表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/28

25.ツミ ト バツ

 最終話は初期の3エピソード分のボリュームでお届けします!

 この試験場広間に忍び込む前に、予め上階の案内表示盤ガイドディスプレイでおおよその部屋の配置を確認してきたのだと、サナは言っていた。その際 広間奥に昇降機が、更には制御室コントロールルームが存在することも突き止めていたらしい。

 《ホカンコ》や《チカコーバ》よりも室内の空間に余裕があり、天空遺跡の中では珍しく 居住区域らしきものも見つかった。施設の性質上、泊まり込む必要もあったのだろうと推測される。

 サナが連れてきた【隠密医療班】にダイフクの処置を任せている間、ポッチはアイやプリンと《シケンバ》の後始末をして過ごしていた。


「ぽっちん、のりんご みつけた! むいて」

「カニとテティス号の片付けが終わってからな」

「もう、プリンさん! 貴方も遊んでばかりいないで お手伝いなさい!」

「はーい」


 あれからロノアロも戻って来る気配はない。全ての発端は、自分がロノアロに情けをかけてしまったことだった。つくづく 他人を疑えない自分が厭になる。

 選別は【厨房班】のプロに任せることにして、【モグリオオガザミ】の配達をダイフクに代わってデメテルに頼んだ。カシオペアと比べてあまりダイフクに懐いていないように感じていたが、呼んでもいないのに《シケンバ》付近をうろついていたところを見ると、主人に全くの無関心というわけでもなさそうだ。


「……心配するな。お前の主人は ちゃんと連れて帰るから」


 ポッチがデメテルの眼柄の間を撫でると、触るなとばかりに小さい方の鋏で払い除け、そのまま吹き飛ぶような勢いで走り去ってしまった。


「ポッチ様……あの方角にあるのは、《ウォシュオ》ではなくて?」

「僕に地理を訊くな」


 ひと通りの片付けが済んだ事を制御室のサナに報告する。【隠密医療班】の仕事も終わり、ダイフクの容態について説明をくれた後で 彼らも引き上げていった。「あんたたちも、今日はもう休みな」とのサナの指示で、《シケンバ》内にて 一時解散となった。


「今はもう よく寝てるだけだから、夜はポッチンが ダイフクちゃんの傍に付いていてやって」

「ならばワタクシは ポッチ様のお傍に密着していますわ!」

「ぽっちん、のりんご むいてー」

「あんたたちはあたしと来なさい! ポッチンとイチャつくなら《アヴェクス》帰ってから 良い部屋 貸すから」


 口では不満を言いつつも、素直にアイもプリンもサナについて行く。進行方向からすると、テティス号の配置されていた方の休憩所で 今夜は休むつもりだろう。多少の申し訳なさも感じながら、宿直部屋に入る。


「本当に自然に抜ける毒なんだな……普通に熟睡してる」


 サナの言う通り 何事もなかったような顔で眠り込んでいるダイフクを確認してから、メモ書きが貼り付けられた室内灯の電源スイッチを切る。

〈ランタンは【隠密医療班】に借りたものだから 返却を忘れずに〉

 部屋の明かりが消えると、残されたランタンの光が柔らかく浮かび上がった。懐中時計の表示は、まだ寝るには早い時間だ。【ノリンゴ】でも剝いて時間を潰そう。


**


 天井に近い高い位置に細く嵌め込まれた、明かり採りの窓穴から濃い青色が見える。ここ数日 気を張っていたせいもあり、大分 寝過ごしてしまったようだ。

 制御室よりかは 人間味を感じる色調の室内を見回す。入室した記憶はなく、まだ自分でも確認していない部屋だ。

 体を起こすと、すぐ隣から「おはよう、ダイフク」と聞き慣れた声がした。


「どうだ、体調は変わりないか?」

「……ポッチ。おはよう、でいいの?」

「時間としては おはんにちは、かな。朝より昼のが近い」

「ここ、どこ?」


 床板と呼ぶには柔らかさと保温性があり、寝心地も良い。寝台のように小上がりになっていて、その縁にポッチは腰掛けていた。


「《シケンバ》の制御室奥の、宿直部屋みたいな場所だ。会長が呼んだ【隠密医療班】に運んでもらった」

「あー、あの新規班ね。俺も ついこないだ知らされた」


 宿酒場の自室でサナに渡された書き置きで、ダイフクもその存在を初めて知った。

 《討伐者》の都外での救急要請に特化した【隠密医療班】を設けた事、手遅れとなった場合の処置や手続きは《アヴェクス》都立 祭祀葬儀館で請け負ってもらえるようになった事、それにより【遭難者救助班】は廃止する事。

 ダイフクに何の相談もなく、既に決定事項となった後で告げられた。


「【新規機械獣 観測班】も、【機械獣 調査解析部】として《討伐者》側で部門分けする方向らしいよ。ポッチはまだ【天空の民 対策班】に所属できてるけど、俺の肩書きは 何も無くなっちゃう」


 俯き 目を閉じ、滲み出そうになる感情を押さえつける。決意はとうに固めていたはずだ。何を迷うことがある。


「だから実質、俺の班からも解雇になるって言ったんだよ」


 その時点で苛ついていたこともあり 強く当たってしまったのは、良くなかったと反省している。今のうちに謝っておこう。


「気分で解雇クビにしたような言い方してごめん。あれは 俺が悪かった」

「……そうじゃない」


 ポッチの膝の上に握られた拳が震えている。よくよく見れば、白い肌に真新しい切り傷痕がいくつも残っていた。癒術が間に合っていないものもある。

 拳の傷に気を取られ、顔を上げるまで ポッチの表情に気付かなかった。


「初めから ちゃんとそれを言え!! 照れ隠しだか 察して欲しいんだか知らないが、言ってくれなければ分からないだろ!?」


 怒っている。

 危険なことや不道徳なことをしてしまった時の、育ての父やファズみたいに。

 自分ひとりで抱えていくのは、やってはいけないことだったのか。


「会長にも何らかの考えがあるだろうから、それも聞き出しておかないとな。……まったく、うちのツートップは優秀な分、部下を頼らないから困る」


 これ見よがしに大きな溜め息を吐いてみせる。横目でダイフクの様子を一瞥した後で、ポッチはいつも通りの穏やかな微笑を浮かべた。


「それはそれとして。栽培試験室とかいうのがあったみたいでな、プリンが【ノリンゴ】たくさん見つけてきたんだ。ダイフクが寝てる間に 全部 剝いたんだが、食べるか?」

「全部? なんでそんなに剝いたの?」

「もともとはプリンが“むいて”って持ってきたものだから」


 ダイフクから死角になっていたポッチの陰に、皮を剝いただけの【ノリンゴ】が積み上がっている。……否、皮を剝いただけではない。


「なんか その【ノリンゴ】、みんな血ィ出てない?」

「果物から血が出るわけないだろ。僕の血だから大丈夫だ」

「大丈夫って何がだよ!?」


 やったこともないくせに、頼まれ事だと張り切って【ノリンゴ】剝きに挑戦したに違いない。果肉はごっそり削れているわ、途中で指を何度も切って 血が染みているわと酷い有り様だ。一個二個で諦めてくれれば、ポッチよりずっと器用な自分が 残りは剝いてやったものを。


「……ポッチもひとりじゃ、ダメなんだな」


 思い返せば、何でも識っている何でも出来るみたいな顔をして、自分とは別のベクトルで ポッチは世間知らずだ。五年前のあの日に ダイフクが見つけてやらなかったら、とっくの昔に されこうべに仕上がっていただろう。


「当たり前だ! それなのに、“もう来なくていい”とか 何のつもりだったんだ」


 自分ほど根には持たない性分であるにも関わらず、まだ そこは怒っているらしい。言葉にするのは悔しいが、口にしなければ 納得はしてくれまい。


「それはその……ポッチ、あの節操ナシには すぐさま癒術かけてたくせに、俺に対しては安否確認すらしなかっただろ」


 「あ」ロノアロごときにダイフクをどうこう出来る訳がないという、ポッチからすれば絶対的な信頼が かえってダイフク本人の機嫌を損ねてしまっていたようだ。


「そうか、そういうことだったのか。ダイフクも人間相手に嫉妬できるんだな!」

「違、何ソレ、そんなんじゃないし」

「悪くないと思うぞ。そういうのは もっと前面に出してこい」


 満足気にニヤつくポッチに、今は何を言っても無駄だろう。取り敢えず、手の届く場所に置かれていたランタンを投げつけてやった。

 ものの見事に顔面で受け止め、しばしポッチは痛みに顔を押さえていた。


「そうやって調子に乗るから、サナさんにも目ぇ付けられるんだよ」


 簡単な癒術で手当てを終えるなり こちらに向いたポッチは、いつになく真剣な表情だった。


「その程度 構うものか。誰が敵に回ろうと、ずっと味方だと言っただろう。それなのに 突っぱねてきたのは、そっちじゃないか!」


 ついさっき投げつけられ、床に転がったランタンを拾い上げる。直後、ポッチは手にしたそれを ダイフクの顔面にぶつけ返してきた。


「痛ってぇぇ……こっち、病み上がりみたいなモンなんだけど!?」

「先にぶつけてきたのはそっちだろ!? そのランタン、借り物なんだぞ!」

「だったら投げ返してくるんじゃないよ!!」

「ダイフクが投げつけてきた時点で 弁償が確定したからな!!」


 寝坊助共もさすがに起き出した頃だろうと サナが《シケンバ》制御室まで様子を見に来てみれば、扉を開ける前から騒ぎが聞こえる。

 和やかな談笑ではないと、見るまでもなく予想はついていたが、


「真っ昼間から激しいねぇ……どっちが受けよ?」

「……そっち!! (✕2)」


 案の定、現場は野良猫の喧嘩後のような荒れっぷりだった。掴み合ったまま互いを指差すポッチとダイフクに、サナからも乾いた笑いしか出ない。


「仲直りしているかと思いきや、なんで取っ組み合いの喧嘩に発展してんのよ」

「ダイフクが 借り物のランタン 投げてきました」

「先にからかってきたのはポッチだよ」

「年齢一桁の男児か、あんたらは」


 とはいえ、呼び合う名の形で いつもの状態に戻っていることは窺える。今後の空気がこれより悪くなることはないだろう。


「ま、ダイフクちゃんも調子戻ったみたいで安心したよ。今すぐ《アヴェクス》帰られると、ちょっと厄介ではあるけど」

「サナさんが 面倒臭い流れにしてくれるから」


 む、と面白くなさそうに サナが口をへの字に曲げる。ポッチの隣から立ち上がり、ダイフクは自分が掛けていた場所をサナに譲った。


「巻き込んだんだから、サナさんもちゃんとポッチに説明して」


 俯き、サナはそっと自分の腹を撫でる。呟くように、ぽつりぽつりと話し出した。


「そうね……そろそろポッチンにも言っていいか。ここにね、赤ちゃんがいるの」

「っほああっ!?」


 驚愕のあまり 自ら吹っ飛んでいくポッチに、サナの神妙さが消える。良い反応だと言わんばかりに 声を上げて笑っていた。


「《カックラス》の首領ボスは、跡取りもご所望みたいでね。早いうちに用意させてもらったワケよ」

「早いうちにって、誰の子どもを……」

「悪いけど、ポッチンには教えないよ。愛も合意も無くたって、やることやれば デキるものなんだから。そもそもあたし、今にも死にそうな大富豪としか結婚しない主義だし」


 ダイフクが理解していると言った サナの主義とは、この事だったのか。うかがうつもりでダイフクの方を見れば、何も言うつもりはないと書かれた背中を向けていた。ロノアロの前で口にしなかったのも、()()()()()()なのだろう。


「今の《アヴェクス》に害になる組織を潰すには、一番穏やかな遣り方さ。ダイフクちゃんの肩書きも取り上げておけば、しばらく不在にしておいても《討伐者協会》の方はちゃんと回せる」

「ファズさんが心配しますよ?」

「面白いから、ファズには内緒にしておこうぜぃ」

「会長には 人の心 ないんですか!?」

「サナさんには そんなモノないよ。名誉天空の民だから」


 ダイフクの皮肉がツボに入ったらしく、腹を抱えてサナは大笑いしていた。ひとしきり笑い、目尻を拭いながら ポッチに向き直る。


「そんなに長期間、ダイフクちゃんを放っぽり出しておくつもりはないよ。ついでだから、外回りの用事でも片付けといてもらおうかと。……帰ってきたら、《討伐者協会》会長職を譲るつもりでいるから」


 他の二人はどんなつもりであったか知らないが、サナの中では《討伐者協会》を立ち上げた当初から決めていた事だった。


「あたしには《アンミツグループ》もあるし、本当ならダイフクちゃんが最初から会長やってくれれば良かったんだけどね。とはいえ当時は、後ろ盾もない余所者の 可愛い泣き虫チビちゃんだったから 頼りなくて」

「今でも可愛いところはありますよ」

「ゴメン、そこはあたしも否定しないわ」

「おいポッチ! 変なチャチャ入れるなよ!!」


 「やっとこっち向いた」頬を紅潮させて振り返ったダイフクに、サナだけでなくポッチまで 意地悪く口の端を吊り上げている。が、ポッチの方は慣れないために、すぐ 表情から黒さは消えた。


「だけど会長。ダイフクは《討伐者協会》のトップはやりたくないって言ってましたよ。会長だって、ダイフクに『流れのマタギ』になってもいいと言ってたじゃありませんか」


 ふふ、と不敵に笑みを漏らし、サナは我が子のいる辺りに軽く触れた。


「一生をかけてやれ、なんて言わないよ。次の次期会長候補もここに居る。寿命の長い堕天の民なら、役目を果たしてから『流れのマタギ』として 旅する時間もあるでしょうよ」


 腕を組み、視線を斜め下に逸らしながら、唇を尖らせ気味にダイフクも言う。


「まあ、その……次の次期会長候補のためにも、ポッチは長生きしてやってよ。ポッチが《アヴェクス》に居る間は、俺も真面目に会長 務めるからさ」


 会長業務の補佐として――サナの真意はここにあったのか。


「承知した。三百年くらい生きれば良いかな」

「……ポッチン、人間 辞めるつもり?」

「多分そう。フリソデエビになりたいって、ずっと言ってたし」

「だからそれは、どの時空の僕が言ったんだよ!?」

「あ、ごめんよ。今はイセエビになりたいんだっけ?」

「謝るとこ、そこか!?」


 ポッチとダイフクのやり取りを面白そうに眺めていたサナだったが、ふと目に入った時計の盤面で真顔に戻る。


「やべ、もうこんな時間か。……えっと、ダイフクちゃんにはコレ。《アヴェクス》戻る前に回ってきて欲しい 集落のリスト。首長の押印サインも忘れないでね」

「了解。急がなくてもいいね?」

「大丈夫。できることなら駆車カケグルマの利用は控えて」

「デメテルいるから もともと使うつもりない。……どこ行ってるのかな」


 《ウォシュオ》方面に向かった直後とは、少々言いづらいポッチであった。


**


「ぽっちんのむいた のりんご、んまい! ぽっちんが しみてて んまい!!」

「ポッチ様 手ずから剝かれた【ノリンゴ】、生きたポッ血の香りが 実に背徳的で味わい深いですわ……ぐふふふ」

「アイちゃんもプリンちゃんも、ポッチンの愛情 たっぷりお食べ」

「会長は食べないんですか?」

「そんな血に塗れた【ノリンゴ】いらんわ」


 折角(物理的に)身を削って剝いたというのに、ダイフクにもサナにも手を付けてもらえなかった【ノリンゴ】たちは、無事にアイとプリンが消費してくれた。感想がいささか怖いが、美味そうに食べている姿を見ると 文句は言えない。

 デメテルと合流すべく 先に《シケンバ》を出たダイフクを見送り、アイとプリンが昼食を用意していた 上階手前の休憩所に向かった。サナが持ち込んだ携帯食を広げただけだが、普段 見かけることのない高級缶詰ばかりで、ポッチの気分もじわじわと上がっていく。


「あたしたちは こんなのいつも食べてるし、アイちゃんとプリンちゃんはポッ血ンノリンゴに夢中だし、ポッチンの好きなの、好きなだけ食べていいよ」

「本当ですか!? パインオーロクスみぞれ煮、エスカルゴドブルトーニュ、むしうにキタムラサキ……すみません、知らないものばかりで どれが好きか判りません!」

「ぜんぶ あけちゃえー!」


 厚意に甘えてひと口ずつ、と《地泉杜》に暮らしていた時のような食べ方をしていると、一周した辺りで 硬いサナの声に名前を呼ばれた。


「何でしょう、会長」

「食事中に仕事の話で悪いけどさ。ポッチンだけ先に《アヴェクス》戻ってもらっていいかな。あたしたちは送迎 頼んであるんだけど、急ぎの用事が一つだけあって」


 二つ返事で了承しようとして、ポッチは踏み留まる。理由に勘付いたサナが、徐ろに《シケンバ》上階入り口を指差した。


「グライダーなら ダイフクちゃんが持ってきてくれてあるよ。入り口のカブトガニ、ポッチンのでしょ? 真っ直ぐ南に進んでいけば《アヴェクス》見えてくるから」

「真っ直ぐ南……」

「ワタクシの方位磁針を差し上げますわ」


 ポッチの手を取り、アイが胸に留めていたブローチをのせてきた。装飾品だとばかり思っていたが、蓋を開くと 中から小さな羅針盤が現れた。


「あい、ずるい! うちもあげる!」

「いや、そんな いくつも貰っても……」

「ちがうよ、おまもり! まいご ならないように」


 自分の首にかけていた木彫りの首飾りを、プリンもポッチの首にかけ直す。


「……ワリディエ、イズゥオ」


 小さく唱えられたプリンの言霊の意味は、彼女にしか解らない。


「ふたりとも、ありがとう。これなら迷わず《アヴェクス》に帰れる」


 頬を赤らめ 嬉しそうに、ただ可愛らしい娘たちは はにかむ。


「ほら、ポッチン! こういうときは抱き締めてチューするのが礼儀だよ」

「ええ、いや……それは 僕のところの作法ではないので……」


 冷やかすサナへの返答に、アイは露骨に プリンは控えめに不服を顔に出す。それでもポッチには、知らない礼儀を実行するほどの勇気はなかった。


「んふふ、それでこそ ワタクシのポッチ様ですわ」


 やけに聞き分け良く引き下がると、アイはサナへと目線を戻した。


「それじゃ、急ぎの用事についてね。……《アヴェクス》に着いたら ロノちゃんを探し出して、『シルク・スパイダア』に戻ってくるよう説得して」


 背筋が冷たくなるほどに真剣な眼差しで、サナはポッチを射抜いてくる。


「あんたにしか頼めない仕事だ。任せたよ」


 唾を飲み込み、「はい」と頷く。

 さらにいくつかの注意事項を受けたのち、《シケンバ》の入り口でずっと待っていたエウテルペ号と共に《アヴェクス》への帰路を辿った。


**


 陰の民ひとりの気持ちが浮こうと沈もうと、《アヴェクス》の都は変わらず日常を保つ。事件もなく祭日でもない、それぞれの仕事をこなすだけの人々が 都の中を行き交っている。

 サナに教わった《カックラス》の事務所までの道程と目印を、手持ちの帳面に逐一 書き留めつつ、慎重に進んでいく。ポッチの方から声を掛けなくても、掃き溜めに似合わぬ美貌に興味を惹かれた住民が寄ってくる。長身で鮮やかな緑基本の体色をした、カメレオン系の雨の民の少年について尋ねて回るのは そう苦ではなかった。ただ、目撃情報はいくらでも出てくるのに、当のロノアロ本人の姿は見つからないまま、一日も後半に差し掛かっていた。


「そこのおにーちゃん! おにーちゃんだよね? さっきからずっと この辺うろついてるけど どーした? 迷子ちゃんか?」


 さすがに《カックラス》の事務所を訪ねるほどの度胸はなく、建物の所在地だけ確認して 踵を返した その時だった。

 振り返ると ロノアロとはまた違った部族の、眼鏡をかけたカイマン系の雨の民が こちらに向かってくるところだった。


「いえ、人を探してまして……通常色が新緑のカメレオン系の雨の民で、背が高くてたしか十七歳の少年なんですが……」

「ああ、知ってる知ってる! 今、そこの店に入ってったよぉ」


 「そこの店……?」眼鏡カイマンの男が指さす先にある店の前は 先刻 通った。そこから出てきた女性二人組には「見てない」と返されたばかりだ。


「まあ、一人じゃ入りづれぇだろうから、一緒に入ろうや。なぁ?」

「え、え、ちょ、待って下さい! そこって 何の店なんですか??」


 営業中の看板は出ているものの、窓もなく中の様子は窺えない。それなのにポッチの問いには答えようともせず、眼鏡カイマン男は強引に腰に手を回してくる。ここまできて、ようやくポッチにも その意味が理解できた。

 大慌てで眼鏡カイマン男の腕を振り払うと、予想していたよりも軽く外れる。それどころか、空気の抜けるような呻き声を上げて倒れてしまった。


「臭ェとっつぁんが、汚ェ手で人様のツレに触ってんじゃねぇよ」


 眼鏡カイマン男の喉元に突き立っている投げ矢ダーツは、聞き覚えのある声の主が放ったものらしい。はっと我に返り、癒術の印を組んでしゃがみ込むと、ポッチが術を施すより前に 腕を掴まれ引っ立たされた。


「探してたのはオレだろ? 放っとけよ」

「ロノアロ」

「んじゃあ早速、二人で入店しやすか!」

「待って待って待って! だから何の店だか 知らないんだって」

「特殊なマッサージ付きの風呂屋だよ。オレと入りたくて来たんじゃねぇの?」

「そんなワケあるか!! もういやだ、こんな所 長居したくない!」


 倒れたままの眼鏡カイマン男を放置することに罪悪感は残る。しかしこの場所では その程度など日常茶飯事であり、下手な情けは仇を生むだけだと ロノアロは言った。

 早くその場を離れたいとの意見を尊重し、《アヴェクス》外れの人けのない廃材置き場まで ロノアロはポッチを連れてきた。

 用事があると訪ねてきたのはポッチだが、先に口を開いたのはロノアロの方だった。


「……しぶてぇ野郎だぜ。オレが無能みてぇじゃんかよ」


 一言目は、独り言だったのかもしれない。使い途もなく転がされているH鋼のフランジに腰掛け、困惑するポッチを上目にロノアロは見つめてきた。


「仕留め損ねちまったみてぇだな、アンタの相方」

「ほあ!? な、何の話……なん何の話を、してるのかな……?」

「本っ当、分かりやすいのな。仕留め損ねたどころか、ピンピンしてんだろ? あの堕天の野郎。仲直りもできて ご機嫌ちゃんじゃねぇか」


 ちょっと突き放されたくらいであんなに落ち込んでいたというのに、今のポッチはかえって気力に満ちている。ダイフクに何かあったなら、こんな吹っ切れた表情でロノアロに会いに来るはずがない。それどころか出会い頭に呪術撃の一つも放ってきたことだろう。


「まだ黙っておいてやるから、隠さなくていいぜ。その話 しに来たワケじゃねぇんだろ。用件はなんだ?」


 訊き返され、本来の用事を思い出す。裏のない無邪気な笑みを浮かべ、ポッチはサナからの頼まれごとを口にした。


「会長が、ロノアロに戻って来て欲しいと言っていたんだ。『シルク・スパイダア』に帰ってくる気はないか?」


 ――今度こそ、《カックラス》を裏切れと?


 ポッチの気付かないサナの言葉の意味に、ロノアロの顔色が変わる。青褪め、徐々に激しい赤橙色が広がっていく。

 「――そうだな」表情なく立ち上がり、一時は失った【影斬刀】を抜く。その切っ先は、正面にポッチを捉えた「アンタにオレが斬れたら、考えてやる」。


「どうして、そんなことを……?」


 誰が見ても善意に満ち、慈悲の眼差しを返してくる。異形の陰の民まざりものでありながら、触れがたき美貌は 女神さえ心奪われた。その姿に相応しい場所に産まれ、何処へ行っても安らかな地位を与えられ、笑顔さえ浮かべていれば 温かく手を差し伸べてもらえる。生まれながらに、何もかも手にしていた者。


「……出会った瞬間から、アンタの事が 大嫌いだった」


 相手が構えを取るのも待たず、向けた刀を振りかざす。


「アンタは、生ゴミが食えること、知らねぇだろ」


 黒い刃は空を切る。いい加減な斬撃では、ポッチは簡単に躱してしまうことなど知っている。呪術を使われたら、いつでもこちらは不利になる。


「道端に座ってるだけで、動けなくなるまで蹴っ飛ばされたこと、ねぇだろ。泣き泣き稼いできた金を、“人助け”のひと言で 毟り取られたこともねぇだろ」


 唇を噛み締め、遂にポッチも【黒印刀】を抜く。激しく襲いかかる【影斬刀】の斬撃を舞うように躱し、ときには受け流し、幾度かは食らう。

 鍔で迫り合ったかと思えば、甲高い金属音が響き渡る。ぶつかり合う影に 血飛沫が 散った。


「ただそこに居るだけで、人間どころか女神サマにまで愛されてよ。そんな奴が、何一つ持ってねぇオレから、ようやく手に入れたモンを 奪おうだって?」


 肩口と脇腹を斬られてからポッチの動きが鈍り、躱すどころか小太刀で防ぐのが精一杯だ。じわりと滲み出す血が熱い。


自分てめぇで勝ち取った居場所がどれほど大事なモンか、お人形ちゃんは知らねぇだろ!!」

「……それだけは、知ってる」


 吐息と紛うような呟きに、ロノアロの意識が逸れる。圧の緩んだその瞬間を見逃さず、ポッチは【黒印刀】で大きく弾き上げた。


「しまった……!!」


 ほんの一瞬の隙に、ロノアロの手から【影斬刀】が跳ね飛ばされた。

 くるくる弧を描き、はるか後方に切っ先が突き立つ。


「これで、考えては、くれるんだな……?」


 ポッチの握る小太刀は、軽くロノアロの肩の上に触れている。

 これだけ痛めつけてやっても、まだ そんな穏やかな眼で 見てくれるというのか。


「斬れてねぇじゃねぇか!」


 ぐっしょりと血糊の張り付くポッチの脇腹に、ひと思いに蹴りを叩き込んだ。


「ぁぐあっ!!」


 たまらず 苦悶の声とともに倒れた弾みで【黒印刀】は投げ出される。焦って伸ばされた手を踏みつけ、懐に忍ばせていた【影刃】を その白い喉に押し当てた。


「これで解っただろ、オレはアンタの仲間じゃねぇ。《アンミツグループ》の姐さんの手下でもねぇ、《カックラスファミリー》のロノアロだ」

「それでも、一度 顔を出すくらいは……!」


 突きつけられていた短刀の切っ先が、ポッチの喉に赤く線を引く。決して深い傷ではないが、鮮血の筋はくっきりと浮かび上がった。


「次に同じようなこと言ってきやがったら、その首 落とすからな」


 ぴっと血糊を振り払い、ロノアロはポッチに背を向ける。再びポッチがその名を呼んでも、反応すら見せずに【影斬刀】を回収していく。


「……アンタなんか、大嫌いだ。余計な気持ちを、教えてくれやがって」


 一緒に過ごして楽しい誰かが存在するなんて、知りたくなんかなかったのに。




 あれから『シルク・スパイダア』に戻り、ロノアロの説得が失敗に終わったことを報告した。サナはポッチを責めることなく、想定通りといった顔をしていた。


「ロノちゃんはああ見えて忠義者だからね。ポッチンに言ってもらうことに意味があったんだ。労災は降りるから、申請 忘れずにね」

「どこに掛け合えば良いですか?」

「労災は《アンミツグループ》の方でよろしく。……あーそれからもう一つ。次から『シルク・スパイダアココ』に来るときは、正面口から お金 払って入ってね」


 サナ直属の関係者ではなくなり、今後は純粋に客として扱うと言っている。

 元通りではないにしろ、限りなく元の日常に近い日々が、数日後には帰ってくる。ポッチに出来るのは、信じて その日を待つことだけだ。


**


 《討伐者協会》会長の引継交代より、二年ほど月日が流れた。

 組織内での大幅な運営改革があり、それにより個々の業務の効率化と外部企業との提携が大きく前進した。職員の労働環境も 登録している《討伐者》の依頼達成率も改善し、《討伐者協会》発足当初より目標としている 巨人兵器《アーカディウス》の討伐も着々と進んでいる。

 そしてこの日、今期に入って二基目の《アーカディウス》討伐の報が入った。成し遂げたのは ちょうど半年前にパーティを結成したばかりの新進気鋭の四人組で、明日の晩にも 公認宿酒場『ファズおじさんのおうち』へ帰還するとのことだ。

 こんにちまでに建物は改装増築され、依頼受付カウンター奥の ダイフクの部屋があった場所は 従業員用多目的広間になっている。一昨日【機械獣 調査解析部】の会議に使われていたため、長机と椅子が並んだままだ。


「ポッチ、パチャ君! 急いで長机と椅子 片付けて!! 危ないものと貴重品、全撤去!! 全面にクッションフロア敷いて!!」

「了解!」「ただ今ぁ!!」


 現《討伐者協会》会長 ダイフクの指示のもと、会長補佐官のポッチと【外交連絡班】の若者が怒涛の勢いで 多目的広間内を片付けていく。大した間も置かず、寝転べるくらいにくつろげそうな空間へと変わる。


「よし! サナさん、もうモナカ 入れてもいいよー! ……あれ? いない」


 来客のために用意した場所であるのに、ダイフクが従業員用通路に顔を出しても 人影ひとつなかった。


「おう、よく来たな モナカ! どれ、ジイジとケーキ焼くかぁ?」

「けーきぃ!!」


 以前より大きくなった厨房から、珍しく弾んだファズの声が聞こえる。


「甘いヤツはやめてよ、野菜のケーキにして」

「うるせぇ、甘くなけりゃ 美味くねぇだろがよ。なぁ、モナカ?」


 来客は母子ともども厨房に行ってしまったようだ。「せっかく大急ぎで部屋 空けたのに」と眉間を揉みほぐしながら、ダイフクは部屋を出ていく。


「パチャもご苦労だった。サナさんたちの用事が済むまで、酒場で一服してくるといい」


 肉付きの良い 嵐の民ノネコ部族の若者は ポッチにペコリと一礼し、受付カウンター側のドアから出ていった。「ポッチ、来ないの?」と戻って覗き込むダイフクに「今 行く」と返し、ポッチも厨房の様子を見に 後を追う。

 昼食と夕食の間、落ち着いた時間帯の厨房では、ファズがオーブン窯の前で 陰の民の幼子を抱いてあやしている姿を見つけられた。


「ファズさん、厨房は危ないから、モナカ 向こうの部屋に連れてくよ」

「抱っこして見てるから大丈夫だよ。見ろ、膨らんできたぞぉ」

「他の人の邪魔になってるだろ! モナカ おいで。ヤドカリさんで遊ぼう」

「やどかりしゃん、あすぶ!」


 ダイフクの説得に、ファズより先にモナカが折れた。降りようと手足をジタバタさせるモナカをサナに預け、しょんぼりとファズは肩を落とす。


「……もうちっと大きくなったら、最後まで一緒に作ろうなぁ……」


 「他所の子なのに すっかりジジ馬鹿だよ」と苦笑するサナに、勢い込んで「レイナちゃんの孫は俺の孫だ!」と 意味の分からない反論を ファズは繰り出していた。

 従業員用通路に出てから 抱いていたモナカを降ろし、「今期、二基目 討伐できたみたいね」と サナはポッチに訊いてきた。


「ええ、お陰様で。明日の夜に祝勝会やるそうです。サナさんは来られますか?」

「泊まれるなら、顔は出したいな。モナカ 連れて来ないと ファズが悲しい顔するから」

「分かりました、部屋の手配をしておきま……ぉぐあ!?」

「しっぽー! とっと、しっぽー!」


 ダイフクが見ているとばかり思っていたモナカが、大きな黒い瞳をキラキラさせて ポッチの尾羽根を引っ張っている。二歳児ながら 意外にも力強い。


「モナカ、ポッチの尾羽根 欲しいの? 待ってな……えいや」

「誰がいいって……痛ったぁ!!」


 遠慮も容赦もなくポッチの尾羽根を引っこ抜き、ダイフクはニコニコしながらそれをモナカに手渡す。幼子はきゃあきゃあはしゃいで喜んでいた。


「サナさんそっくりなのに、モナカは尻尾だけ無いからな」

「あたしのクローンだからね。前に生えちゃったのね、きっと」

「子どもの前で 下品な冗談を言うのはやめましょう」


 ポッチにたしなめられ、悪戯っぽく笑うサナとモナカは、尻尾の有無以外はそれこそクローンのように生き写しだ。外見に父親の要素は 何一つ見つからない。


「ヤドカリさん呼んでくるから、ここでいい子にしてろよ?」

「あい!」


 無事 多目的広間まで誘導完了し、その足でダイフクは受付カウンター側のドアから消えていく。ヤドカリ型使役機械獣のカシオペアを何度か呼ぶ声の後で 戻ってきた。


『モナカ君、よくいらっしゃいましたね。二号、三号、寿号、ご挨拶なさい! 未来のあなたたちの主人ダーリンですよ、粗相の無いように』

『よろしくお願いします! 我が主人マイダーリン! (✕3)』

「またカシオペアちゃん、増えてない……?」


 初代カシオペア号の色違いヤドカリ型機械獣に囲まれ、モナカはご満悦だ。前回 サナが連れてきた時より一機 多い気がするが、それについて ダイフクは何も言わない。

 モナカの相手をカシオペアたちに任せ、《討伐者協会》の近況や今後の経営目標などを三人でやり取りしていると、ふんわりと甘い香りが 従業員用通路の方から漂ってきた。


「モナカ〜! おいちおいちが焼けたぞ〜」


 駆け寄るモナカと共に カップケーキに手を伸ばすダイフクとサナを、ファズは満面の笑みで払い退ける。


「お前らに焼いたんじゃねぇ、全部 モナカのだ」

「こんなに食べられるわけないだろ」「限度ってモノ考えろよ」


 ぶうたれる大人どもに構わず 両手にカップケーキを掴み取ると、モナカはその片方をポッチに差し出した。


「あい! あい!」

「僕に? ありがとう、モナカは優しいな。誰に似たのかな」


 背後で したり顔に自分を指差している連中など、視界に入れる必要はない。


「……しかし、何だな。モナ坊が産まれた頃は ゴタゴタしててどうなることかと思ったが、変な揉め事に巻き込まれねぇで 元気に育ってくれて良かったよ」


 胡座の真ん中にモナカを乗せながら、しみじみとファズが呟く。


「こんな可愛い息子が産まれるっつぅのに《カックラス》の馬鹿親父は、若い女連れ込んでよろしくやってたんだって?」

「故人を悪く言うなって、いつも言ってるのはファズだろ」

「あん畜生は特例だ。うちのサナを嫁にもらっておきながら、新婚のうちから他所の女相手に腹上死とか、救いようがねぇよ」

「まったく、酷い話ですよ!」


 憤慨して相槌を打つポッチの横で、ダイフクはサナに視線を遣る。白々しく目線を背けるサナに、ファズが気付く様子もない。


「それが きっかけになって《カックラス》で内部抗争が始まったんだって? 共倒れのとばっちり食らう前に、見切りつけておいて良かったな、サナ」

「貰うモン貰ったら、あんな組織に用はないもの」


 当時、多くの死傷者が出たと報道されたが、彼らがどこの誰であったかなどの情報は伏せられた。報道機関に何者かが圧をかけ、いつしか報道されることも禁忌となった。サナはつまらなそうに鼻を鳴らす。


「そういや 話 変わるけど、サナんトコの堕天の嬢ちゃん、最近 弁当取りに来ねぇな」

「プリンちゃんのこと? ……ああ、うん。今、遠方の医療機関に預けてるの」

「ん? どっか具合 悪ィのか?」

「ほら、あの娘 頭痛持ちでしょ。それの治療に」

「ああ、それで! ……早く良くなるといいんですが」


 何も知らずに微笑むポッチを覗き込んでから、ダイフクはそっぽを向いて 小さく息を吐く。


「向こうでいい人 できたらしいよ。《アヴェクス》に戻ってくることは ないだろうね」

「そうなのか!? まあ、それならそれで 良いんだけどな」

「……ポッチンて、ダイフクちゃんの言葉なら 何でも信じるんだ」


 サナの口元は笑いながらも、目は隠し事に伏せていた。サナの周りの世界の話は、モナカに関するもの以外、何もポッチには聞かせるなと ダイフクに念を押されている。もう二度と、そちら側に踏み入ることは ないのだからと。


「さて。明日 泊まりに来るなら、今日は長居しない方がいいんじゃない? モナカが食べ終わったら 送っていくよ」

「そうね。ファズ、モナカが残した分 包んでくれる?」

「おう。……モナカのだからな?」


 「はいはい」とサナは言いつけを守る気のない返事をしながら モナカを抱き上げる。ダイフクもカシオペアたちに「戻っていいよ」と指示を出した。


「それじゃあモナカ、また明日。しっかり食べて よく寝るんだぞ」


 ポッチに頭を撫でられ、嬉しそうにモナカは「あい!」と 小さな手を挙げて答えてくれた。



 滅びの定めを覆すため、明日もその次も、脅威がなくなるその日まで《討伐者》を送り出す。彼らを支え、その力を存分に奮えるよう 陰で立ち回ることが《討伐者協会》の役割だ。

 たとえ 表舞台にその名を残すことがなくとも、彼らは確かに存在している。


 なぜなら、偉業を成した英雄たちは 皆、そこへ帰っていくから。

 滅びを滅ぼす都――《討伐者》の故郷《アヴェクス》へと。

 《アヴェクス》でのポッチの物語は、ここでおしまいです。

最後まで彼とともに歩み、結末を見届けてくださってありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ