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9.先輩風を吹かせるギルメン

 翌日、リットーゲイルことクードヴァンは、フェリシアン隊長と共に冒険者ギルドへと向かった。

 冒険者街には様々な冒険者ギルドが軒を連ねているが、フェリシアンの所属している冒険者ギルドは、旅人の護衛や、農村の警護や、害獣の討伐と言った、農村部のクエストを専門の扱う場所なのだという。


 フェリシアン隊長が慣れた様子でドアを開くと、受付嬢のいるカウンターがまず目に留まり、続いて食堂になっている休憩スペースではCランク冒険者が大半だったが、中にはBランクの冒険者も混じっている。

「おっ……フェリシアンじゃねーか!」

「お前、ウラギルどもに襲われなかったか?」


 たまたま近くにいた2人組が話しかけてくると、フェリシアン隊長は苦笑しながら答えた。

「ああ、こっぴどくやられたよ」

「おまえ、よく無事だったな」

「危ないところだったけれど、彼に助けてもらってね……どうにか無事に戻って来ることができた」

 この2人は本当に心配していたらしく、心の底から喜んでいたようだが、フェリシアン隊長が入って来てから怪訝な顔をしていた男は、ゆっくりと立ち上がって近づいてきた。

「のけ、ジャリども!」


 フェリシアンの友人と思しき2人の冒険者は、怯えた様子で隅へと退いた。

 男が見下すような視線を向けると、フェリシアン自身も緊張した様子で見上げており、その表情を見た男は優越感を楽しめたのかバカにしたように笑っている。

「あのウラギルどもをぶっ潰すとは、少しは出来るようだな童貞?」

「は、はい……」


 そっと胸元を見ると、その男の階級はBランクの横に線が4本ほど入っていた。

 フェリシアンも同じBランクの使い手だが線は1本なので、同じBランクでも向こうの方が格上だということが理解できる。

 その男は僕を見ると、いけ好かなそうな表情をした。

「だけど、こんなケツの青そうなガキを連れてくるのは頂けねえ」

「いえ、そんなことは……」

 フェリシアンは慌てて弁解しようとしたが、その男は黙れと言いたそうに睨みつけた。

「女や強い男に相手にされないからって、こんなひ弱そうなのを彼女にでもするのか……童貞クン? 気持ち悪いんだよ!」


 何だか長くなりそうだと感じた、ざまぁ職人ことクードヴァンは、男の横を気づかないようにすり抜けていた。男はまだそのことに気が付いていないが、クーは冒険者ギルドのポスターや掲示物に目を通してみた。

 ふむ、強化合宿や合同演習など様々なイベントも行っているのか。とクーは思っていた。


 ようやく男はクードヴァンが移動していたことに気が付いたらしく、顔を真っ赤にして睨んできた。

「お、おいガキ……いつの間にそこに!?」

「もうお話は終わりましたか? 我が部隊の隊長はお忙しい方です。ご用件は手短にお願いします」

 このゲスコーンは丁寧な口調で挑発すると、男はますます顔を潮紅させて睨んできた。

「て、て、てめえ……お前のようなクソガキには、俺様がたっぷりと大人の世界の厳しさを教えてやる!」

「ま、待ってください……ヤ・ラーレさん!」


 カンカンカンカン……ボコッ!

「うぎゃあああああっ!」


 説明は、このカタカナだけで十分かもしれないが、同じ冒険者ギルドの先輩なので、そのよしみで何が起こったのかくらいは書いておこう。

 ざまぁ職人は華奢な人間の姿をしているが、実際にはかなり筋力があるため、森で拾ったような棒でも十分に戦えるのである。先ほどのやり取りは、大男の振り下ろしてきた木刀を4撃ほどいなしつつ、大地系の投射魔法でノックアウトさせた。

 その一部始終を見ていた受付嬢や周りの冒険たちは静まり返りながら、職人のことを眺めている。

「……行きましょうフェリシアン隊長」

「あ、ああ……!」


 このBランクの先輩風冒険者のヤラーレの実力は、6話に出てきた密猟者集団の最初に斬りかかってきた男と同程度といった感じだ。モブ冒険者の中では比較的強いが、ざまぁ職人の相手ではない。

 しかし、このギルドでは威張り散らしていた影響もあり、軽く捻られたことは大きなインパクトとなったようだ。


 まさにざまぁ職人の魅せる仕事である。これこそプロフェッショナルだ。今回のリットーゲイルことクードヴァンは、そんなことをしようなどと微塵も考えてはいなかったが……。

「すみません。新人の登録を行いたいのですが……」

 驚きどまっていた受付嬢も、フェリシアンの声を聞いて我に返ったようだ。


 クードヴァンは、左手で羽ペンを持ったが書きづらそうにペンを動かしていた。今までは口で書いてきたことと、世の中のモノは大抵が右用にできているため、こうなってしまうのは仕方ない。

 見ていたフェリシアン隊長の助け舟もあり、何とか書類への記入を終えた。


 どうやら手では字を書けないという弱点は、他のギルドメンバーや受付嬢を少しだけ安心させたようだ。さすがに15歳前後の若造が、190近い身長のベテランギルド員を軽くいなしたのだから、これくらいの欠点が無いと落ち着かないというものだろう。


 書類を提出し終えると、受付嬢は目を通しながら言った。

「……と……で、記入漏れはありませんね」

「大丈夫だと思います」

 フェリシアン隊長が言うと、受付嬢も頷いた。


「強力な新人を加入させたことを考慮し、フェリシアン隊のランクはCで据え置けるように上に掛け合ってみます。ですので早めに最低でも2人の仲間を集めてください」

 受付嬢が指を3本立てると、フェリシアン隊長も深刻な顔をしたまま頷いた。

「そうですね。このままでは……仕事の受注もままなりません」

「では隊長、さっそく行きましょう」

「うん、頼りにしているよクー!」



 フェリシアンとクードヴァンが立ち去って少しすると、凄みを漂わせる筋骨隆々の男が複数の手下を引き連れて入ってきた。

「ん……? なに寝てるんだヤラーレ!」

 言葉と共に蹴りが飛ぶと、ヤラーレは起きてすぐ男を見て表情を変えた。

「ご、ゴリモーリさん!」


 事情を聴いた筋骨隆々の男ゴリモーリは怪訝な顔をすると、ヤラーレを再び殴り飛ばした。

「ご、ご指導……ありがとうございます!」

「ルーキー風情に舐められやがって、弛んでるからこういうことになるんだ」

「申し訳ありません!」

 その言葉を聞いたゴリモーリは舌打ちをすると、受付嬢を睨んだ。

「その新人の名は?」

「く、クードヴァン君です……フェリシアン隊長の部下です」

「フェル坊か。へっ……俺様が少し揉んでやってもいいが、それはさすがに大人げねえ」


 手下の一人は、指でヤラーレの頬を掴んでヒヨコのような口にした。

「ヤラーレ……わかってるよなぁ?」

 その言葉を聞いたヤラーレは「は、はひ!」と言いながら頷いた。

「自分の不始末は、自分で片づけてきます!」

「お手並み拝見……と行かせてもらうぜ?」


 ゴリモーリたちが喋っている間、ギルドメンバーたちは誰しもが下を向いて黙り込んでいた。

 少しでもこの男に目を付けられるとギルド内ではもちろん、冒険者街では生きてはいけない。そう言われるほど恐れられている男である。


リットーゲイルの救済者 7人目:ヤ・ラーレ

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