胸に 火が 灯る
世界を救った話
造られてすぐの人形に与えられた役割は「世界を救う」事だった。
世界の中に生きている生物達を災害などからから守るというものではなく、世界という『器』そのものの崩壊を防ぐために。神より遣わされた『救世主』と呼ばれる存在の補助として共にある(救う)事。
それ以上でも以下でもなかった。
その世界に存在する『魔力』とは違う力によって起こる自然現象。ある時はその生物としてはあり得ない突然変異を起こし、またある時は空間がどこか別の、それこそ異なる世界へと繋がってしまい、予期出来ない事象が起こった。
世界にとって害にしかならない人智を超えたこれらの現象は総じて『歪み』と呼称された。そして、その現象を修正し世界を安定させる事が救世主に与えられた使命であった。
けれど救世主を支える為に造られた人形の体は、齢十四ほどの背丈の雌の人間を元にした体。頭の上には薄く青い光を発するシンプルな作りの輪。腰のすぐ後ろに浮いた薄く青い光を発する無機質な一対の翼。
そんな救世主の補助役としては最低限の条件しか満たしていない人形を使わざるを得ない程に、当時の世界に猶予はなかった。
最初は世界そのものの経年劣化による小規模な歪みの発生だった。自然に治り世界への影響が出ない程の小さなもの。それに目を付け、己が力に変えようとしたとある人間の国によって、短い時間の中で取り返しがつかない程に歪みは強くなってしまった。
世界の崩壊を恐れた神々はこれを防ぐためにそれ専用の神……『救世の神』を造った。『歪み』を修正し、世界と言う自分達の箱庭を守る為に。救世の神は、自身の使徒でありどこか別の世界の魂を宿した急造の救世主と天使を世界へ遣わした。救世主達による、後に『救世の旅』と呼ばれたこの旅路は三人の人間を加えた計五人の少人数のものだった。
結論として世界は救われた。歪みを利用しようとした国は滅び、各地で問題を起こしていた『歪み』もほとんど修正され、世界は元の状態に限りなく近い状態までになった。役割を終えた救世の神は再び醒めぬ事を望み眠りにつき、救世主もまた、元あった場所へ還る為に世界から消えた。
だが天使は『人』としてこの世界に生きる事を選んだ。本来ならば自身を造った神の下へ還るはずだったその人形は、仲間達との旅の果てに世界に残る事を望んだのだ。
神々はそれを許した。
天使の体は朽ちる事はない。きっと永久を過ごすことになるだろう。仲間達に先立たれ、今後もっと多くの新たな出会いと別れを繰り返すことになる。
けれど後悔はなかった。救世主が、仲間達が愛したこの世界を守り続けることが、人形ではない『私』の役割であり願いだと『私』が決めたから。
私が生きる世界の話