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8.格が上がったざまぁ職人

 下剋上冒険者チームから武具を取り上げると、元リーダーは荷物を背負いながらリットーゲイルの隣を歩いていた。

「あれほど強いとは……恐れ入りました。このフェリシアンを弟子に……え!?」


 フェリシアンも驚いてリットーゲイルを眺めていた。

 リットーゲイルの角は、赤の混じる緑色に輝いており、周囲には炎交じりの気が燃え上がっていた。同時に脳内アナウンスも響いてくる。

【リットーゲイル。貴方は今……多くの迷える仔羊たちを導きました。その勇気に敬意を表し……第2の力を授けたいと思います】


 そのあふれ出す生命力に、さすがのリットーゲイルも驚きを隠せなかった。

『一体、なにがはじまるんだ!?』

【固有スキル、リットーゲイル発動。貴方のクラスを……ユニコーンからエメラルドユニコーンに昇格します】


 その言葉を聞いたリットーゲイルは、驚いた様子で立ち止まると自分の光る角を眺めていた。今までは40センチメートルほどだった角は、70センチメートルほどまで伸び、その色も緑色からエメラルドに近い輝きを持つ代物へと変わっていく。

【リットーゲイルよ。これからは森だけにとどまらず……冒険者街に出て多くの人を救済しなさい】

『え……今度はそうなるの?』

【貴殿のますますの活躍を期待します】


 話を聞いたリットーゲイルは、困り顔になってフェリシアンを見た。

『フェリシアン……どうやら僕は、冒険者街に出張しなければいけなくなったみたいだ』

 その言葉を聞いたフェリシアンは「お任せください!」と言いながら目を輝かせた。

「僕もB級冒険者の端くれ……及ばずながら、協力させてください!」



 正直に言うとリットーゲイルは、まだまだ人間のことが好きにはなれなかった。良い人間に比べて悪しき人間の数の方が圧倒的に多いからである。

 しかし、女神官、荷物持ちオッサン、そしてフェリシアンの3人だけは、例外だというのも事実だ。

『よし、君を信じようフェリシアン……』

「わかりました。道中の警護は僕にお任せください!」


 そして精霊獣として格の上がったリットーゲイルは、幾つか能力を身につけていた。

 その中でも特に重宝するのが15歳ほどの青年に化ける能力だ。しかし馬の耳や尻尾はそのまま残ってしまうので、フードを被っておかないと正体がバレてしまう。


 実際に人間の青年に化けてみると、リットーゲイルは167センチメートルほどの中性的な男の子になっていた。元々が芦毛のユニコーンだったので、耳と尻尾や髪の毛は灰色で、瞳の色だけは緑色である。

「さっきはぎ取った、ハンターローブを着てみよう」

 フェリシアンは器用にリットーゲイルに服を着せ、仕上げと言わんばかりにフードをかぶせた。


「サイズもピッタリですね……お似合いですよリットーゲイル様」

「人間の姿の僕のことは、クードヴァンと呼んで欲しい。リットーゲイルだと正体がバレてしまうかもしれない」

 ゲイルもクードヴァンも強風という意味だが、確かにここでは後者を名乗った方が賢明かもしれない。

 フェリシアンも賛成と言わんばかりに頷いた。

「そうですね。僕もその方がいいと思います」


 リットーゲイルことクードヴァンは、安心した様子で笑いながら言った。

「それからフェリシアン。僕は君の部下の魔導士になる……だから、普段はクーと呼んで欲しい。僕はもちろん君を隊長と呼ぶ」

 そう言われたフェリシアンは、困り顔のまま頬を掻いた。

「貴方様の上司ですか……これは緊張しますね」

「お気楽にお気楽に。それから隊長はもっと威厳を持たれた方がよろしいかと」


 クードヴァンの言葉遣いは、どこか板がついているかのように馴染むものだった。

 元々は気難しい勇者の元で使役されていた荷運びウマだったため、上司のご機嫌を取ることも朝飯前なのかもしれない。

 しかし、その中身はあくまで人間不信のゲスコーンである。フロント役の上司を作っておいて、その下で好き放題やるのがクードヴァンことリットーゲイルのやり方だ。

 心の奥底では人間、特に悪人を見下している彼らしいと言える。


「そうと決まると、パーティーメンバーを新たに集める必要がありますね。考えがあるので……よろしければ僕から紹介させていただいても……?」

 そう質問されると、フェリシアンも上機嫌に頷いた。

「君の紹介なら安心できる。ぜひ、お願いしたい!」

「わかりました。では早速まいりましょう!」



 フェリシアンは、冒険者街にあるアパートメントの一角に住んでいた。

 広さは日本風に言えば5畳ほど。ワラのベッドと食事用のテーブルをおけば、とても狭く感じる空間である。

 もちろんこの物語は中世時代を舞台にしているので、バスルームはおろか洗面所や洗濯機、トイレと言った気の利いた設備は無い。キッチンというほどではないが、かまどの隣に軽い調理用のスペースがあるくらいである。


 しかし、そんな空間も野宿が基本だったリットーゲイルことクードヴァンにとっては、まさに天国のような空間だった。

 上司であるフェリシアンは、上着をかけながら言う。

「むさ苦しいところですが雨風くらいは凌げます。明日にでも冒険者ギルドにご案内いたしますので、今日はここで休んで行ってください」


 彼はそういうと、自分の寝床をクードヴァンに譲り、自分は床で寝てしまった。

 何だか気を遣わせて悪いな……と言いたそうな顔をするフェリシアンだったが、ベッドの上から空いた引き戸から外を見ると、そこには夜の街並みが見えた。

「……冒険者街か」


 久しぶりだという言葉を呑み込むと、彼は引き戸を閉じてから就寝した。

 間もなく、冒険者街での活躍が始まろうとしている。


リットーゲイルの救済者 6人目:フェリシアン

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