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5.ああ苦情

BL始まってしまいました。

理解が足りていないのは、重々承知しております。

 どうにか雨は降らずに保っているが、空は濃灰の雲に覆い尽くされ いつもより早く夜が訪れている。アヴェクスの大通りには既に街灯が点き、帰路を急ぐ人々の足下を照らしていた。


「……何だ、相方 まだ帰って来ねぇのか?」


 『ファズおじさんのおうち』はまだ営業中、それも夕飯時の忙しい時間帯である。にも関わらず、宿酒場の従業員用の裏口から 主人のファズが大きな顔を覗かせた。声をかけた先にはダイフクが独り、壁にもたれて腕組みしている。


「帰って来ない。ファズさん、どこまでお使い行かせたの?」

「中央公館に弁当の配達、頼んだだけだぞ? あそこまでなら さすがに迷ったりしねぇだろ」

「……そのはず、なんだけどなぁ」


 星のない夜空を見上げてため息を吐くダイフクに、ファズも参ったな、とでも言いたげな顔をしていた。


「心配なのは分かっけど、一旦 中に入って飯でも食ってろよ」

「今、食堂 混んでるピークだからだ」

「分ぁった分ぁった! 部屋まで持って行ってやるから」


 サナがそこに居れば「また甘やかしてる」とか言われるだろうと ぼんやり考えながら、裏口の中に消えるファズを見送る。もう少し待ってみても来ないようなら、受付カウンターの方に戻ろうとダイフクも思っていた。

 ちょうど その時。


主人ダーリン! 警吏の方が見えてます』


 巻き貝ディスプレイを黄色く点滅させながら、外側から大回りでカシオペアが呼びに来た。


「警吏の人? 何かあったのかな」

『ポッチさんが通報されたようです』

「ポッチが!? 何やらかしたんだよ、アイツ‼」

『べ、別に ざまぁ見晒せ、とか思っていませんよ!』

「ヤキモチ妬いちゃう甲殻類カシオペアとか、ただひたすら可愛いんだけど」

『正確に理解しています』


 よくよく思い起こせば、ポッチが通報されたのは これが初めてではない。以前にも何度かあったことだ。


**


 サナたちと別れ 都の中央公館を後にした。そのまま真っ直ぐ宿酒場に戻るつもりでいたのだが、ポッチの目の前で 夜の民のお婆さんが転んでしまい、抱えていた籠の中の果物が 道いっぱいにぶち撒けられた。

 無事な果物を拾うついでに 駄目になってしまった分も近くの青果店で買い直してやり、道中が心配になったため 家までお婆さんを送り届けた。ここまではまだ見覚えのある道だったので、特に問題はなかった。

 今度こそ帰ろうと来た道を引き返すと、側溝に杖を落とし そのまま自分もハマってしまった陽の民のお爺さんを見つけてしまった。慌てて引っ張り出し、落とした杖も探り当てた。こちらも道中の足取りが覚束なかったため、お爺さんの家まで送り届けた。この辺りから 帰り道も怪しくなってきたように思う。

 この後も、嵐の民の怖いおじさんの家に ボールを投げ込んでしまった子どもたちと一緒に謝りに行く羽目になったり、おだてられたか 木に登って降りられなくなっている子豚を助けたり、つけまつ毛を片方落として面白い顔になってしまったオネエさんに付き合い まつ毛探しをしたりと、どんどん知らない地区へと踏み込んでしまった。

 最終的に 母親とはぐれて迷子になっている幼い女の子と出会い、自分でも道が分からなくなって警吏派出所を探すことにしたのだが……。


「……どの道に行っても全然 警吏の派出所が見つからなくて、終いには”若い男が小さな女の子を連れ回している”って不審者扱いされて……」


 結果として 通報されたお陰で どうにか警吏派出所に迷子の女の子を預ける事ができ、ポッチも『ファズおじさんのおうち』まで送り届けてもらえた。

 昼食も状況のせいで ろくろく食べられなかった。空腹のあまり、ダイフクの部屋でなぜか用意されていた冷めた夕食を 涙目のままポッチはかっ込んでいる。


「……悪いことじゃないけどさ、お人好しもほどほどにね」

「好きこのんで飛びついてるわけじゃない」

「性分なのは知ってるよ」


 呆れながらも人心地がついたと、ダイフクは微笑してその様子を眺める。あらかた食べ終えてから、ポッチは置いてあった食事が一人分しか出されていないのに気が付いた。


「あっ……もしかしてコレ、ダイフクの分だったのか?」

「ああ、気にしないで。すっかり冷めちゃったから、新しいの用意してもらおうと思ってた」


 どこまでが本気か判断がつかないが、少なくとも気分を害している顔ではない。素直に食べきってしまおう。

 「そう言えば」その後にいろいろあり過ぎて忘れそうになっていたが、今日はサナから新しい【班】についての話を聞かされた。ダイフクにさえ洩らすなと言われている。

 ダイフクの部屋から受付カウンター側に出るドアは、今は施錠してある。ファズが料理を上げ下げしに入って来るのは、いつも従業員用通路側のドアの方からだ。廊下側の磨りガラスに影が映るので、いつ来るかなんてのも見当はつく。

 しばし耳を澄ませて周囲の気配を窺ってから、ポッチは口にした。


「昼間、中央公館で会長に会って話してきた。【天空の民対策班】っていうのを、新たに設けるらしい」

「へぇ、初めて聞いた。企画の相談でもされたの?」


 何も疑うことなく、世間話の軽さでダイフクは相槌を打つ。この日受けた説明をかいつまんで話すと、ダイフクも概要を理解したようだった。


「……『天空の民との接触』を前提とした、不穏な痕跡の調査ね。俺も今日《ホカンコ》の様子 見てきたけど、確かに通信回数 増えてたな」


 ほどよく宿酒場内は騒がしく、部屋の周りに誰かがうろつく様子もない。


「ちなみに、この話は極秘だそうだ。あくまで内密に、ダイフクにも絶対言うなって、念を押されてきた」

「何で 全部話しちゃってるの!?」


 またいつものうっかりかと 額を押さえるダイフクに、至って真剣な表情でポッチは返す。


「様子が可怪しい気がするから、大事な相棒に隠してはいけない話だと思って」


 不意に向けられた真っ直ぐな眼差しで ダイフクが固まった。ポッチとしても、そんな変な事を言ったつもりはない。気まずそうにダイフクの方から目線が逸れ、そのまま泳いでいく。

 ポッチの背中向こうの磨りガラスに、黒い大きな影が横切った。


「ちょっとファズさん! ポッチが俺のこと大好き過ぎて、気持ち悪いんだけど‼」

「うわ、いきなり開けんな! ……急にどうした、五年前からじゃねぇか」

「待った待った待った! 風評被害散布おじさんに何てこと言うんだよ」


 ポッチが帰ってきたのを知って、追加の夕食を持ってきてくれたらしい。残念ながら できたてホカホカの煮込みハンバーグは、ポッチの腹には入らない。


「酷ぇ言い草だな、オイ。別に間違った事、言ってねぇだろ」

「今回に限って間違ってないけど、ファズさん いつも曲解してるよ」


 「そうかぁ?」と 納得のいかない顔で、ファズは空の皿を回収していく。


「こっちの皿は食べ終わったら僕が持って行きますんで、後は放っておいてもらって大丈夫ですよ」

「そうか、助かるわ。ダイフクも見習え」

「うるさいなぁ、一人の時はやってるじゃん」


 いまだに自分ファズの前では子供っぽく口を尖らすダイフクを笑ってから、ポッチの肩にファズは声を潜めてこっそり残す。


「ダイフクの奴、昔からこういうところ あまのじゃくでな。大好きだの言われるの、本当はすげぇ嬉しいくせによ」

「そんなこと言ってないんですけど」

「まあまあ、それじゃ ごゆっくりな」


 磨りガラスに映る黒い影がすっかり消えてから、両者ともに大きく息を吐き出す。これでしばらく、誰も部屋に入っては来ないだろう。


「はああああ、危なああああ」

「危ない越えてアウトだよ、どうしてくれる」

「大丈夫だ、問題ない。変な噂が立っても 彼女ならサナさんが二人も用意してくれたんでしょ」


 「そうだった」その二人のことも含めて、話は終わっていなかった。


「会長はあの二人と組んで調査に当たれって言っていた。だから完全に会長の下で動くことになると思う。本当にダイフク、何も聞かされてないのか?」


 今までの反応から訊くまでもないとは分かっている。ダイフクも薄々 感付いているに違いない。


「《ホカンコ》のパスワードの件 疑ってるんだろうな、俺が変更したって。……でもパスワード変えたの、随分前だったんだけど」

「本当に勝手に変えたのか!? それはさすがにマズイだろ……大事おおごとになる前に、会長に報告しておいた方が」


 「いや」今になって煮込みハンバーグにナイフを入れながら、軽くダイフクは首を振る「あっちが秘密にしたいなら、俺も知らないフリをしておく」。


「天空の民による地上への干渉は 最近 始まったっていう訳でもない。にもかかわらず、【天空返り】なんて言葉まで造って俺を調査から外すのは《ミツマメ》さんが何か噛んでる気がする。それとも――カシオペアかな」


 今度は冷めないうちに、とダイフクはせっせとハンバーグを口に運んでいる。


「それこそ ダイフクが大好きでしょうがないカシオペアが、御主人様に隠し事しようとするのか?」

「俺のカシオペアは、受付の番頭してる あのコだけだから」


 「それはそうだけど」ダイフクの言葉の意味が解らず、続けようもなくポッチも黙り込む。

 黙々と自分の食事を終えた後で「ごちそーさまでした」と両手を合わせ、慣れた手つきで皿を重ねながら ぽつりとダイフクは口にした。


「……《ホカンコ》の新しいパスワードは、俺の父親の名前にしてある。覚えてるかな、『ギール』って。カシオペアにも教えてない」


 だから、誰にも言うな。何かあった時の、切り札に取っておけ。


「制御室で出来る大体のことはPassなしでも動かせるようにしておいたんだけど、そう考えると やっぱりおかしいよね」


 元の調子に戻り、ダイフクは部屋の天井を仰ぐ。


「こっちでも暇見つけて調べておこう。何か分かったとき、共有するかはポッチに任せる」

「秘匿する必要は感じないんだが」


 正直な気持ちを言っているだけなのに、ダイフクは返事に困った顔をしている。


「たった今、僕に任せるって言っただろう? 任された結果、隠し事はしないと判断しただけだぞ。僕は会長の直属じゃない、ダイフクの相方だからな」


 またもや額を押さえ、照れ隠しか そのままダイフクは背中を向けてしまった。仕方がないので、机の上で重なっただけの皿を手に取る。


「……あんまり無茶な事、させられそうだったら言えよ。文句つけてやるから」


 背中は向けたままだが、そんな事を言ってきた。彼なりに 心配はしてくれているのだろう。


「分かった。おやすみ、また明日」


 通路側のドアを出るタイミングで、少しだけダイフクも振り向いた。


「また明日。しっかり休んできなよ」


 うかつにも皿を持ったまま、自分の宿舎前まで行ってしまったのは ポッチ自身の判断により、秘匿することにした。


**


 《討伐者協会》公認宿酒場『ファズおじさんのおうち』の裏手の空き地を挟んで 従業員宿舎の反対側の小路を行くと、ダイフクの所有する使役機械獣用ガレージがある。元は倉庫であった建物を譲り受け、ダイフク自ら使い勝手の良いように改装したものだ。簡易的な居住空間も設けてあり、その気であればこちらで寝泊まりも可能だ。

 空から雨雲がさっぱりと消え去ってしまう前日から、ダイフクは泊まり込みで何か作業をしているとファズから聞いた。お馴染みとなった弁当の配達を頼まれ、良い匂いのバスケットを抱えてダイフクのガレージを訪ねたところだ。


「ちわー、配達に伺いましたー」

「ご苦労さま、そこ置いといてー……って、なんだ ポッチじゃん。様になってるね」

「いつの間にか弁当屋の配達員みたいになってた」


 指示された作業台にバスケットを置くと、機械いじり中のダイフクの手元を覗き込んでみる。今日に限って 甲殻類型機械獣をイタズラしているわけではないようだ。


「ん? コレ、僕のグライダーか」


 ダイフクがデメテルを駆る時に置いてけぼりを食らわないよう ポッチが愛用している、折り畳み式グライダーがその場に広げられていた。


「うん。俺がついてなくても動かしやすいように、いろいろ改良しといた」


 街中でしている者はないが、夜の民の殆どは滑空で空中を移動する能力を持っている。いつだか荒野で羨ましそうに彼らを眺めていたポッチのために、ダイフクが作ってやった物だ。グライダーと言いながらも 低空飛行形態に変形して街中で乗ったりも出来る、非常に優れた小型乗用機である。


「ポッチは握力より脚の鉤爪で掴む方が安定するよね。風力飛行する時はパイプ部、下に降ろせるようにしたから。あと低空飛行形態時の操作は、ペダルじゃなくてハンドルレバー操作に変えといた」

「ほぉ、けっこう変えたんだ。少し慣らさないとな」

「ポッチからしたら 扱い易くなったと思うよ」


 早速グライダーの動力を起動し、低空飛行形態に移行してみせる。先ほど自身で説明した通りにハンドルレバーでアクセルを入れてみるが、ダイフクの期待する速度にならない。


「あーやっぱり、俺じゃ試運転にならないや」

「珍しい、調整失敗か?」

「いや、多分 大成功。ポッチの体重に合わせたから、俺だと重すぎるんだよ。ポッチが乗ってみて」


 確かに、目に見える体格の差だけでなく 夜の民の骨格を受け継いでしまったせいで、三割近く質量が違う。一緒に同じ鍛錬をしても、筋肉が増すどころか自分ポッチだけ疲労骨折をする始末だった。

 言われるままに交代し グライダーに乗ってみると、なるほど ダイフクが乗った時よりいくらか高く浮上している。


「最初は加減 分からないから、アクセルは軽めにね」

「分かった、こうだなああああああああ‼」


 期待していた以上の速度が出たようだ。満足そうにダイフクも頷いている。


「強度も上げてあるから、ちょっとやそっとじゃ壊れないよ」

「……乗り手の方が、先に壊れるかも……」


 隣の倉庫の壁に正面から激突しても、グライダーは全くの無傷だった。

 対して乗り手は。幸い鼻血が出るほどではなかったが顔面を酷く打ち付けてしまった。左手で顔を押さえつつ、右手で癒術の印を組む。こんなとき、下手でもカンナギ技能を持っていて良かったと切に感じる。

 痛みも落ち着き 顔を上げる。目の前に 見慣れない色形の手の平が差し出されていた。


「大丈夫かい、美しい人。さあ、お手をどうぞ」


 手の平を辿り、目の前に影を伸ばす人物の顔を見上げる。

 やや暖色系に偏った、発色の鮮やかなカメレオン系の雨の民。記憶に残るそれは笑顔ではなかったが、姿に見覚えはある。


「だだだ大丈夫です、お構いなく‼」


 ポッチ専用に作られただけあり、慌てて引っ掴んでも持ち上がる程度に グライダーは軽量化されている。そのまま離れようと後ずさるポッチの肩に、そっと しかし力強く 差し出されていた手の平が置かれた。


「本当に大丈夫かな? ボクも心配だし、大切な用事もあるから ちょっとお茶でもしてこないかい?」

「なんか以前と人格キャラ、変わってないか? ただのそっくりさん?」

「ボクのこと覚えてくれてたんだね!? 感激だよ! ボクの心も、ずーっとキミへの想いでいっぱいだったのさ」


 間違いない。サナの経営する『シルク・スパイダア』の『裏事務室』で()()()()されていた、刺客の少年だ。


「何か変な薬でも打たれたんじゃ……」

「ボクが変わってしまったというのなら、その原因ワケはキミの【呪印】さ! 追加呪効【魅了】で、キミなしでは生きていけないカラダにされてしまったのだよ!」

「とっくに有効時間切れてるし【呪印】にそんな効果ありません。それ以前に【魅了】なんて状態異常、この世界には存在しないだろ」


 これはサナの所で脳みそコチョコチョでもされたのかもしれない。改めて、我らが《討伐者協会》会長裏の顔の恐ろしさを思い知る。


「ポッチ、その変なのと知り合い?」


 怯えるポッチを見かねたのか、面倒臭そうにダイフクも口を挟んできた。そんな台詞を吐いてみせても、ダイフクの記憶力なら ちゃんと刺客の少年だと覚えているはずだ。


「ナニ言ってやがんだ、アンタだってオレと顔 合わせてんだろがよ」


 おっと、ダイフクに対する返しは元のままだ。脳みそコチョコチョまではされていないのか。


「知らない知らない! 見たことも聞いたこともないぞ」

「素直じゃなくっても、キミは綺麗だよ。……あ、でもそうか」


 カメレオン少年の体色から、すっと赤みが引く。なお鮮やかな新緑の鱗皮が 彼の本来の体色なのだろう。


「まだ挨拶すら、マトモにしてなかったからな」


 軽く口の端を吊り上げて笑うも、その目は腹の底を明かさない。


サナさん直属で隠密として働くことになった ロノアロだ。アンタたちの事は姐さんからよく聞いてるから、そっちの紹介は不要だぜ。……とは言っても」


 両手でポッチの手を取り、体色がほんのりピンクに染まる。


「ああ、麗しきミッドナイトトゥインクル! キミのことなら もっと知りたい」

「それならまず、性別を知ってくれ。男だから」


 夜の民カラス部族は性別が分かりにくいと、他種族からよく言われる。顔は陽の民だが、勘違いされることも初めてではない。これできっぱり、少年も手を引いてくれるだろう。


「もちろん知ってるさ! 何故ならボクは全方位ストライクゾーン、大人も子どももおにーさんも! オールウェルカムな三刀流だからね‼」


 ……性別など大した問題ではなかった。


「そんなこと言われると、逆に腹立ってくるな……実は 誰でもいいんじゃないのか」

「とんでもない節操ナシだね。このド変態が」

「ダイフクはそういう事、言ったらいけないと思う」


 「サナさんも、何でこんな珍妙な連中ばっかり傍に置くかな」眉間を揉みほぐしながら呟く 珍妙な連中の筆頭に、ポッチも心より賛同する。


「さて。どこのどいつかは分かったけど、何しに来たのかは聞いてないよ。用が無ければ俺の秘密基地こんなトコまで来ないだろ」

「ハナからアンタにゃ 用はねぇよ」


 露骨にダイフクには敵意を見せた後で、ロノアロと名乗った少年はキラキラと瞳を輝かせて ポッチに向き直った。


あねさんがお呼びで、ずっとキミを捜してたんだよ! 大事な話があるから、集まってくれって」


 『大事な話』という言葉に反応し、すかさずダイフクが待ったをかける。


「サナさんが、俺を抜いて『大事な話』があるって?」

自分てめぇばっかり特別扱いだと思ってんじゃねぇぞ。それともナニか? アンタもヒロインの座争奪戦 参加するってのかよ、あ?」

「思ってたのと違った……遠慮しとくよ」


 どんな言い訳を出してくるのかと思えば。一体どこから そんな話が出るというのか。


「意味が分からないけど、呼ばれたなら行って来る。グライダーはこのまま、ダイフクのガレージで預かっててくれ」


 また後での意を込め、目配せを残す。「了解」とだけ返し、気に留めぬふりでダイフクもグライダーを畳んでいた。


「では、しっかりつかまってくれたまえ、愛しい人」


 ロノアロの声と共に、突然 抱え上げられる。何だか嫌な予感が。


「わ、ひ、待って、姫抱き止めて‼」

「な、ミッドナイトトゥインクル、軽ゥっ!? まさか本当に天使だったのかっ!?」


 予想外の軽さに流石に驚きながらも、不都合はないとポッチを抱えたまま ロノアロは倉庫の屋根へと跳躍する。そして、《アヴェクス》最奥の色町通りを目指し、家屋の上を風の如く駆け抜けて行ったのだった。

【月紀 8000年 4月の手記より】

 血族内の人間としか触れ合わないのは 情操の発達によろしくない。特にラクガンは、産後の猫のように 他人にヤツハシを触らせようともしない。説得は無理そうなので、適当に年の近い俺の子を連れてくることにした。

 何人かと引き合わせてみたが、一番聡く見栄えも良いペッディポロが気に入ったようで、しきりに機械獣制作室に誘っていた。

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