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9.仄暗い地(ツチ)の底から

※《討伐者》職業をより詳しくおさらいしたい場合は、前作『ようこそ、滅びを滅ぼす都へ』の『OP 空のまなざし』をご参照下さい。

 《討伐者》として登録手続きを終え《討伐者》講習を受ける際に配布される テキストにも載っているほど遭遇率の高い、オパビニア型機械獣は【偵察機獣・甲】と呼称されている。中堅《討伐者》にもなれば恐れる相手ではないが、【天空の民 対策班】としては初の 機械獣エンカウントだ。

 アイは《ハジキヤ》として、ポッチと同じく後衛から攻撃するため【銃剣】を構えている。プリンはメインとして《サキモリ》らしく【両手盾】を正面に構え防御に専念するつもりのようだ。プリンと並んで前衛に立つロノアロは《討伐者》でいうところの《カクレ》に相当する使い手だろうか。公共の場でもやたら抜刀していた気もするが、得物は変わらず両の手に【影斬刀】を握っている。


「……三人とも、対機械獣の実践経験は?」


 ガチガチとまではいかなくとも、多少の緊張が見て取れる。


「機械モノ相手はお初だが、つまらぬモノなら散々斬ってきたぜ」

「初めてですけれど、心配は御無用でしてよ」

「とりあえず、あたらないように がんばる」


 気後れしている様子もない。慣れてもらうためにも、()()()一体は 彼らに任せてしまおう。

 【偵察機獣・甲】の攻撃範囲は狭く、後衛が被弾することはまず無い。プリンとロノアロも座学か何かでそこは識っているだろう。プリンは立っているだけで役目を果たせるし、ロノアロとアイは攻撃に専念しさえすれば良い。

 先陣を切ったロノアロが【影斬刀】にて疾風の如き双撃を放つ。普段斬っているモノとの手応えの違いに、一瞬だけ戸惑いの表情が浮かんだ。しかし もとより相手に情は持たぬよう教え込まれていた暗殺者に、それ以上の失速はない。オパビニアの吻に当たる部位を早々に斬り落とされ、相手方の攻撃手段は失われた。

 プリンの盾の後ろから慎重に狙いを定め、アイもサナ直伝の【精密攻撃】を【銃剣】より撃ち放った。五つ並んだ目玉の間に射撃は巧く入り込み、十分に損傷を与えられたようだ。

 ポッチが何をする前に、呆気なくも【偵察機獣・甲】は活動を停止した。


「そら、どんなモンよ! 愛しい人」

「ワタクシにかかれば、当然の結果ですわ!」

「ほめてくれても よくってよ」

「プリンさん、それはワタクシの台詞でしてよ」


 なるほど、確かにサナの言っていた通り《討伐者》の初級依頼くらいなら 軽くこなせそうだ。戦闘面に限っては信頼しても良いだろう。

 「さて」ここからは、《討伐者》の中級依頼以上となる。


「ロノアロ、プリン、一旦 下がれ」


 元《討伐者》としての経験から、【偵察機獣】シリーズが単体で出る時は 高い確率で増援が来ると予測する。


「……ほらな。やっぱり来た」


 【偵察機獣・甲】が現れた地面の辺りから、続けて二体の機械獣が湧いてきた。今度は絶滅奇獣アノマロカリスを元にした形式の【MARO-0023】だ。遭遇例は多くはないが、中堅どころでも苦戦する相手と言われている。


「まって、うちが さがっちゃったら……」


 意図が分からず慌てるプリンとロノアロに構わず、ポッチは片膝を着いて地面に触れる。ひゅっと息を吸ってから、空いている左手を 対峙するアノマロカリス型機械獣たちに向けた。


「【呪いの雨】対象増加、追加呪効【錆付き】」


 陽炎のように、大気がぐわりと揺らめく。それらが治まった直後に。


「発動」


 晴れ渡った空から どす黒い雨がポッチの指し示した先に叩きつけられる。

 見る間に【MARO-0023】たちの機体は赤銅色に錆び腐り、粉々に崩れてしまった。


「んー、追加呪効はいらなかったかな」


 袴の裾を払い 何事もなかったかの顔で立ち上がるポッチに、化け物を見るかのような目が向けられる。期待通りの反応に したり顔を隠せない。


「どいつもこいつも 僕をダイフクの腰巾着みたいに言ってくるけど、実際のところは『懐刀』。優秀で強力な護衛だから、ダイフクは僕を手元に置いてるんだ。そこのところ 勘違いするなよ」


 ポッチの足下を指差し、プリンが何かアイに伝えている。それを受けたアイとロノアロで難しい顔を見合わせているが、もう機械獣は湧いてこないはずだ。


「どうした? もうそのまま進んでも大丈夫だぞ? 敵性物体の反応はないかああああああ!!」


 ポッチの進んだ数歩先に落とし罠があった。新米ハジキヤでも見つけられるくらいに分かり易い 簡素なものだ。


「今、“かぁー”って鳴いてたな」

「ないてた」

「良い声で鳴いてらしたわ」


 とはいえ、ポッチが消えた落とし罠は分かり易くも元通りにぴったりと閉ざされる。誰もが避けて通るだろう罠にかかる者は そういないと思われるのだが……。


「……なぁ、正式な出入り口探すのと この罠に落ちて内部に侵入すんの、どっちのが早ぇと思うよ?」


 流れ込んだ砂を払い、ロノアロは軽く落とし罠の蓋を拳で叩く。コンコンと音は響くが それで開いたりはしない。


「そもそも正式な出入り口の資料を持っているのはポッチ様だけでしてよ。聞くまでもありませんでしょう?」

「でも あかなくなっちゃったよ」


 ロノアロと一緒になって落とし罠を調べていたプリンが、罠の蓋に乗ってみても何の反応も示さない。ピョンピョン跳ねてみても びくともしない。


「何だコレ。落とし罠に見せかけて、侵入者を分断させる方の罠か?」


 それならば、あんな見え見えの仕掛け方はしないだろう。古代天空人の意図が全く読めない。


「とりあえず、こわす?」


 考えることに飽いて プリンは足元に向けて【散弾斧】を振りかぶっている。


「ばっ!! 壊していいとか、姐さんに許可もらってねぇだろ!?」

「事後報告で十分ですわ」


 涼しい顔でアイも【衝撃罠】を取り出した。


「いや、何でアンタら そんな躊躇ねぇの?」

「“爆破せよ、さすれば道は開かれん”。聖書にも載っていましてよ? これだから、学のない下層民は」

「うちのとこの けーてんにもあったよ。“ばくはつこそ すべてのすくい”って」

「この世界には破壊神しかいねぇのかよ……」


 正気じゃねぇわ、と胸の内に呟きつつ 巻き込まれてはかなわないと距離を置く。遠巻きに眺めているロノアロを放って、まずはプリンが【散弾斧】を振るう。


「んんー? なんでだ?」


 ボコボコに凹みはしたが、それだけだ。替わって今度はアイが【衝撃罠】を仕掛ける。マニュアル通りに【銃剣】で撃って起動させた。重たい破裂音が一帯に響く。


「おかしいですわ、これでも駄目だなんて」


 爆破の衝撃は大きく、普通の扉であれば粉砕できているだろう。しかし 落とし罠の蓋は巨大なくぼみになっただけで、いまだ開く気配がない。

 資料はないが、自力で正式な出入り口を探すことにしよう。そう素直にロノアロが提案しかけたとき、落とし罠の蓋がガコガコと震え出した。


「……あれ? 動かない。お前たち、何かいじったか?」


 針金一本ほど細く開いた隙間から、困惑したポッチの声がする。


「正式な扉ではなかったけど、コレ、非常口みたいだぞ。開閉用のレバーがこちら側にあった」


 おそらくこれは 罠として仕掛けられていたわけではなく、先刻のポッチの呪術エネルギーにより通電したか何かで誤作動を起こし、たまたま 開閉してしまったと考えられる。


「どうするんだよ、破壊神崇拝者ども」

「ワタクシは悪くありませんわ!」

「つぎ、ろののばん。どうにかしろ」

「はァ!? マジふざけんなよ!!」


 自分が落ちてきた非常口の蓋の上が、なんだか揉めているようだ。薄暗くて良くは見えないが、蓋の形状がどことなく歪んでいる気がする。

 まさか、無理やり穴を空けようとしたのだろうか。遺跡の破壊行為は違法だというのに、まったく 何をしてくれているんだ。


「……奴らが 勝手にやった事にしておこう」


 そう、コレも奴らが 勝手にやったこと。ポッチがちょっと目を離していた間に。


「【万華の呪槍】、全力発動」


 非常口を隠していた蓋は、天高く 派手に吹っ飛んでいった。


「アイエエエ!? ナンデ? 爆発ナンデ??」

「やったぞ! ろのがぶっこわした!」

「見事な勇気爆発っぷりでしてよ、ロノさん」

「オレが何したって言うんだよ!!」


 遺跡の一部を破壊してしまったことについて、現場に居合わせなかったため ポッチはなんにも、知らない。


 多少 侵入に手古摺りはした。それでもこのくらいは許容範囲だ。

 非常口からつながる階段を降りていくと、壁の両サイドに黄色い灯りの並んだ広めの通路に出た。四人で広がって歩いても、まだ余裕がある。

 何処からか響いてくる重低音を頼りに、無人に見える地下施設を進む。


「ポッチ様、この《チカコーバ》では 何を重点的に調べるおつもり?」


 ただ見て回るだけでは観光と変わらない。サナの言い方から考えると――。


「この《地下製造工場》で何が造られているのか。造られているモノによっては、その製造を停止させる必要もあるだろうな」


 ――それと、この施設を動かしている者の正体。


 それらをポッチが口にした後で、歩いてきた通路が終わる。

 正面に現れたのは 長々とベルトコンベアが敷き詰められた、だだっ広い空間だった。誰のために点けてあるのか、作業灯が煌々と室内を照らしている。壁面の至る所に、古代天空語で〈ご安全に!〉との文字列が刻まれていた。〈品質第一〉や〈今月のスローガン〉などの文字列も見受けられたが、そちらはだいぶ劣化が進み 全てを読み解くことは難しそうだ。

 改めてベルトコンベアの上に目を向けると、それこそ玩具工場のように 何らかの部品パーツがゆっくりと流れていた。


「ああ、これ……ダイフクに見せたかったな……」


 そこにある光景に思わず口からこぼれてしまった。奇声を上げてはしゃぎ散らすダイフクの姿が目に浮かぶようだ。怪訝な顔で覗き込んでくるプリンに気づいて我に返り、ベルトコンベアの始点 もしくは終点を探す。


 「……うん?」探しているものは、この広い部屋のどこにもない。どちらも別の空間へと続く穴を潜って、部品パーツたちは次の部屋へと消えていく。


「調べるべき場所は二ヶ所ってコトだな。どうする? 二手に分かれるか? その場合、男と女で別行動になるけど」

「お待ちなさいな! どうしてロノさんがポッチ様と組む前提ですの?」

「運命だからに決まってんだろ。脳みそ入ってねぇのかよ」

「運命でしたらワタクシと組むのが 避けて通れぬ定めとなっておりましてよ」

「どっちもうんめいなら、あいとろのが くめばいいよ」

「うん、二手に分かれるのはアリだと思うが、組むならお前たち三人で組んでおけ」

「なんで!?(✕3)」


 ポッチとしては 純粋に機械獣が出てきた時の対処を考え 発言しただけなのに、また面倒な事になってしまった。


「ポッチ様を一人にしては、迷子になって合流に支障が出ますわ!」

「隣の部屋 調べるだけで迷ってたまるか」

「また罠にかかって、“かぁー”って鳴かされちまったら どうすんだよ!」

「鳴いてないし!」

「なんかたべたい」

「これだから育ち盛りは!!」


 それほど急ぎということもない。戦力は分散させずに 片方ずつ調べていけば良いだろう。そう結論を出し、さてどちらから調べようかとポッチは腕を組んだ。

 ポッチと同じことを考えてか、プリンもベルトコンベアの始点と終点を交互に見つめている。すると不意に「あ」と声を上げた。


「どうした、急に」

「でぐちのへや、なんかいるかも。うごいた」


 その言葉で、先に調べる部屋が決まる。

 まず踏み込むは、ベルトコンベアの終着点だ。

【月紀 8012年 3月の手記より】

 ペッディポロとジャレービーをアゲ門保研に推薦した。カガミの連中にはまだ早いと言われたが、ヨーガ氏族の受けは良かった。

 ヤツハシとも仲が良いし、ペッディポロは優秀だ。アゲ門にはコネを作っておきたい。

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