、とにかく、生前の強い想い・未練が必要なのだ。
ただ今回は霊魂自体が弱っていたのは明らかであり、あのままだとすぐに消滅するか自我無き霊としてこの世界を彷徨ってしまうかもしれない。いや、私がそばにいる限りは後者になることもないだろう。
イオン本人もまだ自信が取り憑かれている気付いていなさそうだったから言わなかったけれども……多分、夢を一緒に見た『誰か』というのはあの霊魂の女性だろう。いったい何処から連れてきてしまったのか……
「あの子……この類の事には鈍いし、大の苦手だから下手に刺激するのは良く無いだろうしなぁ……」
イオンはアンデットや幽霊といった類のモノが大の苦手なのだ。理由はまぁ……今は置いておくとして、本人に伝えるタイミングはしっかり考えなければいけない。面倒な事になりがちだから。
特別悪さをするような方ではなさそうだったし、とりあえずは置いておいたけれど……
「でもちゃんと還ってもらった方がいいかな……」
与えられた役割が違い、さらには『元』ではあるけれど、私も一応『天使』ではある。だからなのか、ちゃんとあるべき元へ還っていない霊魂には還って欲しいとは思うのだろう。最悪、『歪み』の原因になっても困るから。
霊と話ができるのなら手っ取り早くていいんだけれど…………うん。
もうイオンを送り出してしまったし、ひとまず教会で神父様かシスターに手伝ってもらう方がいいかな。霊魂となってこの世に残っているということは、それなりに強い願い・未練を残しているのだから。その悩みの種を取り除くことが出来るのなら、やってあげたい。そう思った。何よりも、専門家に任せるのが一番だろう。
「……これも私の性であり縁なのでしょうね」
街の教会のシスターにこういった、いわゆる『霊魂のお悩み相談』が得意な人がいると小耳に聞いたことがある。最近街に来た人らしく、私自身はその人にあった事はまだないけれど聞いてみるのも一つの手かな。
「2号、あなたも一緒に来る?」
そばにいた2号に一緒に街へ行くか聞けばこれを拒否。気分が乗らなかったかな?
「そう? なら鍵は開けとこうか。出かける時は気をつけてね。……行ってきます」
リビングのテーブルに一言『街に行ってくる』と書き置きを残して、手荷物そこそこにどこか寄り道しようかとか考えつつ家を出た。